「ジャコ萬と鉄」パッケージ写真(部分)(c)東宝49年プロ 1949年 東宝・49年プロ作品
監督 谷口 千吉 制作 田中 友幸
脚色黒澤 明、谷口 千吉 原作梶野 悳正
出演 月形 龍之介、進藤 栄太郎、浜田 百合子、英 百合子、藤原 釜足、清川 虹子、久我 美子、 他

あらすじ

三月。にしんの漁期が近い。
今年もまた津軽から、南部から、山から、畑から、出稼漁夫(やんしゅ)達が集まってくる――(冒頭のナレーションより)

にしん漁期も近づいた北海道の漁場。樺太から引き上げてきた網元九兵衛のにしん漁場に片目の大男が現れる。
大男の名はジャコ萬。九兵衛と曰く所以のある男だった。
そこへ、死んだと思われていた九兵衛の長男、鉄が帰還。凡ての事情を知った鉄は、漁場のため漁夫達のために闘うのだった。

 鉄うぅぅっ!! 好きだ――――――――っっ!!
 大好きだぁぁ――――――っ!!
 はあ。
 じゃあ、一声叫んで安心した所で始めますかね。(お前は一体何なんだよ!?)

 この作品は、東宝がストライキの嵐の時期に制作された作品です。
 1947年に企画された物が、ストの所為で中断。49年になって、東宝は「東宝撮影所をプロデューサーに貸し、各プロデューサーが「独立プロ」として映画を作る」と言う方針を打ち出しました。
 その形で制作されたのは、結局僅か5本でしたが、その内の一本がこれ。だから、「東宝・49年プロ作品」等という変なお冠が付く訳です。
 この前の年にも、東宝は四本しか映画が作れていません。「来なかったのは軍艦だけ」と言われる東宝スト騒動は、さぞや凄いシロモノだったのでしょうな。

 さて。そうして制作されたこの「ジャコ萬と鉄」
 脚本がキレていて退屈せず、今見ると却って「にしん漁場」「出稼漁夫」などがアナクロで新鮮です。
 1964年には、深作 欣二監督/高倉 健、丹波 哲郎主演でリメイクがされておりますが、三船ファンの私としては「ンな偽物が見られるか!!」で、見ておりません。ファン心だ。許してくれ。

 で、この作品。
 はっきり言います。萌え映画です。(絶対違います)
 少なくとも三船ファンには悶絶クラスの萌え映画です。萌え映画なんですってば!
 兎に角、鉄(三船)が可愛い。可愛いったら可愛い。何が可愛いって全部漏らさず可愛い。
 自己中でごうつくばりなのが災いしてジャコ萬(月形 龍之介)から追い回される羽目になる九兵衛(進藤 栄太郎)と、ジャコ萬、漁夫達の三者の間に立って闘うのが、主人公の鉄です。
 ともすれば深刻な話になりがちなのに、全くならないのがこの鉄のキャラクター。おおらかと言うか何と言うか。八方に目が届いて気が利いて、その癖開けっぴろげで憎めない。おまけに滅茶苦茶純情と来た! も〜〜〜〜〜〜〜、可愛い!!

 しかしまあ、フィルムの保存状態が目茶悪でしてね。劣化なんて生やさしい物じゃありません。
 キャプチャってもぼやけた画像にしかならず、そこから絵に起こしても苦しい事この上なし。
 三船のかわいさが再現出来にくいのが悔しい!!
 
 親父の九兵衛に飛びかかられ、反射的に突き飛ばしてしまい、お母ちゃんに怒られて、その後九兵衛にぼこぼこ殴られるシーンがあります。
 その間、手を出せずに困り顔で上目遣いに九兵衛を見ているカットが有りまして!(加速)
 この上目遣いの表情は、三船お得意の表情なんですよ。(更に加速) 拗ねてるやんちゃ坊主まんまで、も〜〜〜〜〜〜〜〜〜可愛い事この上無いんですよ!! 是非見せたい!!
 …と思って描いたんですが、どうしても可愛くならなくてボツ。くうう、手前ェの腕の無さが恨めしいぜ。
 本物は滅茶苦茶可愛いです!! 本当ですよ、も〜〜〜〜〜(中略)可愛い!!

 登場シーンが雪原で林檎食っているシーンで、大きな雑嚢を肩に担いで、しゃくしゃく食う口許が可愛い。
 舞台が北海道なので、父、母、姉をそれぞれ「おとちゃ」「おかちゃ」「あねちゃ」と呼んでいるのも可愛い。
 やるべき事はちゃんとやって、人の恋路もきちんと実らせて、その癖自分は告白すら出来ず、家族を思って去って行くのがもう!!

 鉄、格好良いぜぇぇぇ!!
 あんたは漢だよ。格好良いよぅ―――――――!!(;;)
 兎に角良い子なんですよ奥さん! 本当ですよ! 本当なんですよ!! (いい加減うるさい)
 

 そして。この映画の中で私が一番好きなシーンに、酒の席で、三船が一席やるシーンが有ります。
 「おーし、次は俺が歌うぞ!」と言って宴の真ん中に座り、
 「南洋の土人に教わった歌だ。みんな、手拍子たのむぜ。」と、言った後に始まるシーンなんですが……
 ああ、ここは文章で説明なんて出来ません!! 是非見て下さい。誰が作ったんだその歌?つーかそれ歌? 脚本にどう書いて有るんだ?! 振り付けはあるのか!? という妙ちきりんな歌を歌い踊りまくる三船が見られます。
 もー、なんつーかね!! 映画館で見た時の私の頭は真っ白でしたよ! あるいは悲鳴で一杯でした!
 映画館なので声を出す事は出来ませんから、勿論黙って見るんですが、頭の中は絶叫。もう、「可愛い」とか言う言葉にすらなってません。ただひたすら、悲鳴。
 ぎゃあああああああああああああああああああ。うぎゃあああああああああ。――それだけでした。はい。
 殺人的な馬鹿っぽさと可愛さですので、興味を持って下さった方は是非見て下さい。

 ただねえ。私、この映画は映画館三つで見たんですが、何故かこのシーン、特に保存状態が悪く、無傷で残っているのを見た事がありません。踊り出すとぶちっと切れたり、酷いのに至っちゃ歌うと同時に切れたり。
 東宝の「キネマクラブ」発売のビデオではきちんと収録されていたのですが、今これ売っているのかなあ。

 頼むよ東宝。
 映画って言うのは後生に残すべき、大事な文化遺産なんだ。何も黒澤監督作品だけが名作じゃない。フィルムはきちんと保管して下さい。
 そしてこの作品は是非、デジタルリマスターしてDVDで発売してくれ!! 保存用と見る用に二つ買うから!!

 
 
〒三船映画上演情報を見つけたら是非ご一報下さい。行きます〒

また、ミス等有りましたら、ご一報下さいませ。

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