1967年「上意討ち」ポスター(c)三船プロ 東宝 1967年 三船プロ制作 東宝作品
監督 小林 正樹
脚本橋本 忍 原作滝口 康彦
出演 加藤剛、江原達怡、大塚道子、司葉子、仲代達矢、松村達雄、三島雅夫、神山繁、山形勲 、浜村純、他

あらすじ

 
 会津松平藩、馬廻り三百石藩士笹原伊三郎は、主君松平正容の側室お市の方を、長男与五郎の妻に拝領せよと命ぜられた。武芸一筋に生きてきた伊三郎は、笹原家に婿養子として肩身の狭い日々を暮らした自分と同じ思いを、自らの子に味あわせたくは無かった。
 この命には従えぬと抵抗した伊三郎だったが、与五郎は市と誠の心を通わせ、とみと言う愛娘も得る。
 穏やかな日々を暮らす笹原家に、ある日、市を返上せよとの上意が届く。

  藩の無理非道 もう我慢がならん
  会津二十四万石 屋台骨から崩して見せる!
               (ポスター売り文句より)
 
 

 仲代 達矢と組んで撮った「切腹」や「人間の証明」で、確固たる評価が有る小林 正樹監督。
 はっきり言って、静かで硬くて厳かな様式美映画を撮る人だと言う印象が強く、およそ「三船 敏郎」と言う俳優とはそぐわない印象のある監督です。
 けれどこの「上意討ち」、67年のキネ旬の第一位にも選ばれた作品で、質実ともに非常に良く出来ています。
 三船自身も、淡々、訥々とした映画の作りに溶け込んでいて違和感は全くなく、穏和で忍耐強い武士を演じていて、見やすい。隙の無い映画作りと共に、三船と言う役者は本当に、どんな監督の色にも素直に染まる役者なのだなあ、と実感した作品でもあります。
 
 ええ。確かに、しっかりした作りです。隙がありません。
 冒頭の、ゴンドラ画像だと思いますが、桜と瓦の対比の俯瞰図も美しく、非常に上品で美しい映画です。が。それだけに。

 すっげー堅ぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!
 堅すぎ!! 休める所が一個もね〜〜〜〜〜〜〜。萌えられる雰囲気じゃね〜〜〜〜〜〜〜。一回くらい、クス、で良いから笑わせてくれ!!!!
 
 「三十郎コンビ」と言う感覚がどうしても管理人には有る、三船.仲代のコンビが見られる作品でしてね。
 冒頭から三船、仲代の2人が、殿の刀の試しをしているシーンから始まります。2人とも「剣豪」と言う設定なんですね。
 浅野 帯刀(仲代 達矢)と、笹原 伊三郎(三船)。
 ただ、この2人、いつもと印象が逆。ぎらついて、腹に一物二物持っていそうな仲代に対し、三船は至って静かで大人しい。ぎらついた雰囲気は影を潜め、すっかり真面目な武士なのだ。
 すが(大塚 浩子)の家に養子に入り、肩身の狭い思いをしながらもずっと黙って耐えて来た武士。……む。
 すまん、これどっちかっつーと地の三船に近い気がするんですが。
 あ、勿論奥様の幸子さんが悪妻と言う意味では決してないです!!
 あの方は、有る意味母のような大きな心で、三船を見守って来られた強くて優しい女性だと思っております。この場合の「すが」は黒澤あ…とか稲垣ひ………ごほごふげふ!!
 
 さて、その耐えて来た伊三郎。常々息子には同じ思いをさせまいと思っていた所に、殿様からの命令が。
 ぶっちゃけて言っちゃえば、殿様の側室を下げるから、お前の息子の嫁にしろ、と言う事お達しです。つまりこれが「拝領妻」って訳ですな。
 当然、伊三郎は拒むのですが、息子の与吾郎(加藤 剛)はこれに従い、お市の方(司 葉子)を嫁にした所。これが良い嫁なんですわ。
 美人だし、気だては優しいし、愛情溢れるいい女だし。与五郎だっていい男です。生真面目でまっすぐで、父を見て育ったので気遣いも有り。なので、無理に引き合わせられた仲なれど、与五郎と市は本当に愛情を結び合う訳ですな。
 一番これを喜んだのは伊三郎で、市が城を追い出されるに至った悲しい事情を聞き、心から息子とこの嫁を守りたいと思うのです。
 ところが。とみと言う娘も生まれて、幸せな笹原家に不吉な報せが。
 世継ぎが死に、かつて市の生んだ子「菊千代(う〜〜ん、どうしても七人を思い出しちゃう…)」が、世継ぎと決まったので、市に城へ帰れと言うのです。
 
 がんとして首を縦に振らなかったのは伊三郎です。
 「俺は、少しばかりの剣の腕を見込まれ、この笹原家の養子に迎えられた。二十年余り、ただ藩のために勤め、他に何の取り柄もないクズな男だ。
 敢えて言おう。俺はクズな男だ! しかし、この俺がこの事にだけは何故、このように意地を張るか。
 それは。お前達の間に俺にはなかった、俺には少しもなかった、愛という物の繋がりを感じたからだ。
 与五郎! いち! 俺に誓え。どのような事があっても離れぬと、この父に誓え!!」
  
 勿論、誓った2人なのですが、周りの謀りでいちは戻され、「返上願い(いちを城に返したいと言う嘆願書)」を出せと迄言われちゃう。
 嫌だと言う与五郎に、「葬式済んでの医者話はよせ」と息子をたしなめ、返上願いを手に伊三郎は登城します。
 これで凡ての厄介事は済んだと、喜んで返上願いを受け取る老中の目に飛び込んだのは、返上願いとは名ばかりの「いち返還嘆願書」だった訳です。
 そこからはさあ大変。会津藩を相手取っての、伊三郎の大謀反が始まる訳なんですが………。
 
 ここにも、ワクドキ要素一個も無し!!
 ただひたすら、一人殺され2人殺され、手足をもがれて死に向かう武士の姿が有るだけで……痛いよ!! こう言う痛さは萌えられね――よ!!
 帯刀いわく、「押されれば引く。なお押されれば引く。しかし進退窮まったと見るや体を逆にして攻める。それが、お主の剣だ笹原。」
 その通り、追いつめられれば追いつめられる程強くなる伊三郎なのですが、でもやっぱ限界はあるのだ。
 あんまり伊三郎が強いので、鉄砲隊が出るのですが………。
 この時代の時代劇で、主役があちこち撃たれまくって死ぬとはお、思わなかったよアタイは〜〜〜〜〜!!
 しかも、腕とか脚から撃たれてじわじわ追いつめられて行くし、白い着物が、白黒なので血で真っ黒に染まっていく。血しぶきドバではなく、じわじわじわじわ染まっていく。肩口や袖が口を開けて、また三船の呼吸が!!
 「呼吸の三船」が!!
 大体いつもは「う――っ」って食いしばった唸り声の三船ちゃん。このシーンでは赤ん坊を抱いて、兎に角走らなきゃいけない所為か、呼気だけでなく吸気もしっかり聞こえるのですが、「ひ――っ」になってて………
 やめて〜〜〜!! 苦しい〜〜〜〜〜〜!!
 
 この映画。実は殺陣が一つの売りになっておりまして。
 枯山水の庭その他で行われる一連の殺陣はそりゃもう。滅茶苦茶美し格好良い。
 殺陣師は久世 竜。漫画っぽい殺陣だとは思うのですが、この人と組んだ時の三船の殺陣は、本当に人を斬れそうな殺陣に見えます。
 西洋の剣術と日本の剣術の違いは、構えの重心の低さと、腰を中心とした体重移動に有ります。そう。
 日本の殺陣は脚使いと腰で見るべしなのだ。腰の伸びきった殺陣なんて殺陣じゃないよ。西洋のフェンシングかダンスだよダンス。
 兎に角腰だ腰。地面に根を下ろした、揺らがない腰です。要と言われる通り、人が本当に斬れそうな三船の殺陣の神髄は、その腰にあると私は思うのだ。三船の腰!! 腰に注目ッスよお客さん!!
 あ。先に言って置きますが、私は当然、剣術なんてど素人です。剣の何たるかなんて存じません。本当に人を斬る剣なんて見た事有りません。だからここで言っている事もあくまでも感覚ですので、その点ご理解下さい。
 素人にでも言える事は、この人の歩き方は確かに腰に大小さして歩く事の出来る人の歩き方だと、それだけです。大小さしたまま、走れる人だと言うだけです。
 さて、その腰で展開される殺陣。
 凄っっっっっっっっっっっごく格好良いです。
 じりじりとした脚捌き。一端静から動に移ると、流れるようなその速さ。頭のブレない剣捌き。他にこんな殺陣出来る人、見た事無いです。TVのチャンバラもんや東映の殺陣とは全然違います。既に美しい。
 
 ただな〜〜〜〜〜〜〜〜〜。
 こんな所まで小林 正樹監督作品なんですよね。もう少し殺陣は漫画っぽい終わりで良いんじゃないか。そりゃリアルさを追い求めればああだろうけど、クライマックスが無いのよ。 後一息!! 嘘でも良いから盛り上げて終わってくれ。一押し入れてくれたらマジで来たですよ!!
 一瞬も萌える隙を許さない、それが小林 正樹作品なのだと、私はこの作品を見て思い知ったので有りました。
 
 でも、何故か後年、「笹原 伊三郎」という名のキャラを描いた奴がここに。
 そのきっかけが、切腹を申しつかる時の伊三郎さんだったとは、とても言えない。
 「ふ……ほほぉ切腹。儂はまた、首を切られ、市中引き回しくらいにはなるかと思ったが、潔く、武士としての最期を遂げさせて下さるか。では遠慮なく……」
 「父上!?」
 「しかし、こちらも切腹する前に所望の物が御座る。―― 首を三つもって来いッ!!
 で、きゃ―――――!! と隙を見て萌えたからなどとは、とても言えない。
 

 解説中の台詞は、管理人が映画館で見た時に、必死扱いてメモった物を載せておりますので、正確では有りません。
 この作品、一度しか見るチャンス無かったですもん。でも全部覚えるつもりで必死に見たですよ。

 
 
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また、ミス等有りましたら、ご一報下さいませ。

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