1965年版「太平洋奇跡の作戦 キスカ」ポスター(c)東宝 1965年東宝作品
監督 丸山 誠治 制作 田中 友幸、田実 泰良
脚本須崎 勝弥 原作千早 正隆
出演山村 聡、佐藤 允、中丸 忠雄、藤田 進、田崎 潤、西村 晃、志村 喬、平田 昭彦、児玉 清、土屋 嘉男、黒部 進、堺 左千夫、山本 廉、二瓶 正也 他オールスターズ

あらすじ

 昭和十八年五月二十九日、北太平洋アリューシャン列島のアッツ島玉砕。引き続き一二○浬離れた孤島キスカ玉砕は時間の問題となった。
 大本営海軍部の司令長官川島中将は、五千二百の守備隊見殺し説の強い中で、キスカを救う道を取る。
 この作戦の司令官になるべく、遠く南のラバウルから一人の軍人が呼び寄せられた。
 その日から、大村海軍少将を中心にキスカ島無血撤退の準備は着々と進められて行ったのだった。

 封切り時に、映画の上映が終わると同時に拍手喝采になったと言う逸話を持つ珍しい戦争映画がこれ。
 どれどれ?とオールナイトに出向き、終わった時に同じく拍手喝采して帰って来ました。
 旧日本映画のオールナイトに来る奴なんて、多くがオタクと相場が決まってます。だから、この逸話を知った上での所行なのでしょうが、それでも私は嬉しかったです。理由はどうあれ何十年の時を経て 、同じ画像を前に同じように拍手喝采出来た事が、私は滅茶苦茶気持ち良くて嬉しかったのです。
 
 この作品は、敗戦の色濃い時期に「勝つか負けるか」ではなく、「救出」をテーマに撮られた作品です。
 筋立て自体が爽快感が強く、そこに持ってきて、また司令官である大村少将のキャラが非常に立っていて格好良い。爽快感は300%増し(そんなにかい!)で、ラストはすこぶる気持ち良く終われます。
 大村少将=三船は、史実上は木村昌福(まさとみ)少将。映画化に当たって名前をもじったようです。
 詳しい史実をお知りになりたい方は、木村昌福の名でWEB検索をすると、ぞっとする程微に入り細を穿った戦史の頁がガンガンヒットしますので、そちらでお調べ下さいませ。

 さて、この大村昌太郎海軍少将。(音でしか聞いてないので、字は誤りかもしれません…)
 済みませんが、管理人、激好きです。三船のやったキャラクタ中、確実に十指に入ります。

 その大村少将、司令長官川島中将(山村 聡)に呼び寄せられて、南のラバウルからはるばる幌筵(ぽろむしろ)に帰って来ます。
 「海軍少将 大村昌太郎 第一水雷戦隊司令官としてとしてただいま着任!!」と敬礼すると川島中将に軽くいさめられます。
 川島 「おいおい、他人行儀はよせ。同期の仲じゃないか。」
 大村 「(にやり)しかし、貴様もよくよく運の悪い男だぞ。兵学校をドンケツで出た俺と組まされるとはな。」
 すると、今回の作戦に貴様を推薦した奴がいるんだと川島。
 「ほう……誰だ。」
 「俺だよ。」
 「何。貴様か俺を呼んだのは。」
 「あはははは、ちょいと来て貰った。」
 「何がちょいとだ。南の果てから北の果てまで。」
 「まだまだここは北の果てじゃないぞ。」
 「まだ先へ行けというのか。」
 「うん。……キスカだ」
 これを見る迄、山本五十六だの東郷平八郎だの山口多聞だのと、厳格で「これぞ軍人」タイプのキャラしか見ていなかった所為か、大村さんは砕けているわ軽妙洒脱だわで、私には物凄く新鮮でした。
 無茶な要求を平気でするわ、わざと相手を怒らせたりした後で、肩をぽこんと叩くわ。おまけににこっと笑って「そうか。怒ったか。たまには怒った方が良い。戦争をしとるんだからな、戦争を」と言っちゃう辺り、国友参謀(中丸 忠雄:若い士官)とその仲間が「食えんおやじだ……」と言うのにも頷けます。

 余りにもざっくばらんでマイペースなので、国友参謀に「司令官は無礼です」と怒られたりします。
 これまた「怒っとるのか。」とあっさり聞いてしまうと、「勿論です!!」。
 士官の怒りを、うん、うん、と一通り聞いた後、ぽつんと「それは逆じゃあないのかな。」
 「川島の友情のためだとか、長官の厚意に報いようだとか、そんなちっぽけな気持ちでは判断を誤る。失敗するに決まっている。
 礼はいずれ纏めて言う。しかしそれは、キスカの5200名を無事に連れて帰った後だ。」
 訥々と語られる言葉に、国友は大村に従おうと思うのです。
 
 キスカ救出の方法は、川島から授けられた作戦。「ただ一つ、霧だけを頼みにして」つまり「霧隠れの術」であります。
 霧に乗じて米国軍の戦艦と潜水艦をやり過ごし、こっそりキスカ湾に入って救出して帰ろうと言う方法。相当……無茶というか大丈夫なのかそんなんで!?なドキドキ作戦です。
 濃霧の中を、無線封鎖して発光信号だけで巡洋艦2隻、駆逐艦10隻、海防艦1隻の計13隻が一列になって100浬(かいり)以上も進むと言う事。どう考えても無茶なんですが、それしか方法は無く、大村艦隊はこの手で出発いたします。
 一回目の作戦では、湾に入る直前に霧が晴れてしまい、泣く泣く帰ります。ここ迄来たんだから行きましょうと騒ぐ部下達に、司令官(大村海軍少将)は静かに撤退を宣言します。
 一番辛いのは司令官だと思うんですけどね。だって帰れば、どんなそしりが待っているか想像に難くないし、何より「成果」を上げられないのは凡て司令官の責任なんですから。
 「引き返す。――― 帰れば、また来る事が出来る。」
 何か、当時の自分の状況と重なって、非常に胸に響いた一言でした。
 全くその通り。だけどそれが出来る人は少ない。無理して焦っていつも失敗の私には、大村少将、滅茶苦茶素敵です。
 

 救出できずに幌筵に帰れば、当然非難囂々です。
 非難には脅かされない司令官も、米艦隊のキスカへの攻撃が熾烈を極めていく中、キスカの将兵への思いには苦しみます。
 「俺はこの年になって、初めて祈ると言う事を知ったよ。もう一度出かけるまで、敵が上陸しないように……川島、貴様も祈ってくれ。」
 戦果を挙げずに帰って来た大村艦隊への突き上げはキツイ。意気地なしだの腰抜けだの。それでもじっと霧の発生を待つ大村に、周りは気が気じゃありません。
 気象班長(児玉 清)が「霧が掛かると嘘を吐いてさっさと弱虫司令官をキスカに送り出せ」と責め立てられて、嘘を吐きます。司令官は
 「よし。船から下りてくれ。」
 「…はっ?」
 まあ、霧が掛かるとなればもう、気象予報は必要無いですから。後はこっちで引き受けると司令官に言われて、気象班長がっくり。
 「司令官……霧は三日と保ちません。………済みません。」
 班長の顔をのぞき込む少将。怒りもせずにばしんと肩を叩いて
 「勇気をもて! 学者の良心をわすれたのか。」
 …………格好良いなあ。絶対、全部分かっているでしょう、司令官。
 
 さて、7月も後半になり、海が暖かくなって霧の発生が無くなるギリギリの時期に、やっと霧の大量発生が訪れます。13隻の大村艦隊は、再びキスカへと旅立つのです。
 ここからの海と、霧と、13隻の艦隊と、見えない米艦隊との静かなる攻防は、円谷の特撮技術も相まって非常に面白い出来上がりになっております。
 濃霧の中、発光信号だけで海を渡る13隻の艦隊。この描き方が格好良い。
 白黒の画面で、霧の向こうから姿を見せる阿武隈とかね、国後の突進とかね、岩陰をエンジン音を響かせながら滑り寄る艦隊とかね、格好良いんですよ。この緊迫感は素晴らしいですよ。この映画が「特撮物」として高い評価を受けている理由は、この後半だけを取ってみても充分分かります。
 前半にも日米の陸と空の攻防等が有って、B24が墜ちるシーンとか、潜水艦と救護廷のカットとか、今見ても良い感じです。

 兎に角「奇蹟の作戦」と呼ばれる通り、数々の偶然が重なって成功したこの作戦。
 最大の作戦成功の原因は、作戦が実行されたのが7月29日だったと言う事です。
 史実での流れはざっとこうです。
 5月29日のアッツ島攻略以降、米艦隊はずっと海上封鎖をしています。ところが、7月23日にレーダーに映った岩陰を日本艦隊と思って猛攻し、挙げ句武器や燃料を使い尽くし、まさに作戦当日の29日の午前中にキスカ周辺の海上封鎖を解いて、後退します。
 キスカ島周辺105浬には、米艦隊はいなくなった訳です。そこへ、救助隊の日本艦隊が滑り込み、まんまと5200人の兵隊を救助して作戦を終了。
 米艦隊がもどって来た時には、そこには犬二匹しか居なかったのです。(犬に関しては騒がないように。これは史実だ。戦争なのだ)
 こうした偶然が有ったからこそ、この作戦は成功したのです。
 だってそうじゃなきゃ……素人が聞いてもどう考えても無謀としか言えない作戦だもの。
 

 大筋は同じではある物の、映画では多少流れが違います。何処までが史実でどこからが創作なのか、私には分かりません。が。
 海の上の大村司令官、そりゃ格好良いんですよ〜〜〜〜〜〜!
 上記の霧の中の盲行進の中、海防艦「国後」が行方不明になります。衝突の恐れがあり、慌てる皆に
 「まだそう遠くまでは行っとらんだろう。ぶっぱなしてみい(大砲の事)。」………いや、あの。
 米艦隊にびくびくしながら進んでいる最中だっつーのに!! 一瞬皆さん退いてますが。
 「しかし……付近には敵の船がうろついています。」
 「十浬以内だとすると砲声を聞かれる可能性があります。」
 司令官 「あちらさんにはレーダーがある。聞かれるくらいならとっくにみつかっとるよ。」
 艦長 「一か八かの勝負です。敵が現れるか。国後が現れるか。」
 司令官 「うん。ぶっぱなせ!」
 おかげで、国後は帰って来ます。ルートが反れていた為に、旗艦「阿武隈」とぶつかって、国後は護衛を二隻付けて幌筵に帰る事になってしまいますが。
 また、大村艦隊は穏やかなキスカ湾への入港を止め、狭くて潮流の早い島の西岸へルートを変えたりしています。皆にこぞって反対される物の、同時期にキスカ湾で米艦隊の砲声。どうも岩陰を敵艦隊と見誤ったらしい米艦隊の猛攻が三時間続きます。
 素直にキスカ湾に入っていたらおじゃんだった訳で、司令官の決断に九死に一生を得ます。
 しかし、命拾いしたのも束の間、今度は潮流の早い、切り立った岩壁の狭い航路を進まねばならない。艦長が冷や汗びっしょりでじっくり進んでいるのに、涼しい顔の司令官。さっさと艦長の場所に立って「全速前進」と言い切って艦長をビビらせたり。
 も〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ。(映画館で密かにじたばた)
 その切り返し、毒気のない三十郎でしょう絶対!!(黒澤明監督作品「用心棒」の主役。取り扱い予定有。)
 いや〜〜〜〜ん、素敵〜〜!! 軍服の魅力にましてその飄々ぶりが滅茶苦茶素敵〜〜〜〜!! 司令官らぶ!!
 

 その後凡そ半月
 百隻の艦隊支援のもとに陸兵三万五千の上陸を敢行した米軍は二昼夜に亘って同士討ちを演じた結果、キスカ島には犬二匹以外日本軍は一兵もいないことを知った。
 

 救出作戦を成功させ、このテロップと共に物語は終わります。拍手喝采になるのも無理も無い所でしょう。
 ただでさえ美味しい史実を、更に美味しく仕上げた、冒険活劇とも言えるこの「キスカ」。
 脚本の須藤さん、すばらしい!! 円谷さんも丸山監督もベリベリ有り難う。マジで面白かったです。
 白黒で円谷模型の旧作ですが、下手な海洋物見るよりも、マジでハラハラドキドキ面白いので、チャンスがあったら是非見て下さい。特に戦艦、戦闘機好きの男の子。本当にイカしてますんで是非!!
 一見の価値絶対有りまっせ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!
 

所で、「キスカのマーチ」って、鉄腕アトムに聞こえるんだがそこの所どうよ。

 
 
 
〒三船映画上演情報を見つけたら是非ご一報下さい。行きます〒

また、ミス等有りましたら、ご一報下さいませ。

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