まあ、何と言っても初めに見た三船出演作がこれだったので、これを初っぱなに上げずばなりますまい。
私が見たのは、黒澤フィルムが凡て焼き直される時期でした。旧プリント最後の上映と銘打って、今は無き旧池袋文芸坐にて黒澤祭が公開されました。そこの封切りフィルムが、この「七人…」でした。
A/Tは、見る映画の情報は可能な限り知らずに行きます。劇場で驚きたいからです。
旧作映画を全く知らず、黒澤 明を「黒パンのパパ」としか知らなかった私は、「何だか名作らしいから」と、軽い気持ちでこれを見に行きました。
ほぼ初のスタンダードフィルム!! ガサガサの音声!聞き取りにくい、耳に付く日本語。読みにくい描き文字。
「七人…」の観覧は、とまどいから始まりました。
内容に関しては言われ尽くされているので言う必要は無いでしょう。名作です。紛れもなく。
でもそれは、菊千代と言うキャラクタがあって初めて得た称号だと思います。
このキャラクタは、脚本が相当出来上がっていた段階で発生したキャラクタだそうです。
「武士」と「百姓」を結びつける攪拌棒キャラ。現代と違って、身分の差がはっきりしていた劇中の時代には、物語にリアリティを持たせるには必要不可欠な存在です。このキャラが居たからこそ、観客は「武士」と「百姓」の両者の置かれた立場を公平に見る事が出来たんです。
出来上がっていた物を崩すのは難しい。それを強行した脚本陣の勇気と頭の柔らかさに大感謝です。この要素が無かったら、これ程のスペクタクル大作にはならなかったでしょう。
興奮するし、泣ける。も〜〜、泣かせてくれる泣かせてくれる。ハマルと際限のないA/T、初見の「七人…」では、三回くらいべそをかき、握り拳で見たのを覚えています。
で、私が述べるべきは、その菊千代=三船ですな。
出演者の欄に三船の名前は書いてませんが、この頁に掲げるのは凡て、三船出演映画と言う事で、大前提としてご理解下さい。
で、その菊千代。
劇中初盤、勘兵衛(志村 喬)にガン飛ばしている猿(失礼)がいるんですよ。綺麗な顔立ちなんですが、その目つきと言い、立ち居振る舞いと言い猿なんですよ。何だろこのエテ吉(すみません。本当にファンなんです)と思っていたら、それが三船でした。
もうその時の衝撃ったら。
それまでの私は「三船 敏郎」と言う役者を知りませんでした。
「世界の三船」と言う言葉は知っていたし、「ん〜〜寝てみたい」CMとか「ジャワテーストレートッ」CM(両方物凄く古いな〜〜)は知っていましたが、「誰だこのオッサン?」と思って居たんですね。
それが、この綺麗な猿(ファンですってば)のふとした表情に三船を見つけて、「三船 敏郎」と言う名と存在が合致した時の衝撃。何故か分かりませんが、即行ファンになりました。
三船中心に歪んだ心で見れば、萌えポイントは……あ〜〜〜多すぎて数えられません。
視覚的な面で行けば、まず、標準で裸(ら)です。
黒澤は、三船の身体は客が呼べると判断したんでしょう。黒澤にしても、谷口千吉にしても、山本嘉次郎組の監督の撮る映画には、「それは無理が有るだろう」と言う三船の裸が多いんです。
確かにその審美眼は正しいと思うし、イケてる判断だと思います。思いますが。
物には限度という物が有るだろう。
何を考えてあの衣装なのか。ポスター見て頂けばお分かりの通り、菊千代のベースの服装が半裸とおぼしき鎧姿。普段着の浴衣のようなつんつるてんの着流しも、始終前が乱れて太股や腹が見えるのは標準、酔えば乳首は見えるし、着てない方がいやらしくないっつーの!
菊千代のキャラが猿(大ファンです)なので、淫靡ではなく健康的に自然に見られる物の、どうしても制作側に立って考えると、そこに色々な計算があったとしか思えません。
ああ………、でもこの猿可愛かったです。(それでも猿って言うんですね)
三船、当時で34歳なんですが、子供みたいな役にばっちりハマッてました。地では死んでもやらない、素っ頓狂なお茶らけ演技が炸裂しているのがくすぐったい程。
後足で地面を蹴って笑うシーンが有るんですが、「あれは俺が考えたんだ」と言うちょっと自慢げなコメントが有って…………いや、何というか、そうですか。何だか聞いてるこっちが照れちゃう。
予定を大幅に延期し、雪がちらつく極寒の三月に、ラストのずぶ濡れの戦闘シーンを撮って「七人…」の撮影は終わったそうです。
三船はその中で、ず〜〜〜〜っと上記の格好。しかもそのまま死にます。カメラは脚の方向からのアングル。
最初は只、菊千代の死に涙した私も、何度か見る内にどうしても「黒澤〜〜〜!! こりゃどういうアングルなんだ〜〜〜!!」と思わずにはおれませんでした。
まあ、ご本人が「ケツっぺた出して死んでたのが米国でウケたんだ」とご満悦のようなので、1ファンとしてはどうこう言う筋ではありませんが。
何にせよ、むちゃくちゃなロケーションと撮影話を聞くにつけ、当時の日本人の頑強さと我慢強さをひしひしと感じずにはおれない作品でありました。
作品としてもキャラとしても、俳優発掘の意味でも大興奮の内に3時間27分の「七人の侍」は終わり、すっかり三船ファンになった私は、ドキドキしつつ、帰途についたのでした。
一緒にやった「黒澤映画の予告」にて見た「酔いどれ天使」「生きる」を胸に、この祭に日参しようと硬く決心しながら……