1948年版「酔いどれ天使」ポスター(c)東宝 1948年東宝作品
監督黒澤 明 制作本木 荘二郎
脚色植草 圭之助、黒澤 明
出演志村 喬、山本 礼三郎、中北 千枝子、木暮 実千代、千石 規子、飯田 蝶子、進藤 英太郎、殿山 泰司、堺 左千夫、久我 美子、笠置 シヅ子 他

あらすじ
駅前のヤミ市附近のゴミ捨場になっている湿地。その小さな沼のそばに「眞田病院」は有る。
眞田病院長はノンベエで、真っ直ぐで情に厚いが口の悪い男だ。ヤミ市の顔役、松永はピストル創で眞田の世話になり、その際に肺病についての注意を受ける。
血気にはやる松永は眞田に逆らうが、体力の衰えの自覚から、徐々に眞田に警戒心を解いて行く。
病気を怖がらないのが勇気じゃねぇぞ。恐い物を怖がるのは当たり前だと、松永を諭す眞田だが……。

 またも質問から初めて申し訳ない。
 松永(三船)と眞田(志村 喬)がダンスホールの前で会話するシーンが有るじゃないですか。
 「タンゴはいいね。クイッククイックスロー」
 「へっ。馬ァ鹿。ありゃタンゴじゃねぇよ。ブルースだぃ。」
 「ふん。楽隊が悪けりゃ、ブルースもタンゴに聞こえら。」
 この一連のシーンに、ずっと後ろで掛かっている「ブルース」は何でしょう。凄く好きなのですが、音楽に疎い私はこれが何時の時代の何処の曲なのか全く持って分かりません。
 何方か音楽に詳しい方、お教え頂ければ幸いです。もしご存じの方がいらしたら、この頁の下の「三船映画上演情報を見つけたら是非ご一報下さい」をクリックして、現れるメイルフォームから一言お教え下さいませ。
 よろしくお願いいたします。

 さて、お願いも終わった所で「酔いどれ天使」ですが。
 え―――――……… 作品の出来的には凡作ですよね。
 管理人は前述の「黒澤祭」で、劇場二本目に見たのがこの作品だったのですが、三船ファンだから何でもOK状態だった物の、ストーリィ的には纏まりを欠き、メッセージもぼんやり弱く、監督だけが満足しちゃった嫌いが強い作品だと思います。
 松永を出してみたら面白かったのでそっちに傾いてみました、と言うのが見え過ぎて、黒さんのエセヒューマニストぶりも鼻につく。久我 美子の優等生ぶりとの対比もわざとらしさが拭えず、死んで行く松永の悲惨さも伝わらない。…と言う、作品としては余り誉められない物だと思います。
 すまんね。三船ファンで有る事と、作品を判じる目はやっぱ別なのよ。監督が黒澤であれ誰であれ、不出来な物は不出来です。私的な価値観で言えば、この作品は世に言われるような名作では決してありません。
 この作品が誉められるのは、「黒澤作品だから」。
 そしてもう一つ。
 やがて世界的な俳優となる三船敏郎の「出世作」で有るという理由でしょう。
 

 三船にとっては、これは三作目の作品に当たります。
 一作目は監督の谷口 千吉と共にダブルデビューの「銀嶺の果て」。二作目は山本 嘉次郎監督の「新馬鹿時代(前後編)」。そして三作目が当作であります。
 一作目が強盗殺人犯で、二作目とこの三作目がヤクザ。周りから見た三船像と言うのが余りにもはっきりしたこの役回り(笑)。見事です。

 さてその三船ですが。
 役柄はヤクザの松永。役職的には何だろう。若頭…? 役員の弟分とかそんな感じなんだろうか。兄貴分の岡田が人を半殺しにしてしまい、刑務所に入っている間に台頭した弟分って感じです。
 ショバを任され、道行くヤクザがこぞって彼に挨拶をし、とびきりの女も彼の物。順風満帆の彼に訪れたのは「結核」と言う名の危機。結局彼はそれに負け、兄貴分に負けて死んで行くのですが……。
 27才の三船。いや〜〜〜、美しい。も〜〜、整ってます。整い過ぎ。
 何だか黒さんの撮り方だと、綺麗を通り越して気持ち悪い顔に見えるのは何でなんだろう。
 特に後半、顔色が悪いのと、頬のそげた感じを出すためにドーラン(だよね?)の厚塗りが激しくなっていくのですが、や、やり過ぎです。そこ迄やらんでも分かります。せっかくの綺麗な顔が気持ち悪くなっちゃう一因は、そこらにも有ると思うんですが。
 しかし本当に美形ですよ。
 かっきりした鼻の線に、オールバックの為の長い前髪が落ちかかってセクシー。腕っ節の強い洒落者って感じのキャラです。
 ダブルの背広にボーダーのタイ。通りの花屋で一輪だけバラ(カーネーションにも見える)を買って香りを楽しみ、胸に挿す。革か合皮かのロングコートで煙草を咥え、雨の中を傘も差さずに闊歩する。
 うなされて見る夢の中では、黒のスーツの上下に白の長いスカーフ(マフラー?)と、一々バタ臭く決まったファッションで、「ああ、黒さん新しいおもちゃ(失礼。あくまで比喩です)手に入れて楽しんでいるなあ」と言う感じが伝わってきます。
 とかくヤクザ。刹那的が格好良いと思いこんで譲らぬ人種。松永もご多分に漏れずそうしたキャラで、粋がるわ叫ぶわ暴れるわ。豊かな黒髪を乱して、鶏のトサカ状態になっての新人三船の熱演には、どうしても本人が透けて見える気がするのは何故でしょう。
 この人って、この二年前迄は本気で俳優を人間のクズだと思っていた節がある。
 叫ぶ松永の一部には、やはり当時の三船がいたのではないでしょうか。
 

 若三船に興味を持たれた皆さん。最大の萌えポイントは初登場のシーンなのでお見逃し無く。
 まず三船が画面に出てくるのが、眞田先生の診療所です。手を撃たれたのを「ドアに挟んだ。釘が出てた」と言う名目で治療して貰い、眞田先生に意地悪されて痛い思いをするんですが、ここでなく、その次。
 咳をする松永を「胸をやられているんじゃないか」と脅かして診察するシーン。
 「怖いんだろ」と言われてムキになり「診て貰おうじゃねぇか!」と、着ていたアロハシャツを脱ぎます。苛ついた仕種で、診察用の椅子にどっかと腰掛けた途端。
 画面の半分にでっかく三船の背中が!
 …………………………………………………(深呼吸中)………………………………………………
 いや〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっっ!! 綺麗な背中〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!
 せ――――くし――――――――――――――――――――――――――――――――!!(やかましい)
 すべすべで引き締まってて肩幅が有って、う、美しい!!
 これを見る為にも、どうぞご覧あれ。

 え? それだけかって? いや、他にも色々有りますよ。
 酔っぱらって眞田先生の家に転がり込み、管を巻く所。叱られて拗ねてる後ろ姿。喀血して倒れた、憔悴しまくった横顔。げっそりして沼を見つめるうつむき顔。縦縞のパジャマ姿。「一緒においでよ。苦労はさせないよ」の逆プロポーズ。
 凡ての若三船、どうぞご堪能あれ。

 
 
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また、ミス等有りましたら、ご一報下さいませ。

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