□ SOMETHING CAFE □
■ SOMETHING CAFE ■

 
 
□ 奪還 □

 

 週明けの月曜。
 粗方の予想通り、国会は波乱含みの展開で始まった。
 午前中に野党から内閣不信任案が提出された。午後の本会議でこれは否決された物の、以前に出された問責決議可決に相まって、内閣はその日の内に解散予告を出した。実質上は19日に衆院を解散し、選挙公示、投票後に正式に衆議院を解散するという異例の方法である。
 支持率は10%を喃喃とする位置まで来ていたが、この段階でも即解散を避けたのは、戦後初めて左翼独裁政党に政権が移るショックを和らげる為の苦肉の策で有った。だがどうにも間が抜けている。これでは、衝突事故のエアクッションの役目も果さぬだろう。
 事ここに到る迄に、幾つも危機回避の曲がり角は有ったのだ。保守層は騒ぎ、危機を訴え続けたが、その凡てをメディアと財界が潰した。支那と言う市場を失いたくない財界が対支那政策の凡てにNOを叩きつけた。支那朝鮮民族に屈したメディアがそれら凡ての情報を握り潰した。弱腰で盲の政界はそれに容易く屈し、運命の日を迎えたのだ。
 運命の日。日本解体プログラムの第一段階完成日。その日に到って初めて、政権は足掻いてみせた。
 間が抜けている。危機を訴え続けた一部の日本人達はその失態に嗤い、同時に己の無力さに涙した。没落した戦後日本の姿は、かくも浅ましく情けない。
 日本国はゆっくりと、だが着実に、滅びの日に近付いている。
 政権の任期満了まであと三年、早まったのではないかと言う声と、いや、遅すぎたと言う声が入り混じった。
 現時点の閣僚には、解散予告に反抗する気骨の有る者など一人としておらぬから、順番は前後しても、早々に解散閣議書作成、全大臣の署名が為され、天皇陛下の御璽押捺、解散と相成る。
 40日以内に衆議院総選挙、現内閣解散、新内閣発足、国会召集と言う順番になる。国家情勢の乱れる折、二月もの間の政権の不在は、先進国では通常考えられない。現政権の最後の国家に対しての貢献は、せめてもそれを防ごうと言う悪あがきだ。
 有事に備える為に、解散予告の形で解散を為したのは現政権の最期の悲しくも間の抜けた良心で有った。
 そして。
 遅くともこれより二ヵ月後には。
 戦後日本に初めて、外国の傀儡政党単独による、日本国家の統治が始まるのだ。
 
 月曜朝。早朝。
 SOMETHING CAFEの看板娘は、この数ヶ月で何度目かの悲鳴を上げた。
 もともと、若い娘は直ぐに黄色い声を上げるものだが、看板娘のそれは多少種類が違う。黄色い声と言うよりは怒号に近く、若い娘と言うよりは、母の物に近い。彼女がこの声を出すのは、決まって不惑も後半に入った、喫茶店店主に向かって、である。
 「マスター!! 一体それ、何ですかぁ!」
 朝一番。7時前の店内に看板娘、奥田 早紀の頓狂な声が響く。長沢は反射的に御免なさいと頭を下げてしまった。
 昨日の事である。
 殉徒総会港区支部、ステラミラー・ビルから放り出された所までは、長沢も何となく覚えている。
 だが、続く記憶が曖昧で、気がつくと大勢の男たちに見下ろされているボケた世界にいた。
 ボケていたのは、両目のコンタクトレンズがどこかへ行ってしまったからだし、覗き込んでいた男達の正体は、何人かが赤坂署の警察官で、何人かが(株)バッカーのスタッフで、何人かが殉徒総会員と後から知った。
 ぼおっとしていたので、何故かパトカーで病院まで運んで貰い、それなりの手当てをして貰ったが、あれは大いに失敗だったと今は思う。
 どう考えても、殉徒総会ビルの真ん前に救急車に駆けつけて貰うべきだったのだ。サイレンを鳴らし、赤色燈を回し、あのビルの真ん前に居座るべきだったのだ。それが後々完璧な方法だったのに。殉徒総会となぁなぁの所轄の言いなりになって、パトカーに乗ったのは、どう考えても下手を踏んだ。
 ただ、その態度がどうにも気に入らなかったので、所轄内の虎ノ門病院を避けて丸の内病院へ運ぼうとするのを、頑として拒否したのは正解だったと思う。
 所轄外で構わないから爛天堂大学病院まで運んでくれ。そうしてくれないなら降りないし、この場で人事不正になるぞ。頭から血を流した男にそう言い張られて、警察官は嫌々指定の病院に運んだのだ。
 ぼおっとしていたからこその快挙であり、ぼおっとしていたからこその失敗だった。
 いずれにしろ、休日の、しかも救急で有ったから、月曜に改めて行かねばならず、最寄の病院を選んだのは正解だった。予約はきっちり入れて来たから、9時にモーニングを終えた脚で行けば、なんとか午後の部には通常営業に戻れそうだ。まぁまぁ何とか、首尾は良好な方だ。
 看板娘の悲鳴の元の、外見を除けば。
 打撲、擦過傷、脳震盪。
 医師にはそう言われた。あちこち殴られたり、引っぱたかれたりしたのは憶えている。左目が重いと思ったら、額ごと瞼が腫れていた。同じく、左の顎にもコブが有る。何より酷かったのは後頭部の裂傷と、擦過傷だ。記憶が飛んだのは、どうも殉徒総会の連中に放り出された際、頭を強かに打ちつけたかららしい。
 病院でその事を伝えると、早速CTとレントゲンを撮られた。何事も無いと太鼓判を押して貰ったので、無事帰宅出来た訳だが、凡て終えてから腹が立ってどうしようもなかった。
 何と言う連中だ。あれで人を救う宗門だと言うのだから恐れ入る。闖入者を頭から放り出して、何が仏の道だ。死んでしまえば皆、仏様とでも言うつもりか。
 結果、今日の長沢の出で立ちは左眼の上と顎にガーゼと絆創膏、バンダナの下にネット包帯と言う大層な出で立ちだ。しかも、後頭部は強かに打ちつけただけに、未だ相当に痛い。当分の間は上を向いて寝る事は叶わないだろう。
 見えぬから良いが、服の下も同じ事だ。叩いたり引っ張られたり蹴られたり、あちこちが痣になっていて痛い。
 頓狂な声を上げた看板娘は、その次に黙り込んだ。長沢の面相をじっと見て、手を出しかけて引っ込める。
 「これやっぱりあれですよねぇ?例の殉徒総……」
 苦笑して頷くと、看板娘は、もう!と叫ぶ。
 「…ごめんなさい」
 「は?何でマスターが謝るんですか!私が怒ってるのは殉徒総会にですよ!酷すぎるじゃないですか!だって行ったのマスターと酒井先生だけでしょ?それをこんなに虐めて、あいつらって宗教なんでしょ。宗教って人虐めて良いの?あったまくる〜」
 全く、仰せの通りだ。看板娘の意見に、店主は全面同意した。正しくその通りの理由で、長沢は昨夜ずっと怒っていたのだ。
 七時になる。
 店の扉を開け、「準備中」の札を「営業中」に変える役目は、本日は看板娘に代わって貰う事にした。店主は出来るだけ厨房に引っ込もう。少なくとも、今日の所は。
 
 
 昨夜。長沢がSOMETHING CAFEこと我が家に辿り着いたのは、とっぷりと夜が暮れた10時半過ぎだった。
 ステラミラー・ビルから離れたのは5時半頃だったが、それからの行程が長かった。
 まず、警察官と(株)バッカーのスタッフと共に病院に行き、軽い検査と応急処置を受けた。これにはきちんと(株)バッカーからの助言があった。診断書は確実に出して貰い、自覚症状も添え書きして貰う事。その際、可能な限り重く書いて貰うのがのが正しい。
 医師の書簡が整う間に秋元からスタッフに連絡が入った。
 酒井 美也を無事に奪還した。奪還の際の怪我も無く、到って健康だ。酒井医師と共に現在既に脱洗脳プログラムに入っている。頭の良い子の脱洗脳は厄介な物と決まっているが、彼女の場合は幸いにも軽く済みそうだ。ついてはあんたも同席するかい。
 スタッフから渡された携帯から零れる秋元の声を、長沢はぼおっとした頭で訝しんだ。彼に対しては徹底的に秘密主義の秋元が、顧客の情報を胡散臭い一部外者に漏らすとはどう言う心積もりだ。電話口で秋元が苦笑した。
 「今回の功労者はアンタだ。酒井先生から色々聞いたぜ。あんたの話を聞く上に置いちゃ、こっちも情報公開せんとフェアじゃないわな。俺にだってギブアンドテイクの精神くらい有るって事さ」
 相当の譲歩と機嫌取りなのだが、半分ぼおっとしていた長沢には効かなかった。ICレコーダとデジカメと俺の記憶はいつ引き出す?と到って事務的に尋ねられて、電話向うは再び苦笑した。
 休日の病院の、がらんとした待合に移って秋元に会い、ICレコーダとデジカメを渡す。当然ながら、両者の備品は長沢の私物であるから、渡すのはデータだけだ。スタッフが持参したノートPCにWAVデータとJPGデータをコピーすれば、デジタルデータの移植は終了だ。問題なのは。
 長沢の頭の中にあるアナログの資料の引き出し方だ。
 見て来た人間一人一人のモンタージュを作る事等出来ないから、秋元が持って来た膨大な量のJPGをモニターに写し出し、それを長沢が凡て見て行くしか無い。
 「どうする、明日にするか?」
 長沢の様子を気遣って、秋元が聞くと、いつに無い無遠慮な瞳が秋元を見た。
 今回、秋元は少なからず長沢を評価していた。酒井一人では恐らく何も出来なかっただろう潜入を上手く運べたのは、凡てこの男の奇妙な度胸によるものだ。それに何より、今回全く隠密行動の為のカメラ等機材を用意しなかったバッカーに代わり、凡て不足無く用意してやってのけた用意周到さに、正直感心したのだ。
 (株)バッカー側が今回、隠密取材の為の機材バックアップを一切しなかったのは、長沢と言う存在では「無理」と判断したからだ。
 彼が総会と揉めたのは、まだほんの10年前の事である。長沢はばっちり総会のブラックリストに載っている類の人間なのだ。現場のスタッフは変っていても、彼を知っている者が居ないとは限らない。実際、当時総会にいた秋元自身がこうして嫌な感触と共に覚えている男であるから、そうっと入って出てくるだけが限界だろうと思っていたのだ。
 ブラックリストの人材との関係を読み取られ、こちらの尻尾を捕まれる方が(株)バッカー的には余程痛い。であるから、今回は泳がせて、彼が見聞きした物だけを吟味するのが無難と判断したのだ。
 だが、事が済み、蓋を開けたら、奪還成功、侵入捜査成功。秋元からすれば、これは非常に美味しい誤算であった。
 ICレコーダ、デジカメ、携帯電話、凡ての機材の用意と使用は、前述のとおり長沢個人の判断だ。何もデータが無くても、(株)バッカーとしては文句の言えぬ立場にある。だがそれを見て、またこれも驚いた。
 平然と中に入り込み、無邪気に随分と多くの音声と画像を撮って来た物だと、素直に秋元は感心した。折伏会はまだ分かる。対象人数が多くて、スタッフの注意が散漫になるから、写真撮影も上手くすれば可能だ。だが、ステラミラー・ビルは。日本語には良い言葉が有る。吶喊と言う言葉が正に相応しい。
 いずれも明らかに隠し撮りと分かる画像ばかりでは有ったが、書類や内部の様子がしっかりと納められ、秋元にとっては懐かしい高部の顔が映っていたりしたのには正直恐れ入った。
 結果、最後の最後で騒動になり、怪我する事になったのは失敗だったが、それにしても、飛ばされたコンタクトの代わりの眼鏡もしっかり持参している用意周到さには感謝以外の何者でもない。
 「何で」
 無遠慮な言いっぷりは、まだ頭がしゃっきりとしていないからだ、秋元は長沢の目を覗き込んだ。
 「え、だって。頭打ってるし、薬も入ってるだろ。辛いなら急がなくても……」
 「新鮮な情報が要らないと言うなら俺は帰る。欲しいなら気味の悪い遠慮してる間にさっさと聞け。忘れる前に」
 応急処置を施したばかりの、大層な有様の面体に言われて、秋元は長沢の隣に移り、モニターを長沢に向けた。
 画面に一人の顔が大写しになる。ナンバーと所属、名前が上につき、下に簡略化したプロフィールが表示される。長沢は顔をしかめた。
 「これ、名前やプロフィールを写さずに、顔も一人じゃなく、画面いっぱいに何人か映せないかな。これじゃ日が暮れる」
 日はもう暮れているのだが。
 言われる通りに画面に上下五人ずつの顔を映し、プロフィールの類を非表示にする。と、長沢が画面に指を走らせた。
 「これ。ステラミラー。責任者。北野。この下の男、シンポジウム責任者、久保。その横、シンポジウム窓口。名前不明」
 秋元が驚いて長沢を見る。長沢は無感動に次、と言った。
 「ま、待て待て。今の何だ?お前さんの記憶か?」
 そうだが、何か問題でも?そう言わんばかりに睨まれて、秋元とスタッフは顔を見合わせる。慌てて、プロフィールと比べると、なるほど名前は合っている。黙って進める事にした。別のスタッフが同じソフトを起こした別PCで長沢の言葉を入力して行く。
 「これ。シンポジウム会場整理。名前不明。同じく下。窓口。これは、ステラミラー。3Fスタッフ。名前不明」
 一画面に10人づつの配分でチェックしていく。
 秋元が見せたのは、東京都心部のデータ、ざっと3700人分のプロフィールである。港区に関連ある殉徒総会員凡てと、役員等上層部をすべてピックアップしてある。下部のデータの網羅は無理だが、上層部の人間ならこれで漏れは無い。一目見てきただけの急造のスパイが検証するには、充分すぎるデータであろう。
 「無し。次。上の4、ステラミラー受付。名前不明。下の2、名前不明。シンポジウムスタッフ。次」
 長沢は無感動に流していく。機械的に、抑揚無く。余りにも淀みが無いので、口から出任せかとスタッフが何度と無く疑うが、名前が出て来るとデータと合っており、その度に無言になる。最初は凄いですね、と相槌を入れていたスタッフも、終盤は全くの無言になった。ぼおっとした男が機械的につむぐ言葉が、余りにも正確で、目の前に居る人物が不気味になる。これは一体、何者なのか。どんな類の手品を見せられているのか。騙されているようで、誰もが不安になる。相手は奪還屋でもスパイでもない、ど素人の喫茶店店主。その知識が罠にも思えた。
 その作業を繰り返して三時間余り、白い画面が出た時には、全員が深い溜息をついた。小さな拍手が起こる。
 お疲れさん、と秋元が呟くのに、長沢が重ねた。
 「秋元さん。情報隠すのはフェアじゃないと、貴方さっき自分で仰ったんですよ。だから聞きますが。貴方俺に情報隠してるよね」
 全員がびくりとして、顔を見合わせる。情報の秘匿は商売柄必須だが、現時点協力者の人間にマイナスになるような事はしない筈だ。幾人かの責める様な視線が、自然秋元に集った。
 「何の情報を隠してるって……?」
 「貴方、俺に言わなかった。里中先生のSPの事。その人達制服有るでしょ。或いは全員似たような格好してるでしょ。でもって多分、マスクかサングラスか覆面必須でしょ」
 スタッフ全員が顔を見合わせる。
 「いや、……そんなのは。まあグラサンくらいしてる奴はいるが、いつもと言う訳じゃないし。スーツが制服と言やそうだが、ダークスーツはああ言う商売の基本だろ? 特別制服とかは言わねぇなぁ。まあ、面相の区別がつき辛いと言われりゃ確かだが。あと、覆面はねぇよ。幾らなんでも馬鹿っぽい。もし覆面がいたら、覆面のまま今見せた写真に載ってる筈だから分るだろ」
 「ふうん……。じゃあ、貴方達の間でもSPの情報はトップシークレット扱いなんだ」
 「いや、それもねぇよ。むしろあいつらは俺らの警戒対象だし、がっつり情報取ってるよ。良くセキュリティ会社の奴は入るが、連中はそれこそ制服着てるからすぐ分かる。そいつらはわざわざ入れねぇが、お付きのSPは別だ」
 じゃあ何故。
 「今俺に見せた写真に、榊 継久が無いんだろうね?俺が今日見た顔はここに無い。データが抜けてる」
 全員が暫し、ぽかんとする。PCの画面を見つめ、改めて顔を見合わせ、驚いたようにバタバタと動き出す。データ入力係をしていたスタッフが、まさか、と呟いてデータを確認した。
 「こっちの情報が抜けてる? しかもザコじゃない、大物でか?」
 長沢に頷かれて、(株)バッカースタッフが騒然とする。港区近辺の可能な限りの写真は集めて来た筈だ。幹部の写真も突っ込んだ。当然そのSPも全員網羅してある筈だ。秋元とスタッフのPCのデータに変化は無い、改竄されたと言う訳でも無いだろう。全員が答えに窮した。
 長沢の言う通り、ここにはその人の写真が有って然るべきだ。スタッフが慌ててあちこちのフォルダをひっ繰り返すが、早急な原因の究明と、データ捜索は無理である。時間が要る。まさか、長沢の証言からバッカー側の手落ちが見つかるとは、誰も予想だにしていなかったのだ。スタッフが首を振った。
 「すまん、長沢さん。早急に原因を調べるが、今急には無理だ。世話をかけてすまないが、日を改めさせてくれ」
 秋元が素直に頭を下げると、長沢が大きく椅子に沈み込んだ。
 「おい、大丈夫か」
 「じゃぁ、取り敢えず今日はこれくらいで良いかな。補足は後日で」
 勿論、充分だ。スタッフが頷く。秋元は長沢の肩に手を置いた。
 「お疲れさん。本当にお疲れさん。すまねぇな。こっちがあんたのデータにおっつかないとは。正直あんたがここまでやってくれるとは思わなかったんだよ。いや、感服した。あんた凄いわ」
 ぼんやりとした瞳が秋元を見る。いつもの媚びるような、伺う様な色は今はそこにない。こちらを慮っていない分、秋元は逆に気が楽だった。
 「なら、ちょっと頼みがあるんだが、聞いてくれるかな」
 「勿論、出来る事なら何でもさせて貰いますとも。何だ」
 椅子の上で身を起こす様は楽そうではなかった。カーキ色の上着は頭からの血で変色しているし、絆創膏とネット包帯だらけの顔はとても機嫌が良さそうに見えない。いつに無く強気に見える態度は、細かい所に気を使う余裕が無い為だろう。
 この状態での願い事と言えば、家へ連れて行ってくれとか、今日一日不安だからボディガードを頼むとか、そう言う類の事と相場が決まっているのだ。それくらいの事ならお安い御用だ。秋元は身を乗り出した。
 じゃ。髭に包まれた口が言う。見慣れた黒縁眼鏡の中の目は精彩が無かった。
 「俺を赤坂署に連れてってくれるかな。殉徒総会の榊 継久を告訴する」
 

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