出した経験が無いではない告訴状だが、今回は随分と手古摺った。 告訴状の趣旨は傷害。本当なら被告訴人は、"実行犯の管理者"である所の榊継久か、殉徒総会そのものとしたい所だが、冷静に計算して拳の持ち主とした。付け込まれる隙は、最大限無い方が良い。 この告訴の対象者は、本来は殉徒総会という組織の中の被告訴人個人だけである。書面上の対象はたった一人。だが、現実は違う。 たった一人の筈の被告訴人は、訴え出た途端に、多くの御用弁護士を抱えた殉徒総会と言う組織になる。そして何故かこの組織を相手にする時は、日本国の警察という国家機構も敵に加わるのだ。すこぶる理不尽で有り、狂ってさえいるがこれが現実だ。敵は大きく、強かだ。最大限細心に構えて、やり過ぎと言う事は無い。 告訴状は警察に出す物であるから、警察が預からなければそれで終いになってしまう。何としても受け取って貰わねばならぬ。 書類はきちんと手書きで整えた。署名割り印も済ませた。その為の弁護士も予め用意した。「健全な政治を取り戻す会」から紹介された"対殉徒総会""対公正党"の弁護士を伴って赤坂署に出向いた。 長沢がその弁護士に会ったのは土曜日の午前中だった。昼前の休み時間に、浅井准教授御自らが、弁護士を連れてSOMETHING CAFEにやって来たのだ。 齢53。半白を過ぎてほぼ全白の髪を短めに整えた、もっさりした印象の男だったが、長沢はこの男が甚く気に入った。 強引に連れて来られたんですが、来たからには良い物をお見せしますよ。男はそう言って名刺を差し出した。私が何故最適なのかは、これで分かります。そう促されて覗いた名刺の真ん中には、黒々とした墨字で「泰作」と書かれていて、長沢は図らずも吹き出した。 "対公正"の弁護士は、我が意を得たりとばかり笑って指を離す。指の下から「天野」という、極普通の苗字が出てきて更におかしくなった。 対公正で反殉徒総会の弁護士だと言う事は、それだけで一言も無くとも十分伝わった。何よりも心憎い演出だ。すっかり長沢の警戒心は吹き飛んでいた。 類は友を呼ぶと言う言葉通り、天野は浅井とどこか似ている。 洒脱でふてぶてしい外見は趣を異とするが、法曹界や教育界と言う、左翼と悪平等主義の温床にいながら、「反公正」などと言う貧乏性が似ている。天邪鬼さ加減が似ている。それより何より「子供っぽさ」が非常に似通っていた。 会合で会うと挨拶代わりに浅井の首を絞め、相手が半ば落ちかけたのを見て喜んで手を放す。そんな仕草はとても齢53の男の物とは思えない。まるきり中学生のじゃれ合いだ。親密で無邪気で無遠慮な、子供同士のじゃれあいなのだ。長沢は苦笑した。 平和に浸りきった日本の日常生活で、わざわざ、"戦おう"等というのは酔狂な人間だけなのだと改めて思う。常識人は世の中の流れに合わせて体も心も年をとるが、粋人の自由な心は常識の範疇にははまらない。時の流れから解き放たれているのかもしれぬ。良くも悪くも。 戦おうと立ち上るのは、つまりは知識を持った子供だ。人生経験を積み、専門知識を備えた、トウの立った子供。小賢しい子供はタチが悪い。純粋で思い込みが激しく、頑固でしかも行動的だ。 天野弁護士はあらかじめ赤坂署の刑事課長に告訴状を出しに行く由連絡した。先方には、受け取る気などハナから無い。それを分かった上での行動は、既に弁護士のスケジュールの中に組み込まれていた。渡さずとも良い。書状を押し付ければ十分だ。 まだ言ってるの、しつこいねぇ。首を突っ込んだ方にも責任があるんじゃないの? 殴られたのは本当に右手?口から出任せ言ったんじゃない? 傷治ったみたいね、大した事なかったんでしょ?軽く払われた程度でさわいじゃ駄目だよ。 騒動の当日に三人がかりで長沢を宥めすかし、理不尽な自省を促したと同じ文言が担当刑事の口から零れる。小一時間余りもそれを続けるだけで、何の書類も動かす気は無いらしい。長沢が呆れて眺めていると、天野が横で嬉しそうに笑った。 「さ、帰りましょうかね、長沢さん。用は全部済みました」 訴状をテーブルに置いたまま立ち上がると、刑事課長が渋々と立ち上がった。ようやっと、持って帰れと言う言葉に応じぬ相手だと言う事が理解されたらしく、渋々、担当検事に相談に行く。結果は「受理」ではなく「預かり」であった。 書類上は完璧に整え、煩雑な手続きも全て踏んでやっと「預かり」なのだから恐れ入る。モノは「親告罪」ではなく傷害なのであるから、一度きちんと受理されさえすれば、刑事事件としての捜査が始まる筈だが、警察の乗り気の無さは尋常ではない。元より分かっていた事だが、改めて目の当たりにすると嫌気がさした。 警察の主人は正義ではない。国家ではない。国民ですらない。公僕の従う公とは、金なのだ。 彼ら自身が退職後に抱え入れられる、大金を生み出す場所。その場所の持ち主が彼らの正義だ。 そう。本来なら彼らが検挙すべき違法賭博業界。日本国内にはびこり、射幸心を煽って庶民の金を吸い上げる「パチンコ」業界。 であるならば、それらと人種的に深く関わる殉徒総会を彼らが無視できる筈がないのだ。彼らが命がけで守り、仕えるべきは国ではない。精々数十年で終わる彼らの未来を守ってくれる業界と、それを支える人々だ。 だからこの戦いは厄介なのだ。被告訴人とその団体だけでなく、捜査する側も敵になる。長沢は深呼吸をした。 宣戦布告は完了した。これがマトモな「戦い」になるのか、あるいはうやむやの内に「嫌がらせ」だけで終わるのか、それは今後次第だ。少なくとも長沢には後者のやり方で納得してやる心づもりはない。警察が動かないなら、動かすまでだ。 いつの間にやら。 日本人の血脈を持つ日本人が消えている。特に、国の中枢から。国家安寧の根幹となる場所から消えている。現実に触れる度、長沢は暗澹たる気持ちになった。 この国の司法と警察機構を牛耳っているのは、もはや「日本」の国體を守る気もない「日本人」の皮を被った「地球人種」だ。 彼らが特例なのではない。経済界も政界も、同じアジアの大国の悪夢に憑かれ、魂も誇りもとうの昔に食い尽くされている。日本を主張する術さえ忘れ、他国に呑まれてそれでもまだ安寧を貪っている。日本人がそれと気づかぬ間に、日本人の場所は全て取り上げられ、「日本人ではない日本人」と「日本人以外」の勢力がそっくりそのまま入れ替わってしまった。 であるならば。 一体ここはどこなのだ。ここは本当に「日本」であるのか。いやその前に、「日本」と言う国は現在もまだ有るのだろうか。本当に存在しているのだろうか。もはや「日本」は人の頭の中のみにしか存在しない遠い幻ではないのだろうか。―― いつの間にやら。 日本各地で外国人がコミュニティを作り、街を作り、その地域の法律となり、日本人を排斥する。移民の定住はどこの国でも起こりえる事だ。だが。移民は本来、どこまでも移民だ。国民が移民に心底同調し、移民の為に国民の排斥を行う国などどこにもない。自らを排斥する運動を、諸手を挙げて有り難がる、能天気な人種などどこにも居ないのだ。――日本以外には。 いつの間にか。いつの間にやら。 日本人の敵は日本人になっている。 「さてと、長沢さん。刑事に関しては一応これで今出来る事は済ませました。後は検事さん次第ですので、彼らの連絡を待ちましょう。 何か分かればすぐお知らせしますから、そちらも何か有りましたら一報を。嫌がらせやら、付きまといやら、異変が有ったら一報を下さい。もっとも。 俺は正直、あなたをまったく心配してませんがね。―― あ、勿論何か"やる"前にも必ず一報をね。」 赤坂署の前で別れざま、笑みを浮かべた天野弁護士にそう釘を刺されて驚いた。なるほど、浅井の天野への申し送りだな、長沢はすぐに理解した。浅井は長沢の事を実に的確に伝えたに違いない。恐らくは、人の良さそうな顔をした、とんだ狸、そんな風に。 日頃より更に丁寧にお辞儀をして、顔を上げる。遠ざかる背中を認めて踵を返す。SOMETHING CAFEの再開時間、11時が目前に迫っていた。 この弁護士は、いたく長沢の気に入ったのだ。 深海亭に収まって、まずはビールだとばかり、二人で生をあおる。 既に始めていた長沢も、楢岡に付き合って改めて乾杯をする。一口目が美味いのがビールだが、それは飲む相手の参入で何度か繰り返しが効くものらしい。 長沢が箸をつけたつまみを横から奪って口に放り込み、楢岡が足を伸ばす。胸元を緩める仕草に違和感を覚えた。 「あれ、楢岡君、今日はネクタイ?初めて見たな、君のネクタイ姿」 「格好良いでしょ。惚れ直した?」 ネクタイを引き抜いて、襟元のボタンをはずす。スーツとシャツは朝会った時と変わらない。だが、ネクタイだけは後付のようだ。ワインレッドのシャツに、山吹色のプリントタイは派手にも思えるが楢岡には合っている。スーツ自体はダークなので、総合すれば極々普通の装いなのだ。―― 恐らくは。 幾つかの皿を追加注文する。 じゃこと水菜のサラダ、御造り、〆鯖のカルパチョ、串焼き。いつもより口数の少ない恋人の変わりに数品目注文して一息を吐く。メニューを置いて間近に顔を覗き込むと、濃い目許が物怖じせずに見つめ返して来た。 「当てようか」 長沢の言葉に、楢岡の瞳が大きくなる。 「君が行った先。君の会って来た人物。― なぁ、当ててみようか」 頷かずにコップの中のビールを飲む。その動作は早く言えと言っている。男の無言の催促がいつしか分かるようになった。 「行ったのは検察庁。会ったのは検事さん。名前は多分、梶本 一機。53歳。俺の弁護士さんと同い年で、同じ学校。因縁を感じるよねぇ。昨日の友は今日の敵だ。でも何で君が呼ばれるの」 大きな溜息が楢岡の口許から零れる。頭を振って、まったくとぼやく。 楢岡の困惑も不機嫌も予測済みの事であるから動揺は無い。ほんの少し、申し訳なく思う神経くらいは残っている。だがそれよりも好奇心が勝ってしまう。この状況を楽しんでしまう。事の成り行きにわくわくせずにいられない。それがこの長沢 啓輔と言う男なのだ。良く分かっている。 「当然お聞き及びの通り、今日付けで俺、告訴状を出しました。被告訴人は高部 友三に落ち着き、傷害で裁いて貰おうと言う所存。 本来なら傷害なんて親告罪でもないんだぜ。黙っていたって捜査は始まる筈なんだ。だから、この件に関しては責めるべきは俺じゃなくて警察だよ。そうだろ楢岡君。 でも、捜査の気配が全く見られなかったんで、刑事告訴状を届けに行った。民事提訴も準備してる。おかしくないだろ?でな。 何で告訴状一つ出すのに一週間以上もかけたかと言うと、どうしても受け取って欲しかったからだよ、警察に。本来、告訴状を警察が受け取らないなんて職務怠慢以外の何物でもないんだが、そこはそれ。告訴状の不受理なんてのは世に五万と溢れる事例だろ。なので、弁護士の選定に迷いまして。楢岡君ご存知の通り健政会行って、慎先生にお願いして、優秀な弁護士さんを紹介して貰って赤坂署に参りましたとさ。 絶対に受け取って貰えると信じて、受け取って貰う気で行った。結果"預かり"だったけど、俺は現時点、最良のコースを通ってると思ってる。 でも君の状況を見るに、審議にかかってくれるのは難しそうかな?」 性悪。厚めの唇がぼそりと呟く。 黒縁眼鏡が嬉しげに目を細める。しっかりと呟きを聞き届けた耳を、改めて突き出す。 「え?何?」 「性悪。何もかも調べて行ったろKちゃん。少しでも俺に対して悪かったと反省してると思った俺が甘かった」 皿が届く。楢岡は空になったコップを出してサワーを頼んだ。濃い目にしといてと店員に言う態度で、彼がこの店ともそれなりの付き合いがあるのだと分かる。情報網の発達した男は、顔が広いと相場が決まっている。いわゆる"対象者"が多く訪れそうな近隣の店を、彼がノーチェックでいる筈も無い。 「反省してますよ。君には苦労かけるなぁと思ってますよ。だからこうして話してるんじゃないか」 「ふぅん。朝まではさー、俺がどの程度この件に絡んでて、あんたの動向及び実情をどの程度知ってるか、Kちゃんは本当に知らなかったろ? でも、あれで大体読めた。だから、水を得た魚なんでしょ。今は俺を見て状況を読み取ろうとワクワクしてる。バレバレだよ。 健政会の弁護士さんは先週末に紹介されたんでしょ。そこから僅か一日か二日半で告訴状提出。ま、告訴状は出来ていたろうし、弁護士さんも慣れた事の繰り返しだからそれ自体は驚かないけど、今日だったのには理由があるだろ。もう今更ぼかさないではっきり言いなさいよ。狙ってたろ、梶本検事が担当になるの」 長沢が笑う。邪気の無い笑みを浮かべて素直に頷く。うん、と答える声に、楢岡が溜息を重ねた。 「性悪」 サラダを取り分けて渡しながら、笑みと共に短い抗議の言葉がついて来た。 「俺別に変な事はしてないぞ。天野さんの年齢と出身校を聞いて、検察庁の検事を何気なく調べてただけ。学閥があるのは俺の所為じゃないもんなぁ。本当にこれはしょうがないよなぁ。検察庁、東大と一ツ橋卒ば〜っっかりじゃないか。で、たまたま気づいた訳。何だぁ、天野さんの同級生、いるじゃないのってさ。しかもばっちり商売仇。反公正と殉徒総会員。 当然ながら我が方の弁護士氏が反公正で、検察庁の方が殉徒総会員。いや勿論、宗教は自由です。何も文句を言う気は有りません。そんなプライベートが公的書類に残ってる訳も無いし、俺の勝手な推測です。検事さんの来し方を見て、俺がそうだと推測しただけ。まぁそれこそ、バレバレなんだけど。 そうなれば、当然そこ狙うでしょ。楢岡君だって同じ立場だったら確実にやるよ」 楢岡が不満げに、はっきりと頭を振る。逆。サラダを含んだ口が言う。 「逆だよ、逆。俺なら、絶対勝ちたい裁判に敵の仲間を関与させたりするもんか。公正な判断が欲しいなら、絶対敵の仲間を加わらせない。君子危うきに近寄らずだ。そいつだけは外す。それが人情ってモンだろう。 あんたのやり方はおかしいのよ。敵を抉り出しておいて、そいつを避けるのではなく、わざわざ要職に就かせる意味はどこにある。どう言う了見だよ。 あんたは意味無くそんな事しない人だ。だから、意味があるんだよな。俺にはどうもそこが分からない。な、そこ、解説してくんない?」 長沢の笑みは消えない。楽しげに笑いながら口を閉ざす。教えて上げない。そう言われた気がした。 立場は違えど、長沢と楢岡の認識力は似通っている。利用しよう、利用出来ると思うものは、まず一緒なのだ。 真理の解釈など、そうそう幾つも無い。現状認識が正しければ、物差しが違っても結果はそうそう変わらない。それが道理だ。長沢の笑みに楢岡は溜息をつく。大きく背伸びをすると、長沢がびくりと腕を引いた。 人が好さそうで気の弱そうな顔を見つめる。顔に書いてあるような気がした。 天野弁護士をぶつけるにふさわしい検事の選定に、二日間まるまるかけました。どの検事に当たるかは結局は運だけど、最大限その可能性が高くなるべく、死に物狂いで調べて工作しました。 対象者のスケジュール、食べ物の好み、癖、通勤路も全部チェックして、実は本人も気づかぬ内に会ったりもしてます。思い通りの人選が出来て非常に満足です。 目の前の黒眼鏡の顔に、そうした文字を探す。楢岡にははっきり読めた気がして諦める。 対象者は小動物の外見を持った小狡い狐だ。これは変わらない。なら、こちらも鷹揚に構えねばならない。いちいち神経を尖らせていては先に参ってしまう。 小さく噴出してサラダを口に含む。長沢の瞳に怪訝そうな光が走った。 「……?何?」 「いやいや」 「何だよ、気になるじゃないか。こっちが正直に手の内を晒してるんだから、そっちもちゃんと言ってくれよ」 「…あんたね」 手の内を晒していると来たか。全く持って図々しい。 順番が違う。行動の前に、これこれこう言う訳でこのように動きます、と真実を打ち明ける事を手の内を明かすと言う。全て行動を済ませて、それなりの結果が出た後に解説をつけるのは、事後承諾とか種明かしと言うのだ。しかも。 性質の悪い事に彼が話しているのは真実などでは有りはしない。「嘘」ではないが、真実の部分部分を手堅くはしょって上手くつないで話している。これは創作された「事実」だ。 そうね、と頷いてサラダをつつく。 「ごめんなさいの言葉と共にご馳走が始まるなら、当然今夜の決定権は俺にあるんだろうと思ってさ。当然、俺の要求するおもてなしを全力でしてくれるんでしょう。"告訴人の長沢さん"は」 「あ、やっぱその件で検察庁呼ばれたんだ。何だって?」 我が意を得たりの表情を見ながら水菜のサラダを頬張る。この男の知的好奇心が満たされている時の楽し気な顔は、悔しいが楢岡は気に入っている。 「特定宗教団体に対する告訴について少々聞きたいんだが。で、呼ばれて行きました。"いつもの団体"の関係者と思われる人物から新たな告訴状が出されたが、この人物の担当者は君だね。はい。その通りです。これは家の課長のおコトバ。加えて。私よりその人物に詳しい人物も連れて参りました。これ、俺のことね」 うげ。髭に包まれた口許が、奇妙な呻き声を漏らす。サラダを咀嚼する刑事の顔に満足そうな笑みが宿った。 「正直に人となりを答えて来ました。某喫茶店の店主で好奇心旺盛。常連客の娘さんが殉徒総会に入会、脱会した過程で、現在殉徒総会と揉めています。他にもまだ色々付け足せたんだけどさ、今はまだ我慢。ね。俺をおもてなし、しといた方が良いって良く分かった?」 「……分かりました。と言うか元から分かってます。今、骨身にしみてます」 「よろしい。食い終わったら俺に付き合って」 続けざまに御造りと串物と焼き物が届く。承諾の言葉の変わりに、届けられた皿を恭しく差し出す男の姿を一瞥して、場所は、と付け足す。 南青山。 きょとんと持ち上げられる目に、かすかに走る期待が面白い。この男の好奇心は、楢岡には分かりやすい。敏感で、繊細で、貪欲だ。 「覚悟しといてよ、イロイロと」 好奇心も、その心も。馴染み始めたその体も――だ。 |