□ SOMETHING CAFE □
■ SOMETHING CAFE ■

 
 

 押し込む。
 こだわる場所に、力任せに自らを突き入れる。
 痛い程に進入を拒むそこに、濡れに任せて押し入る。やがてずるずるとその部分が屈するまで小さく前後動を繰り返し、息を吐く瞬間を狙って突っ込む。胸の下で細い肩が震えていた。
 「話は無い。欲しいのはこれだけだ」
 突き入れる。腹と尻が当たって、パン、と音が上がった。
 「ふ…ぐ!」
 恐怖で硬くなっている身体は冷たい。皮膚を伝うのは冷や汗と、「SOMETHING CAFE」店長の場合は鼻血だ。避けようと動いた所為か、唇も切っている。本気で拒んでいるのだ。そうでなければ、困る。
 後門が青年に馴染む時間をたっぷり待ってから腰を引く。半ば抜けた彼自身を、今度は奥まで突き入れる。流し込んだ生クリームが中から滴った。
 「ひ、いっ……」
 細いウエストを掴む。がっちりと固定して腰を引く。そして突き入れる。部分がまといつく。拒むように、追いかけるようにすぼまっては広げられ、強引な物に切り拓かれていく。
 凄え。
 キツい癖にキツ過ぎない。全体を絞り上げて浸入を拒むそこは受け入れてしまうと、徐々に変化していく。侵入者の大きさに、形に。クリームのぬめりと青年自身のぬめりの所為で拒みきれずに、彼の中が変化していく。
 突き入れて、引く。掻き分けて辿り着き、抜いては押し込む。その度に呻きとも悲鳴ともつかぬ声が絞り出されるが、気にせずに繰り返す。下腹部を駆け上ってくる快感に、細かい事は消し飛んでいた。
 ひたすら動く。冷たく、硬いままのそこに押し付け、押し入り、盛り上がっていく興奮を叩き込む。
 「はっ……!」
 脳天まで貫く快感が来て、男の中に吐き出す。Tシャツ一枚だけの胴を握り締め、突き入れるようにして吐き出す。青年に比べて貧相な身体がびくびくと震えた。
 細いんだな。
 放出の快感に半ばぼやけた頭で考える。
 アンダーシャツとコットンシャツの重ね着、ブルージーンズ。SOMETHING CAFEの店主のいでたちはいつもそんな物だ。
 厨房には似合わぬと思える半端に伸びた髪を自身でも気にしているのか、バンダナでくるりと包み、その癖髭は剃る気が無いらしい。それなりに整えられた柔らかそうな毛が、鼻の下から口元、顎の周りを覆っている。ちらほらと白い物が混じり始めているのも、外見を構い過ぎない様子で彼には合っていた。
 カフェ自体も平均的で突出した物がないのと同様、店主もそうだった。
 身の丈は170cmを少し越すくらいで、取り立てて高くも低くも無い。細身では有るが、いつもぶかっとした装いなので、特に細いとも太いとも感じない。そっけない黒縁の眼鏡はむしろ不細工だが、髭に包まれた笑顔は暖かい。髭の所為でハンサムかどうか明確には判断しかねるが、大きな目や通った鼻筋は好印象で、いらっしゃいと声をかけられると、自動的に店に入ってしまう包容力は有った。
 簡潔ではあるが、気の利いた挨拶。疲れた心にそっと入ってくる、ソフトで伸びやかな声。
 俺のガサガサの低音とは大違いだ。
 腹の下で、床に顎を押さえつけられたまま、目を閉じている男の頬に口づけをする。青年のそんな動きさえ苦痛を与えるのか、男の顔がゆがむ。不細工な眼鏡は今は床に放り出されて、長いまつげがじかに見えている。閉じられたままのまぶたの所為で瞳が見えないのが惜しいな、そう思うと同時に下腹部が疼いた。
 一回の放出を迎えても、静まる様子すら見せない部分が、耐え難く疼く。
 抜きもせずにそのまま再びピストン運動を始めると、押さえつけられたままの顎が呻いた。
 「やめろ……。やめろ、…くそ。痛い、痛いっ……!」
 痛いのか。むき出しの尻を掴む。46歳の男のそれは、鍛えられて隙の無い青年のそれとは違っていた。肌なのか、脂肪層なのか。細い癖に、かすかな柔らかさを掌に伝えるそれを、握り締めて突き入れる。
 痛いのか。それはそうだろう。こんなに、キツいんだから。
 濡れて拒めぬ部分に縦横無尽に動かす。前立腺の位置を探って突き動かす。男の快感を探っているつもりが、いつしか自身の快感に夢中になって突き入れる。身体が熱くなった。
 思い切り突き入れて胴を抱きしめる。一滴たりとも拒めぬように抱き込んで、奥に放出する。男が身悶えた。
 「やめろ…っ、くそ、離せくそぉ! 嫌だ……ぁ・あっ」
 放出する。注ぎ込む。抱きしめたまま注ぎ込んで、身悶えた身体が諦めて静まるまで抱き込む。ゆっくり解いて秘部から自身を抜くと、すべてが混ざったピンク色の液体が糸を引いた。
 潰された格好で横たわる男を見下ろして、青年はゆっくり己がシャツに手をかけた。シルクのシャツのボタンをはずし、椅子の背にかける。アンダーシャツを脱ぐ。細身ながら、鍛えられた上半身があらわになった。
 プロレスラーのような、脂肪を含んだ肉厚の筋肉ではない。どちらかと言えばボクサータイプの絞られたボディ。それでも、シャツの上からこの身体を想像できる者は少ないだろう。それほどに着痩せする体格なのだ。
 前だけを開けたズボンのまま、横たわる身体に手をかける。戒めを解いてシャツを放り投げ、一枚残ったTシャツを捲り上げる。びくりと長沢が反応した。
 気を失っていたのか、焦点の合わぬ瞳を青年に向ける。涙で潤んだ、恐怖のまなざしだった。
 その反応に構わず、青年は長沢の足首を掴んで身体を開いた。戒められていた上半身が追いつかず、奇妙な格好になるのも気にせず、ひざの裏に手を入れる。大きく持ち上げると、秘部が店内の光にさらされた。乱暴に開かれ、白くぬめる狭い部分が。
 慌てて長沢が身を返す。痺れた両腕を床について、腰を引こうとする。青年はそれを許さなかった。
 上から突き入れる。長沢が顔を歪ませた。
 「ぐうっ、や、めろ、やめろおっ……」
 突き入れる。膝を掴んで床に押し付け、むき出しになる部分に楔を打ち込む。青年の動きに押し出される液体も、青年を飲み込んで広げられる部分も、すべてが店内の灯りの元に曝け出される。
 酷薄な笑みが浮かんだ。
 「丸々飲み込んでるくせにか」
 自らの物を根元まで打ち込み、勢い良く抜く。引きずられて持ち上がる身体を押さえつけて、また根元まで打ち込む。激しい動きに覗く桃色の粘膜を、自らの物とともに奥深くに押し込む。嗜虐的な快感でかき回す部分のすぐ上に、自らの鼻血で赤く染まった長沢の顔が見えた。
 SOMETHING CAFEのマスター、店主。
 初めて店を訪れた時、土砂降りの中に背を丸めて出て行こうとする青年に、安っぽい黄色の傘を差し出した中年の男。
 持って行きなよ。300円の安物の傘だけど、これでなかなか使えるんだ。俺なんか常用しているくらいだ。気が向いたら返してくれれば良いし、面倒だったら捨てちゃって構わないから。
 躊躇いながら傘を受け取る青年に、温かい笑顔が追いかけてきた。ありがとう、またどうぞ。
 頬に手をやって、閉じたままのまぶたを起こす。涙を湛えた両目が青年を見上げた。あの時の暖かい笑みと同じくらい、これもまた扇情的だ。下半身がどくん、と波打った。
 「痛え…よ。やめてくれ。もう、やめて…くれ」
 いやだ。
 答えずに抱きしめる。何度目かの放出に、長沢がはっきり悲鳴を上げた。
 

 欲望が鎮まるまで、それから何回も抱いた。
 恐怖に冷えて縮こまっていた部分が、執拗な摩擦にただれて緩むまで、幾度も押し開いて流し込んだ。拒否の言葉が懇願になり、悲鳴になり、嗚咽になり、やがては低く消えるまで、幾度も幾度も欲望を突き入れた。
 強引に口を開かせて「もっと」と言わせ、それに応じて突き入れた。恐怖に支配された人間は、命令さえすれば大抵喜んで従う。正気なら絶対口にしない言葉も、恥ずべき行動も、迷いも無く受け入れる。力づくで身体を従わせ、恐怖で心を従わせる。快感は有った。例えようも無いほど。
 どれくらいの時間が経ったのか。青年は不意に、フローリングが「冷たい」と感じた。身体の火照りが徐々に消えていく。深呼吸をして足元を見ると、くたびれた雑巾のような格好の長沢が床に転がっていた。
 カウンタの天井にだけ灯りの点った店内は、夜気に沈んでいた。見回すと、長沢がにじり動いた所為で、店の床には点々と血がつき、それを追うように二人の体液と生クリームの混ざり合った液溜まりがしみを作っていた。青年はため息をついた。
 転がる長沢を見つめる。助けを求めたのか、伸ばされた右腕の遥か彼方に黒縁の眼鏡が転がっていた。
 長沢がこの店の二階に住んでいるのを、青年は知っていた。店のシャッターが下り、一階の店舗の灯りが全て消えた後、二階に灯が点るのをいつも見ていた。ガラス越しの黄色い光が妙に暖かそうに見え、それが何故か、店主の笑顔を思い出させた。
 CAFEの中に階段は無い。SOMETHING CAFE自体は平屋の造りだ。
 ああ、大丈夫。裏から出られますから。
 店主の言葉を思い出し、カウンタ奥の扉を開ける。予想通り、そこは小さなホールになっていた。裏口と、二階に続く階段があるだけの、殺風景なホールに。
 すっかり気を失った長沢を抱える。両腕で、子供か愛おしい女性を抱くように抱き上げる。予想外に軽かった。細身の所為もあるが、筋肉の割合が低い身体は軽いのだ。こんなにも、軽いのか。
 長沢を抱えて階段を上る。上りきった場所にあるささやかな風呂場で、傷ついた下半身を洗ってやる。指を差し入れて、秘部の中身を掻き出してやる。血液の混じった、粘度の高い液体が、シャワーの流れの中に筋を引いた。
 時間をかけて、彼の直腸にたっぷりと欲望を流し込んだ。女のような受け皿は無いから、青年の欲望は長沢の身体には害しか及ぼさない。高濃度の蛋白である精液は下痢を引き起こすし、乾いて粘膜を傷める。放置していい事は一つも無いのだ。
 思うざま楽しんだからには、後始末くらいはすべきだと、青年は自らの経験で良く承知していた。
 そばのタオルで適当にぬぐい、布団の中に軽い身体を放り込む。相当に乱暴なやり方だったのに、長沢は何の反応もしなかった。
 口元に耳を寄せる。短いが、確かな呼吸が行き来していた。穏やかとは言い難いが、これなら大した事はない。ゆっくりと見下ろした。
 長沢 啓輔。昭和36年生まれ、46歳。青年の倍近くの人生を生きている男。
 中途半端に伸びたまっすぐな髪が半ば覆う顔は、思ったより可愛らしかった。40を過ぎた男に相応しい形容詞ではないが、いかつさを感じさせない顔立ちは柔和で、怯えた子犬のように青年には見えたのだ。
 乱暴に犯しながら掴んだ髭は、髪と似て柔らかかく心地が良かった。不細工な眼鏡を外した細面の輪郭は滑らかだったし、大きな目は表情豊かだった。格好を構えば別の客も増えるのに、そうしない理由は、恐らく長沢の中にあるものの所為だろう。
 あふれた鼻血が髭を汚し、顎が腫れ、逆らって暴れた所為であちこちが擦り剥けているのが痛々しい。落ち窪んだ眼窩も、時折震える身体も、憔悴と苦痛を漂わせていた。青年は顔を背けて立ち上がる。
 気は済んだ。用も済んだ。久々に、満たされた。
 「啓輔、美味かった。…また、来る」

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