□ SOMETHING CAFE □
■ SOMETHING CAFE ■

 
 

 狂っているのだ。
 現実が。あるいはもしかしたら。俺が。
 両手首に黒いタオル地のリストバンドをつけてくれた人は、優しくて穏やかな男だ。ただ恐らくは、世間一般で言う善人ではない。
 この世の凡てが善悪のどちらかに偏ると言うのであれば、間違いなくその人が居るのは悪の側だ。何事にも拳を振り上げず、己の手を汚さぬ事が正義であるならば、紛れも無く悪の側に居る人なのだ。知ってしまった今ではそれは変えようの無い事実だ。
 それでも、その人には愛する女性も子供も有り、普通に心から他人を尊敬したり信頼出来たりするのであるから、自分よりは遥かに上等な人間に違いない。冬馬は思う。
 狂って居るのは自分か、あるいは現実の一部の方で、その人の判断を誤っているのかもしれぬ。だって。
 その人は「いい人」なのだ。
 母を失い、父の助けも得られず、母国日本にも捨てられた一人ぽっちの青年に、その人は「幸せ」をくれたのだ。
 ずっと一緒に居ると言い、命をやると誓ってくれた。寒かった胸に暖かい灯りを点し、「安らぎ」をくれたその人を、ストレートに「いい人」と言えない現実の方が、きっと間違っているに違いない。
 思えば、自分とその人との決して長いとはいえない時間の中で、まともなのは出会いだけだった。会った場所も状況も至って普通で、極々平凡な出会いだった。出会いだけで終わったら、その人は「いい人」のままで一生を終えたのだ。恐らくは。
 だが、終わらせられなかった。
 他でも無い、自身が。冬馬がそのまま終わらせる事が出来なかったのだ。
 惹かれて、焦がれて、手に入れた。強引にその人生に踏み込んで、本来結び付かぬ筈だった縁を括り付けた。それからこっち、二人の時間にまともな瞬間など有りはしない。
 冬馬は思う。
 子供の頃に奪われた分を取り返すように、手に触れる物を掴み取った。その人の事も、欲しかったから奪ったのだ。自分は強奪者で犯罪者、その人は被害者だ。それが紛れも無い事実で、そのまま変らぬ筈だった。それで納得していたのに。
 いつか被害者の筈のその人が加害者に変遷している。革命などと言う言葉を口にして、その為の犠牲は有って然るべきだと言い切り、その為に手を貸すのは誇りだと宣言した。互いの手が血で汚れている事を納得し合い、その過去を恥じるのではなく、顧みるのではなく、再びその道を行こうと誓い合った。
 穏やかな、笑みのままで。
 まともじゃない。狂っているのだ。現実が。俺が。きっと凡てが。そうでなければ。
 命の懸った折衝を本人抜きに行う今日が、日常であるはずが無い。
 

 「消せ、…か。 ―― 俺も全く同感だね」
 ホテルの一室の、アイボリーに沈む光の中で目を上げる。現実に一点の歪みも無かった。
 これが現実だ。狂っていようが居なかろうが、ねじ伏せねばならない現実は、これだ。
 咽喉から零れる笑い声は止まらなかった。何がおかしいのか自分では良く分からない。だが己の咽喉から零れる声は紛れも無く、笑い声と言う奴だろう。
 まともじゃなくても、冬馬にはその人の言葉が嬉しかった。その人の凡てを宝だと思った。
 共に革命を目指そうと決め、その為の歩みの、ほんの初めの一歩だったのに。
 予想外の助けが現れたと思った。その人の知己が助けの手を伸ばしてくれたと思った。ヒントをくれ、革命の胸元に引き入れてくれたと思ったのに。助けの筈のその男は、安全圏に潜り込む寸前で手を離した。何故だと問うと、その人が笑った。
 出会った最初から今迄ずっと、あの人の能力と、精神と、誇りを尊敬してる。あの人にとっての俺が、汚らわしい裏切り者だろう事が悲しいよ。
 悲しそうな笑顔に、こちらが悲しくなった。それでも、笑顔なのが救いだった。他人を心から尊敬し、信頼出来る上級な人であるのが誇らしかった。尊敬される男も上級なのだろうと思った。だが。
 尊敬する、と言われた男は言い捨てたのだ。その人の事を。奸物と、愚かと。一切矢表に立たぬ卑怯者で、価値は無いと。しかも。
 
 大事の前の小事は、消すに限りますよ。
 
 小事と。その人の事を、小事と。消すに限ると。その男が。
 笑いが、止まらない。
 その人が。
 啓輔が。
 かわいそうだ。
 啓輔がかわいそうだ。俺のために。俺の所為で。
 
 リストバンドを引き上げる。ここで繋がっているのだ。共に進むのだ。俺が行く場所へ、何処までも。
 「提案には同感だ、畔柳さん。真理は瀕死の唇からもたらされる(マシュー・アーノルド)……死に一番近い所に居る人間は言う事が違うな」
 畔柳が目を剥く。羽和泉の秘書。手を汚した過去の有無など問題では無い。安全な場所から、ぬくぬくと死を語れる幸せをかみ締めるが良いのだ。
 「さて閣下」
 長沢啓輔ならどうするだろう。啓輔なら、結論から始めるんだろう。
 「俺は今迄貴方の事を尊敬していたんだ。俺なりにね。だが今のは駄目だ。今の理屈はなってない。俺を見下して居るんだろうが、失敗したね。貴方が言ったじゃないか。良い先生がついたってさ。俺ではなく、先生を甘く見過ぎた。今のはてんで頂けないよ」
 大貫が低く笑う。ほう。楽しげな呟きだった。
 「貴方は啓輔を受け入れられない理由を三つだと言ったな。
 一、警察と繋がる奸物は危険。二、後続情報が得られなくて価値が無い。三、担保なし」
 大貫が頷く。冬馬は出窓から立ち上がった。
 ぐるりと室内を見回す。一人ひとりの顔を睨めつける。立ち上がってしまえば、椅子に座る凡ての人間より背が高いのは道理だ。ゆっくりと見下ろす。
 「呆れたな、大貫閣下。理論が破綻してるよ。
 まず、一と二は矛盾してる。あんた、啓輔に警察と通じて欲しいのか欲しくないのかどっちなんだ。警察と続いて欲しいなら、一の"情報の共有"は今後の為にむしろ有利だし、続いて欲しく無いなら警察からの情報なんて期待すべきじゃない。利を追うなら警察と通じて今後も情報を得るべきで、一の非難は全く当らない。
 しかもあんた、この行動はアピールなんだから聡い奴は気付くと言った。その為に啓輔は野に居た方が良いと。警察の中の聡い奴が気付いて、集めた情報を啓輔に渡したんだ。気付いて欲しいんだろ?じゃあ、結構じゃないか。ここでも一の非難は馬鹿げてる。野に置くのも結構だが、普通に聡い警察官より啓輔の方が聡い。読み取られ過ぎたら、1、危険じゃないのか。だったらむしろ、懐に入れて飼って置くべきだ。
 またあんたは、一切矢面に立たないから痛手が無いと、啓輔の事を言っていた。大笑いだね大貫閣下。説得力が無いよ。
 これ以上の痛手が有るかな。たった今、あんたとそこの秘書が、啓輔を殺す算段をしていた所じゃないか」
 畔柳が、ぐう、と唸ったまま俯く。反して大貫は笑いながら人差し指を振って見せた。
 「あんたとそこの秘書、ではないよ冬馬君。私と秘書と、君、だ」
 「そして、三」
 天蓋ベッドの傍らに、均整の取れた身体が立ち止まる。薄暗く設定された室内で、天井の白熱灯を背に、ベッドの上で寛ぐ男を見下ろす。逆光の顔の中で、銀色の瞳だけが光を集めていた。
 「担保が無いなどと誰が言った。
 担保はあんた達が今言ったものだよ。不足は無いだろ?危険な部外者の、命だ」
 桐江と垣水が顔を上げた。丁度二人に背を向ける形になっている冬馬の後頭部に視線が刺さる。二つの呼吸に振り返る青年の顔に宿っていたのは、底冷えのする笑みだった。
 「桐江一等陸佐、あんたは子供の遣いと言ったろう。情報ソースも知らない俺は子供の遣いだと。仰る通りだ。でもだからこそ。何も持たずにここに来ると思ったか?
 垣水部長、俺は言いましたよね。かつてこれほど真剣だった事は無いと。当然だ。
 俺はこの手に俺の最後の同志の、相棒の、命を握って来てるんだ」
 若造が。
 面に笑みを浮かべたまま、心中で舌を打つ。予想外だった。
 大貫はただ、遊んでやろうと思ったのだ。冬馬を通じてヒントを与え、長沢がどう反応を返しても、正式にこの場に迎える気などさらさら無かった。精々が外部援助の格好で、生かすでも殺すでもなく対応しようと思っていた。その際に、橋渡しに使った実働隊をからかうくらいしても罰は当るまい。そう思っただけだったのに。
 間違いだった。
 遥か遠くに居た筈の男が、目の前に居る。目の前に立つ青年の傍らに、あるいはその直ぐ背後に、こちらを向いて佇んで居るのだ。
 人に媚びるような、機嫌を伺うような、昔と少しも変らぬ穏やかな表情を浮かべてこちらを見ている。小狡い男だ。卑怯な男だ。かつて一言も無く姿を消した癖に。消えた時と同様に、唐突に現れるなどとは。忌々しい。呪わしい。
 一生、会わぬつもりだったのに。
 「啓輔を、次の"話"に加えてくれ。要求は、協力体制とその為の装備だ。
 必要なのは、俺との通信手段。それを容認する事。それだけだ。作戦時だけで充分だ。俺とだけで充分だ。本部からの通信は上位で、啓輔は下位で構わない。啓輔は俺を通じて作戦に加わるだけだ。通信は凡て傍受していて構わない。企みなどは無い。ただ、加わらせたい。それだけだ。
 作戦終了時、あんた達が啓輔を有害だと判断したら、消すが良い。ただし、」
 桐江と垣水に両腕をつき出して、青年は言い放つ。要求はシンプルだった。受け入れられれば、装備は直ぐ青年の手に渡されるだろう。目的は達されるだろう。ただし。
 銀色の慧眼が振り返る。大貫の赤い瞳を射る。
 「消す時は俺がやる。啓輔を殺す時は、この手で殺す。……他の誰にもやらせない」
 若造が。
 データなどに意味は無い。けれど凡てを知っていると、青年はかつて言った。青臭いその純情が滑稽だ。純真な慕情が滑稽で滑稽で、…腹立たしい。
 「信用できる物か。君は相棒を逃がす気だろう?」
 滑稽で、呪わしい。そんな純情など、こちらは当の昔に消えてしまったのに。いや。元からそんな物が、この身に有ったかも疑わしいのに。―― そんな物は。
 「猿楽町の喫茶店に置いて来よう。客の多い喫茶店だ、遺体はすぐに見つかる。誤魔化しは効かない」
 見たくも無いのだ。
 反らさず、突きつけられるその瞳が、恐らくはその背後に佇む男を庇うように翳される両腕が、一歩も引かぬ必死な物言いが。若くて、熱くて、不快だ。煩わしい。見たくも無い。
 「…っバカな事を……!」
 「条件を呑もう」
 「……ええ。妥当だ。条件を呑む」
 最初に口火を切ったのは垣水で、後を追ったのが桐江だった。畔柳がぎょっと顔を上げ、唯夏は溜息混じりに俯いた。大きく息を呑んだのは大貫だった。
 垣水が深呼吸する。全員の目が穏やかに自分に集まるのを待って頷く。分った、と言う替りだった。
 「皆さんの主張は至極尤もです。仰る通りだ。我々がやっている行動は宣言であるのだから、今後、凡てを読み取る聡い個人が現れるのは一向に構わない。むしろ大歓迎です。
 そうした人々がネット社会で繋がって、都市伝説さながら、都心に地方に、学校に職場に、話を喧伝してくれるのは願ったり叶ったりだ。そうしてこそ敵も感じ入り、恐れ入ってくれると言う物だ。そうでなければ困る。喧伝してくれる聡い個人は味方であって、消すべき物ではない。そう、消すべき物では有りません。彼らは一切、無害なのですからね。ただ一部。
 冬馬君を通じて我々に挑んで来たり、我々のメンバーと接触し、事情を読み取ったり、交渉を要求してくる者以外はね。
 両方をこなした個人は危険過ぎます。長沢啓輔は、有用であると同時に、今の時点では非常に有害だ。放置する事は絶対に出来ない」
 垣水の冷静な声に桐江が繋げる。
 「ではどうすべきか。冬馬君の言う通り、ここに居るべき。あるいは畔柳さんの仰る通り、消去すべき。この二つのどちらかだと言う事は確実でしょう。ではどちらか。
 その簡単なテスト法を、冬馬君は我々に提示してくれている。次の作戦への参加。勿論、作戦自体を犠牲にする訳には行かないし、直接の参加もお断りだが、条件は通信だけと言う。それなら妥当と認めよう。装備は簡単だ。我々のIDDN通信基盤を使う。自分が準備しよう。小一時間で装備を渡せる。そして」
 桐江が、冬馬と大貫、両者の意思を探るように視線を走らせ、改めて冬馬に戻した。
 「失敗した時は、自ら片をつけると約束するのであれば、我々に大した損害は無い」
 「約束しよう」
 「では、決まりだ」
 桐江がぐるりと全員を見回す。
 「異論のある方はおられませんか。異論が有る場合は、今、仰って頂きたい」
 若造が ―― 若造が。
 冬馬が大貫を見下ろす。大貫は無言のままでペルー育ちの無頼漢を見上げた。
 感情に正直な青年の、勝ち誇ったような瞳を予想して目を上げ、静かな瞳に息を呑む。
 そこに有るのは、勝利を確信した笑みで無ければならないのだ。勝ち得た物に満足し、快哉を叫ぶ瞳で無ければ、鮮やかな喜色を宿した瞳でなければならなかったのに。
 大貫を見下ろした、憐れむような、逡巡の瞳が胸の中で蒼白い炎を点す。ぢり、と胸の底が音をたてた。
 そこに、居るのだ。
 掌を翳す青年の、その中に。ほんの、目の前に。手の届く場所に。
 「どうした……?今更惜しいと言っても無駄だぜ。あんたには、消させない」
 掌が握り締められる。開かれていた掌は、硬く握られた拳となる。 若造が…若造。
 ――― 啓輔、…!!
 「異論は無いッ」
 冷えた灰色の瞳と紅い慧眼がぶつかる。双方がそのままに動きを止める。大きく息をついたのは唯夏だった。
 「……承知」
 
 桐江、垣水に続き、大貫の承認を得れば、事態は終結である。他の人間に異論が有る筈も無い。直ぐに唯夏の承認と畔柳の恐縮を得て、凡ては最後の一人に受け継がれる。
 一部始終を見守っていた男が椅子の上で居住まいを正し、ゆっくりと両掌を合わせた。
 小気味の良い破裂音がリズミカルに部屋に響き、続いて楽しげな笑い声が零れる。邪気の無い笑顔に、その場の全員が虚を突かれた。
 「いや〜〜、素晴らしい。実に素晴らしいショウを見せてもらったよ。エキサイティングで実に、そう。ピュア、だったな。
 勿論私に異論は無い。賛成だ。――冬馬」
 最後の答を聞くと同時に踵を返しかけた冬馬を、やんわりとした声が押し留める。
 今日の宴でただ一人、最後まで熱くもならず激昂もせず、どころか本心の一欠片も覗かせなかった男。柔和で人懐こい笑みの底を、一度たりとて覗かせた事の無い男。羽和泉 基。ただ一人の父を振り返る。
 「私は俄然、その男に会って見たくなったよ。だが今はまだその時ではない。いつか相見えるその日まで、幸運を祈るよ。お前とその…"ジェノサイダー"の無事を。心からね」
 父と息子の正しい有り方など知らない。ただ、息子が父を司令官と呼び、父が息子を刺客として使う関係が正しい訳は無いくらい、冬馬とて知っている。だがこの父にして、これ以外のどう言う関係が結べると言うのだろう。
 室内を振り返る。その場の全員を見晴るかす。
 「有り難うございました。俺の要求を受け入れて下さって、感謝します。――心から」
 踵を返す。
 「最後に来といてなんだが、今日は俺が最初に帰らせて貰う。偶には、こんな日が有っても良いだろ。――桐江さん」
 順番にうるさい桐江に了解を願う。桐江は異論を唱えずに、無言で頷いた。
 「一時間以内に連絡する。装備を渡す」
 「…Gracias……」
 振り返らずに、歩みを進める。
 猫のように、気配が部屋を過ぎる。ドアが閉まる音が初めて、青年の移動を知らせる。ガチャリと言う錠がかけられる音の前後に、それ以外の音は無かった。
 畔柳が真っ先に、ポットを取りに動く。続いて、全員が其々に身体を解した。
 「嬉しそうですな、代議士」
 「ああ、実に、素晴らしい気分だなぁ。大貫君、君には申し訳ないけれど」
 思わず苦笑が零れた。
 「いやいや。どうしてどうして。冬馬君は……面白い」
 突飛で、非常識で、感情的で、若い。純真さが命取りだが、どうしてどうして荒削りな割に筋が通っている。十数年前の自分なら、微塵も評価しなかった才能を、彼は持っている。その才能の名は"可能性"と言う。未知で無限の"可能性"を、青年は持っているのだ。そして。
 恐らくはそれを理解し、最大限に開花させる者。それが彼の背後に居る。
 「政治家は言葉であると言う」
 大貫の思考に割り込むようにして羽和泉が言う。大貫は無言で頷いた。
 「政治家は、言葉だ。言葉だけが凡てを動かし、凡てを作る。人を動かす言葉と言うのは、言う者をも操り、変える。理屈が合っているのは基本だが、人を動かすのは理屈じゃない。感情で、情熱だ。劣情で、慕情で、真情だ。感情を揺さぶり、情熱に火をつける言葉なのだよ。…鈍い子供だと思っていたが…変っていたな、変りつつある。
 ……実に、楽しみだ」
 羽和泉が飲み込んだ幾つもの言葉がストレートに読み取れた。
 冬馬は変った。闘争しか知らぬ子供だったのに、もう違う。感情の機微を知り、満たされる事を、揺さぶる事を憶えた。短い期間で、彼は目を見張る変化を遂げているのだ。彼が変った原因は、恐らくはただ一つ。
 長沢啓輔。彼の背後に佇む、彼の"同志"。その男の影響だ。
 彼が何処まで変るのか、実に楽しみだ。そして。彼を変えた人間にも、興味は尽き無い。
 「…ああ。同感ですな」
 興味は尽きない。これほど時が経っても恐らくは。
 二度と会わぬ筈の人間だったのに。交わらぬ筈の人生が、こうして交差すると言うのなら。途切れた筈の縁が、結び付いていたと言うのなら。
 きっと時計は動き出すのだ。また。再び。
 

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