進学組の自分が試験のために学校を休んだのだが、ソレがまさか……あれ程とんでもないことになるなどと誰が思うだろうか!!
休んだ翌日、教室の机に何かが入っている。
さすがに教科書はちゃんと持ち帰って家でも勉強している自分には覚えのないモノだった。
コピーで印刷された紙には生徒会出展「コスプレ喫茶」と書かれてある。更に、極太マジックで「コスプレ★デジコ担当、仁木」とまで書かれているのだ
。
まるで空が落ちるように理解が出来ない。
ただ、とんでもない事態であることは理解出来るが……一体デジコとはなんだ?
ただならぬ異変を漂わせていた仁木に親しいクラスメートが声をかけてくる。
「何呆けているんだ?」
のぞき込んだクラスメートの顔が引きつった。
「仁木……お前……」
「なっ、なぁ……デジコってなんだ?」
「デジコって云ったら……猫耳メイドのアニキャラじゃねーか……」
その手に詳しい友人が混じってくる。
「猫耳?メイドぉ?」
仁木が困惑していると、友人は鞄に入れていたアニメ雑誌を広げてくれた。
「ほら、これ……これがデジコ……」
がっぽ――――――――――ん!!
(仁木のアイデンティティにヒビの入った音である。)
早速昼休みに生徒会室に向かう。
途中で漏らされる笑い声は紛れもなく自分になのだろうと思うだけでいたたまれない。
勢いよくドアを開けると……其処には色とりどりの衣装が吊ってあった。
「会長……人が休んでいる間にこういうコトする人だとは思いもしませんでした!」
「あー?何か不平云うならアミダに云えよ!」
「じゃ、会長はどんな格好なのですか!!」
「店主はギャルソンと決まっている。」
この会長はやると云ったことは必ずしてしまう。だからこそ、仁木も書記を指名されたときに引き受けだのだが……(会長は選挙で選び他役員は会長の指名制です。)
「これは会長命令だ……誓約書に誓ったよね〜仁木君?」
ニタリと笑って、茶を啜る。
怒りに震えている仁木の背中には、副会長や会計の女子達がわらわらとメジャー片手に寸法を計っては紙に書き入れていく。
「あーやっぱり仁木君、背が高いから……元から短いスカートがもっと短くなっちゃうな〜」
と云うのは副会長。身につけている衣装は宝塚バリの白のラメ入りの上下だ。
「じゃースコート履かせないとダメですねぇ〜トランクスじゃ色気もありませんから〜」と云うのは会計。
その姿はピンクと白のしましまウサギだ。
「「ちょっと袖通してくれるかな?仮縫いいだけしておくから〜」」
差し出された衣装は襟に大きな鈴がついているものの紺と白の普通のメイド服だ。
僅かに仁木が安心していると……
「オプションで、これとこれが付くのよ!!」
会計の子が差し出したモノは白い猫耳のカチューシャにでかい鈴……そして猫手袋に尻尾であった。
「抵抗しても、もう生徒会の出し物はコスプレ喫茶って中等部までポスター貼ったんだから諦めるのね。」
副会長がトドメのように壁に貼られたポスターを叩く。
そこにはきっちり……コスプレ担当者の名前が記されていたのだ。
どぎゃ―――――――――――――ん!!
(仁木のパーソナリティーが砕け散った音です。)
もう仁木に云い返せる気力は残っていなかった。
放課後、学祭の準備で賑わう校内の生徒会室で、仁木の衣装合わせは行われていた。
ごつい躰もコルセットのようなウエストニッパーで締め上げられて、なかなかに見られるラインになった。
紺のワンピースの下にはルーズソックスのような猫脚ブーツに頭痛を覚えながら、差し出される白いエプロンに手を通した。
「ほら、可愛い♪」
「ヘー意外に似合わないと思っていたが、意外だ!」
「メガネはコンタクトにしてね♪持っているって、ちゃんと弟さんからウラは取ってあるんだからね?」
「あーやっぱりペチコート増やさないと……パンツ見える〜!!」
リン♪リン♪と頭に着いたカチューシャに付いた鈴に気を取られていると、メガネを抜き取られた。
「先輩、それ取られるとホントに見えないのですよっ!!」
「少しガマンしなさい、化粧の当たりが入れられないでしょ!!」
副会長に押さえられ、椅子に座らされ顔に色々塗り込まれる。慣れないニオイが辛い。
「失礼します。中等部から暗幕仕様の件でまいりました。」
ノックも無しにドアが開けられ、覚えのある声に仁木の躰がそちらを向いた、その時、聞き慣れた爆笑が室内どころか棟内に響き渡った。
予想は付いたが、メガネをかけ直してそちらを見ると、中等部の制服のままの弟が床に転がって笑っている。
ヒーヒーと呼吸も苦しげに痙攣すら起こしかねないほど笑い転げているのだ。
さて……一騒ぎあった帰り道、傷心の兄を弟は校門で待っていた。
「なぁ兄貴〜!!」
「云うなっ!!云ったらしばらくお前の勉強は見ないぞ!!」
グッと詰まった弟の顔が情けないほど崩れる。
「そんなぁ〜兄貴がこ〜んな面白いコトをするって云うのにぃ〜」
「五月蠅い、家でさっきのコトに触れるなっ!いいなっ!!」
「触れたら?」
「お前のテストの点数からマイナス70点の数字を父さん達に見せられるのか?」
「兄貴ぃ〜!!」
「全く、今回は殆ど騙されたようなモノだ。誓約書盾に取りやがって……」
「でもかなり可愛かったぜ?」
ピラリとポラロイド写真を見せる。
「こらっ、返せ……」
勢いよく伸ばされた兄の手を払い、胸ポケットにしまい込む。
「いつも真面目な兄貴がこんな格好しているって、ある意味脅迫できるネタだよな(笑)」
「お前……知っていたな……」
ひきつる仁木に間近で迫る弟はニンマリと笑っている。
「ええっー心外!!お兄さまったらボクのことをそんな風に考えていたのぉ〜!!」
手を握りしめてくねくねとする弟に、脱力を感じながら頭を抱える。
「判った、勉強はちゃんと見てやるから……このことにだけはもう触れないでくれ。」
肩を落として諦め気分で帰路に向かう仁木の背中に弟の追い打ちがかかる。
「これって、まだいっぱいあるんだぜ?着替えている最中とか、化粧しているのとか……当日も写真部に頼んで色々取るんだって。卒業アルバムに載せるって高等部の会長云ってたぜ?」
ちゅど――――――――――――ん!!
(仁木はお星さまになってしまいました。)
後日、学祭で仁木のメイド姿は「優等生の意外な一面」と有名になり、生徒会の喫茶店は今までにない売り上げを記録したとか……
十数年後、この世界に入った仁木に数年ぶりに会いに来た弟は手土産と称してあるモノを置いていった。
それは、青いベルベットのアルバムに貼られた仁木の………
ドウッ!(銃声)
※作者が撃ち殺されてしまったようです(笑)ではここまでということで