裏NIGHT BLOOD

            by hanako



 
 新宿のバー「キッド」の店内では、今夜も喧騒が始まっていた。
 何ヶ月か前までは、割と静かな店だったのだが、ある新人ホストが入ってからと言うもの、1週間に1度は騒ぎを起こしていた。今夜はまだ静かな方である。店内だけで済んでいるのだから。 その夜、渦中の新人ホストの亮はひどく酔っていた。
 客の要望に応え、数人で飲み比べ大会を始めたのだ。1人脱落し、また1人。そして、残ったのは亮と女性客の2人だけになった。
「イッキ!イッキ!」
 観客に煽られ、女に負けられないという意地もあり、店長と良識ある同僚の視線を無視し、飲み続けた。
「ぷはっ。もう1杯注げ〜!」
 手にしていた酒を飲みきり、ダンッと机にコップを力強く置いた。
「コ、降参降参。」
 女性客は流石に無理と悟ったのか、コップ中程に酒を残し、白旗を揚げた。
 オォー!と歓声があがる。
「へへ。勝った勝った〜。」
 観客の拍手に答え、くるりその場で一周したとたん、彼はソファに倒れこんでしまった。
 どうやら彼自身の許容量を超えてしまったようだ。客との勝負には勝ったが、酒には負けたと言えるだろう。
 結局、亮はそのまま眠ってしまった。顔色が悪い。急性アルコール中毒の心配があり、放っておくこともできないので、2人がかりで控え室まで運び、流しで意識のないまま水を大量に飲ませ、吐かせ続けた。無理矢理吐かせられるほうも大変だが、吐かすほうも重労働だった。両脇で支えている2人は汗と水と吐瀉物でワイシャツがどんどん汚れていった。
 頃合を見計らって1人が言った。
「もういいだろ。」
「そうっすね。」
「…しかし気持ちよさそうに寝てるな。おい、疲れてるところ悪いけど、店長に落ち着いたって言ってきてくれ。」
「はい。光さん。」
 後輩ホストが出て行った。ふぅ、と溜息をついて時計を見る。終電がなくなり、店で夜を明かす客層になる時間だった。
「夜はまだこれからだっていうのに…。」
 この意識の無い新人ホストは仕事にならないだろう。自分自身もスーツの替えなんか持っていない。早退させてもらおうと思った。
「光?亮が落ち着いたって?」
 店長のキッドが、呼びに行ったホストと入ってきた。
「はい店長。顔色も良くなったんで、寝かしとけば大丈夫だと思います。それで、俺今日は早退させてもらってもいいですか。」
「そうだね。いいよ。あ、でも3人も減るのか。困るな。」
「あ、俺服の替えあるんで出られますよ。」
 濡れたカラーシャツを脱いで、私服の白いTシャツを着て椅子にかけていたスーツを羽織る。ズボンが少し濡れていたが、誤魔化せないことはなかった。
「本当だ。じゃあお願いするよ。ソファ席のお客さんに亮は無事ですって報告してきて。」
「っす。」
「光。悪いけど亮を送ってってくれる? 明日は店が休みだから、明後日こってり絞ってやるって言っといて。」
「はい。」
 

 ドサッ。
 光は自分のマンションのベッドに亮を下ろした。さっきまで亮の腕が乗っていた肩がジンジンする。
「重かった…。」
 亮を担いで店を出たあと、光は確かに亮の家の前まで行ったのだ。しかし、鍵が見つからない。もともと鞄を持たないことを知っていたので、ロッカーの中は確認しなかった。上着のポケットに全て入っているはずだった。それなのに。財布も携帯も入っているのに、鍵だけが見当たらなかった。
 もう秋の初めだし、ドアの前に放っとくほど光は冷たくはない。
 とうとう諦めて、自分の部屋まで担いできたのだった。
 店を出てから約1時間半、都内をグルグルしてしまった。
「なんなんだ。今日は。厄日なのか。」
 人間は重かった。光は汗だくになっていた。とりあえずシャワーを浴びようと思って立ち上がろうとすると、立ち上がれない。見ると、亮が半目を開けて袖をつかんでいる。
「おまっ起きてたのかぁ!?」
「光さん…?」
 まだ酒が残っているのは明らかだった。ろれつが回らず、ヒヒャルサンと聞こえる。目も焦点が合ってない。
 亮に見つめられ、光は妙な気分になった。鼓動が少し速くなり、何より顔が赤くなったのが自分でもわかる。
「亮!お前はなぁ、店で酒を飲みすぎて倒れたんだよ!それで俺がお前を家に連れてきてやったの!覚えとけ!」
 いつになく声が荒がる。光らしくなかった。動揺を隠そうとしているのかもしれない。
「俺はこれから風呂入るからな!お前は大人しく寝てろ!」
「うん…。」
 また目を瞑った。亮の視線から逃れ、少しほっとする。
 亮の酔った目に見つめられて動揺するのも、俺も酔っているからだと思い、さっさと汗を流そうと風呂場に逃げ込んだ。
 しかし、光と亮の夜はまだ始まったばかりだということに、本人はまだ気付いていなかったのである。
 
 シャワーを浴びた後、湯船に湯をためているちょうどその時、ガツンと音がした。
 湯船の中で心も体もリラックスしていた光は、亮のこともすっかり忘れていた。しかし、明らかに人為的な音に、一気に現実に引き戻された。今家の中でこんな派手な音を出す奴は1人しかいない。
「あの酔っ払い!」
 裸にタオル1枚腰に巻き、風呂場を飛び出した。
 すると、亮は脱衣場に倒れていた。あれは亮が倒れた音だったのだ。慌てて顔を覗き込むと、まだ酔った目をして、一応意識はあった。
「おい酔っ払い。何がしたかったんだ?」
「あ〜ひか…さ、ん。俺も風呂、入りて…な。」
 ぶちっ。光の堪忍袋の緒が切れたのはこの時だった。飲みすぎたこいつを介抱してやって、1人で担いで部屋にあげてやって、その上大人しく寝てろと言ったのにまだ面倒を起こしやがる。
「なら服を脱げ!!俺はまだ風呂の途中なんだ、先に入ってるぞ!」
 と見当違いのことを口走ったのも怒りのせいだったのだ。最初は。
「ひ・かるさ〜ん…。」
 しかし、光が文句を言いながら湯船につかっている所に、半裸の亮が入ってきたとき、光は明らかに別の堪忍袋の緒が切れてしまった。
 金の髪。火照った顔。ズボンは脱いでいるのに、シャツは脱ぎかけている。シャツは下半分のボタンを外していない。そんな格好で近寄ってくる。
「俺も、入っていい…?」
 ドクンッと心臓が一跳ねした。
 それは、今日1日の疲れは全てこの新人ホストに起因していると思い返したからかもしれないし、過去にこの風呂場で金の髪の女を抱いた記憶に体がリンクしたせいかもしれない。
 どちらにしろ、それは言い訳だった。
「服は、脱げよ。」
 今の光に怒りはなかった。ただし、理性もなかったのである。
 
「ひ、ひか、るさ…。」
「靴下も脱がないと、な。ほら。水の中だと脱がしにくいな。」
 2人一緒に湯船に入っている。光は亮を後ろから抱きかかえる形で。湯船は足を伸ばしてもぎりぎり入れる、ちょうどいいサイズだった。
 なぜだか亮がかわいくてたまらなかった。抱きたくてたまらなかった。普段口答えばっかりしている後輩が、目を潤ませて大人しくしているさまなど、光の体の欲望に火を点けるのに充分だった。
 ピチャッ。
 白いうなじにキスをする。ヒァッと亮の声があがる。それだけで光の体は熱くなっていった。
 亮は亮で、背中に当たる固いものが何であるか、本能で分かっていた。そして望んでいた。頭のどこかで拒否するものがあったが、光の優しい手つきにどんどんおぼれていった。
 振り向いて自分からキスをする。光は驚いたが、嬉しくなってお互いを求め合った。
 息継ぎを求め、一瞬唇が離れる。
「亮。ここ、触って。」
 亮の右手をとって、光は自分の高まりに誘導した。
「あ…。」
 光は再びキスを求め、自分の右手は彼の腹部に、左手は髪を優しく梳る。下の毛を触られ、亮はザリッという感覚に身震いした。段々腹部から中心部へと近づく。
 恥ずかしくて直視していないのに、触られている自分の物を想像して、興奮する。
「ほら、もっと俺のも触って、亮。」
「ハッ、ァ…。」
 耳元で囁かれ、耳たぶを舌と手で愛撫され、何も考えられなかった。
 光の右手が、玉から優しく撫で上げる。
 ハァ、ハァと息が上がってきた。
 摩るように亀頭に達し、親指で割れ目を辿った。
「あ、亮、すごい、よ。水の中でも出てるって分かる…。」
「ひか…だって。もうこんな硬く、なって…。」
 光は何を思ったか、急に愛撫を止め、亮の両手を反対側の蛇口に、放ってあったシャツで縛りつけた。そして足を折り曲げ、腰を水面に浮かせ、自分の目の前に亮の尻が来るようにした。
「何、ひか、るさ…ん。」
「亮、亮、先にイって。」
 何故と問う視線は無視し、光は亮を素早く扱き出した。亮はあまりに恥ずかしくて、抵抗する。
 しかし、水の中で扱かれる感触はあまりに気持ちよく、同時に尻の割れ目をなめられるのもぞくぞくして体が言うことを聞かなかった。
「あ、あぁあ!気持ち、い…!」
「かわいい、亮。なんで今日はこんなに…。」
 あまりに気持ちよくて、亮は光がもう1つ別のことをしていることに気づかなかった。
 光は片方の手で亮のものを扱き、空いている片方の手は石鹸をつけ、水面すれすれのところにある穴に少しずつ挿入していったのだ。
 思ったよりも入りにくい。前に抱いた女はこれでよかったのに。
「あ、あぁ、そこ、いい!何…?」
 まだ少ししか入れていない指に亮が反応した。
「いい?亮、ここ?ここか?」
「あ、あ、あぁ…出る…!」
 あまりの快感に亮はとうとう湯の中に射精した。
 
「ひか、るさん、恥ずかしい、っす、よ。そんな。」
「亮、お願いだよ。さっきみたいに気持ちよくなれるから。
 亮だけ先、にイって羨ましい…。俺、も気持ちよくなり、たいよ。」
 2人はベッドに移動していた。
 体を軽く拭いただけだが、そんなことお構いなしに体が絡み合っていく。
 亮はうつ伏せで、腰を高く上げ、枕に顔を押し付けていた。
「亮、さっき言ったみたいに。ほら、手でここ広げて。」
「ん…。」
 亮は覚悟をきめたのか、そろそろと光の指示に従うように、片手を自分の尻まで導いた。
「両手で。」
 一瞬体がびくっとし、それでも素直に両手で少しずつ両側に広げていく。
「そう。よく見えるよ。さっき亮が気持ちよくなっていったところが。すこぅし膨らんで…。」
 光は亮の体には触れていない。だが、亮はどんどん興奮していった。
「亮、俺が亮の中に入るのには、もうちょっと、待って。」
 シュッシュッと光は自分自身を扱き出した。だいぶ前からお預けを食らっていた光のそこは、すぐに最大限に膨らんだ。
「さぁ…。亮の中に入る前に、準備するから、ね。亮の一番いいところに…。」
 亮が両手で開いて待っている健気なそこに狙いを定め、光はドクッと射精した。
「あぁ!!」
 亮は、こんな微かな刺激に震える自分が恥ずかしかった。いや、悦びに必要な刺激がこんな微かなものなのかと、亮は初めて知った。
「よし、命中…。ぐっちゃぐちゃに濡れたよ、亮のここ…。」
「あぁ…!ひかる、さ。ひでぇ、よ…もっと、もっとして、よ。」
「亮、かわいい。でも男は濡れないんだ。こういう準備が必要だったんだよ。」
 亮は涙目で光をにらんだが、却って光の回復が早まっただけだった。
「俺、もういける。亮があんまり、かわいいから。」
 1度出したばっかりだというのに、光のそこはすぐに大きくなっていた。
 グチュッと音をさせ、亮のそこにあてがう。
「痛かったら、言って。」
 一応断りを入れる。亮は1度光のほうを振り向いて、目が合うと、すでに赤い顔を更に紅くさせて目を逸らした。
 光は亮の全てがかわいくて、どんどん挿入していった。
「あ!あぁ!あぁ!」
「く、狭…!」
 やっぱり狭い。亮はどっと汗が吹き出ている。一気に入れすぎたか。
「力抜いて、亮。」
「ムリ!」
「分かった、1度出すから。」
 その言葉に安心したのか、体から力が抜けていったのが分かった。その機会を逃さず、一気に突き入れた。
「あぁ―――!!」
 その後ズルーっと抜き出し、笠のへりで入り口付近をこすった。
「絶対、気持ち、よくしてあげるから、亮。ここ?さっきはここら辺だったよな?」
「う、う、後ろの方をもっと、も…。」
 光は亮のものを扱き、中では笠のヘリでさっきのポイントを探していた。と、びくんと竿が上を向く。
「ここ?ここか、亮?」
 返事はない。快感で頭が正常に回転しないから。顔は見えなかったが、明らかに勃起しているので、そのまま続けた。少しずつ、奥の方まで挿入していく。
「あ、もっ抜いて…!!」
「こんなに気持ちいいのに、抜くの、もったいない。」
 そう言った途端にぎゅうぅっと絞ってくる。光は挿入を早め、どんどん絶頂に近づいていった。
 亮はたまらなくなって自分で自分の物を扱き出す。
「あぁっ…!!」
 最後の声を出したのは、どちらが先だったかはわからない。だが、2人はほぼ同時に絶頂に達していた。
 
 

 ベッドの中、先に起きたのは亮だった。
 頭がひどくがんがんする。ベッドから起きようとして、体がだるいのに気付いた。セックスした後の体の気だるさ。またどこかの女の部屋に上がりこんじまったようだ。だってここは俺の部屋じゃない。
 でも、なんだか様子がおかしい。この部屋は、女の匂いがしない。
 頭は半覚醒のまま、ぼんやりしていると、下から声がした。
「う、ん。」
 亮はぎょっとした。ベッドの中には男が居たのだ。それも、職場の先輩がだ。
「光さん?」
「あ?おはよう、亮…。」
「俺、なんで光さんチ泊まってんすかぁ!?」
「お前、昨夜の事なんにも覚えてないの、か?」
 思いっきり頷いた後輩ホストに、先輩ホストの顔で言ってやった。
「新人ホストの亮君は、お客さんと酒の飲み比べをして、最後ぶっ倒れちゃいました。傍に居た親切な先輩ホストは、そいつを介抱してやり、なんと家まで担いで連れてきて、1つしかないベッドで寝させてやった。そういうこと。」
「あぁ、そう言えば…。」
 そんな気もする。
「迷惑かけてすんません。」
「よし。明日、そうやって店長に素直に謝れ。今日は店は休みだ。俺はもうちょっと寝る。お前のせいで夜遅かったんだから。」
 寝たのは明け方で、今は夕方なのだが、夜遅いという表現をやはり使う。
「そんじゃ、ぐっすり寝てください。俺、邪魔しないようもう帰るんで。」
「ん。あ、服は洗濯機の中だ。俺の服貸してやるから、勝手にとってけ。」
「どもっす。」
 でもなんで素っ裸なんだー?と疑問を口にしながら、シーツを体に巻きつけ、上着、ズボンを探している。
 不思議だった。昨夜はあんなに欲情したのに、今見ると、ただの男で、ただの後輩だった。彼が覚えていないなら、それでいい。
 だって昨夜だってあんなに快感を共有したのに、好きだとは、どちらも言わなかった。
 一夜の夢だ。
「あ、光さん。光さん。起きてください。鍵どうしましょう?俺が出てったら、内側から掛けないと、不用心でしょう?」
「ん。合鍵あるから、明日返せ。」
「はい。あ、洗面所借りますね。」
「ん。」
 あ。鍵といえば。
「亮ー!お前の家の鍵持ってくるの、忘れた。上着に入ってなかったぞ。多分まだ店のロッカーの中じゃないか?」
「え!?あ、ああ財布の中に俺、鍵入れてんすよ。無くさないから便利っすよー。」
 光はベッドの中に入ったまま、しばし固まった。
 財布の中に?じゃあ、もともと俺は、都内を1時間半もグルグルする必要もなかったし、亮を担ぐような、あんな苦労をしなくても済んだんじゃないか!?
 なんだか無性に腹が立って、近くの物を投げつけた。
「うわ!何するんですかー?」
「うるさい。腹が減って死にそうだ。近くのコンビニでなんか食うもの買って来い。帰っていいのはそれからだ!」
 物を投げつけられた理由は納得してないが、泊めてもらった恩もあり、しぶしぶ承知した。
 亮がまた洗面所に引っ込むのを確認してから、本当に疲れていた光はまたベッドに横たわった。
 次に起きる頃には、亮が買ってきた夕飯を食べれるだろう。そう思うと、幸せに眠りに就いた。
 最後に残ったのは、体に残る、明らかなセックスの跡を疑問に思う亮だけだった。
 

 

END
 

 

わはははははははは、はっえ――!! NBでこの手のネタがもう来るか!! しかも光で! 一番可哀想なのは、あいつじゃん。無実なのに。
と言う訳で、お望みの亮クンがヤられるバージョンです。
だ、……誰が望むか……!! しかも光先輩って。全然こう言うタイプじゃねーだろーよ!!
良いんだって。NBキャラは、まだまだ後半年位しないと各人のキャラクターは出て来ないよ。最初は兎に角直情径行のホットな主役と、ミステリアスな準主役だけ覚えて貰わないとならないでしょ。光はその後。それだけに、……ぷっ。 …くすくす。
わははははははは、光に抱かれてやがんの、こいつ――――― !! (爆笑)
ブチ殺す!!
  評価点(10点満点) A/T酷点:9亮怒点:10