「くそが……」 俺は何故またここへ戻って来た? 李の元へ行くと言ったアイツの居る部屋の明かりを見上げるだけで……俺はこんな所で30分以上も何をしてるんだ。日が変わっちまうぜ。 薄汚れた電柱に凭れて、もう何本煙草を無駄に吸っただろうか。 こんな所を組の若い者に見られでもすればいい笑い者だ。 かといって、死にに行くも同然の男の部屋をそう気楽に訪ねて行くわけにもいかず…ただ苛々するだけ……。 だが、それもほんの少し前の事だった。 ボーっとしてる所を出勤で出かけようとして出てきた当の本人に見つかり、今、ソイツの部屋で、俺は熱いコーヒーのカップを持ってソファに腰を降ろしている。 「ビックリしましたよ沙門さん。てっきりもう来ないとばかり思ってたから」 「来ちゃ悪いかよ。俺の勝手だろうが」 「そうですね。ホント言うとすごく嬉しいです。できるだけ長く居てくださいね」 「フン…」 穂邑。馴れ馴れしく隣に座ってニコリと笑うその女みたいな顔も仕種も反吐が出る程むかつくハズなのに、俺はこのガキに欲情する。 具合がイイだけじゃねえ。得体の知れねえ何かが…俺を惹き付けるんだ。 「あ…沙門さん…?」 肩を抱くとスッポリ腕に収まるこの感じがたまらなくイイ。 「ん…ッ」 このガキゃあ、もうキスも拒みやしねえ。自分から舌突っ込んで欲しがりやがる。細い指が俺のモノをズボンの上から握り、捏ねる。 上も下も俺が欲しいなんてな。 しかも、俺と一晩過ごす為だけに、出勤直前に電話1本で仕事をサボっちまうたあ…最高に淫乱で貪欲な…家来だぜ。 「上等だ。覚悟しろよボウヤ」 「はい。沙門さん…」 俺からすれば小柄な体をベッドに放り込み、シャワーも浴びずに後ろから犬みたいに犯す。男慣れしたその身体は、最初こそ僅かな辛さを訴えたがすぐに歓喜の液を滲ませた。 「ああ…沙門さん…もっと……もっと来て…!」 涙を浮かべながら誘うこの男。 俺が『欲しい』と思った男。 今は確かに俺のモノだ。 だが、これからはどうだっていうんだ? 李 朝民。近い将来に俺を殺しに来る敵。 『僕は王である貴方を守る家来です』 そう言って、俺を殺させない為だけに、その男のもとへ潜り込むのがこのボウヤだ。 だが…人の心程変わりやすい物は無い。 ボウヤとて、自分の命が惜しくなればいつ何時、李に寝返ったとしてもおかしくはないんだからな。 他人の為に死ねる奴なんざ、そう居る筈がねえんだ。 コイツだって本音は死にたくなんかねえんだろう。 「ちっ…」 こんな情事の間に何考えてんだ俺は。こいつの身を心配?くだらねえ!! 俺はこいつの王だ。王様は家来に何をしたってイイんだよな? 苛々するのももう沢山だ。ウサ晴らしさせて貰うぜ、悪く思うなよ。 「さ、もん…さん??」 何も言わずに後ろからズルリとモノを抜き取り、俺はその辺にある、ネクタイやらベルトやらの細長い紐になりそうな物を何本か集めた。ベッドの上でボウヤは不安げな目を向けてくる。 「ジリジリ見んな。ちゃんと楽しませてやる」 ニヤリと笑って言うと、オンナよりはにかんだ表情で俯きやがった。 芝居だとしても…嬉しいねえ。 「暴れると跡が付くぜ、大人しくしてろ」 「ちょっ…沙門さん!?」 馬乗りで押さえ付け、ボウヤを後ろ手に縛る。外れない様に数本使ってグルグル巻きにして固めると困った目で抗議されたが、そんな事気にしてられっか。 「解いて下さいよ。僕、爪痕付けない様に気をつけますから…」 「んなんじゃねえ…。大人しくしてりゃそう跡は残らねえよ」 「でも、あッ!?」 乱暴に脚を開かせ、腰を持ち上げて前から突っ込む。 先端だけが少し詰まったが、後は楽に入った。程よい締め付け感に頭がクラクラするぜ。 「今度は最後までヤってやる」 「はい…」 中断されて行き場を無くしていた快感が俺達を飲み込む。 自由にならない腕に身悶えしながら、ボウヤは何度も俺の名を呼んだ。 「沙門さん…ああ……沙門さんッ…」 「もっと声出せ。しばらく聴けなくなるんだからよ…ッ!」 催促する様に腰を打ちつけると悲鳴に似た声が上がる。 「ひああッ!…沙門さァん…うっ…沙門さ…ッ」 「もっと呼べ!もっとだ!!」 激しい動きに必死に合わせようとするボウヤの身体も悲鳴を上げる。 入口は摩擦で熱を持ち、どうやら何ケ所か裂けてるみたいだ。出入りする俺のモノが血まみれで鉄を含んだ匂いが鼻を突く。 ボウヤを犯しながら思った。 『いつもの俺じゃねえ』 正直言えば、こいつを李に渡したくなんかない。 俺はまだボウヤを知らない。 知らない事が多すぎる。 知りたい事も……。 なのに引き止める事が出来ない。 そうか。苛ついたのはその所為か。 俺を王だと崇めながらも自分の心を曲げないこの男。 そんなボウヤを手放したく無いなんて女々しい考えを起す自分。 両方に苛ついてたって事か。 「うあッ!い、痛いッ痛いよぉ…沙門さ…酷くしないで…ああッ!」 「煩ェなッ、黙って腰振ってろ!」 腹の底で渦巻く不快感をどうにか収めたくて、俺は苦痛を訴えるボウヤの声を無視して、有無を言わせずに最奥を突いた。 早く出して楽になりたい。そう思って狂った様にピッチを上げる。 だが、打ち込む度にギュっと目をきつく閉じるボウヤを見て、俺の胸が痛むのが分かった。 これが…今まで感じた事の無い、他人の痛み。なのか? だとしたら、コイツは俺の中で相当にデカい存在になっていたのかもしれない。 「くそがッ、くそがッ!!」 今更どうしろっていうんだ?もう俺達のやる事は決まってしまった後だ。 「くそがぁッ…!!」 脳裏に浮かぶ真っ赤なビジュアルの中で俺は、あろう事か、目の前の小さな男に救いを求めている…。 (痛ェ…痛ェよボウヤ…。助けてくれ…) 痛い。胸が痛い。 どうにもならない自分の心に悪態をつく事しか出来ない。 狭い場所に打ち込む度、自分の胸に杭が深く突き刺さってくる様な感覚。 心臓から鮮血が噴き出し、失欠死するのは快感らしいが。 ……1ヶ月後が1週間後か1年後か。 どす黒い血溜まりの中で横たわるのはコイツか。俺か。 それとも李という男か。 どちらにせよ、必ず俺達は傷付く。それに変わりは無い。 運命なんて言葉は嫌いだが、俺達の出会いや未来は…運命の悪戯としか言いようがねえ気がするぜ。 そんな最悪な運命を自分から選んだお前となら… (共に傷付くのもいいかもしれん…) 俺らしくもねえ考えが過った瞬間、感覚を無くしていた身体に熱が戻った。 急激な射精感に襲われる。 「ううッ…ぐ…くそッたれが…中で出すぞボウヤっ…!!」 「沙門さ…ん、中に…出して…!いっぱい…ああッ!!」 ……精液と血の匂いが生々しいぜ。 ***** 「じゃあ…気をつけて沙門サン」 「おう」 「また来てくれます?」 「阿呆が」 「ですよねえ」 玄関のドアの内側。 このドアから一歩出れば、俺は鹿野組NO.2の沙門 天武に戻る。 出るならまだ夜の明けない今がいい。 「まあ…生きてたらな」 「はい」 名残りを惜しむキスをそれなりに受け流して部屋を出て、マンションのエレベーターに乗り込む。胸の痛みは奥の方で燻ってはいるが、先程までよりはマシだ。 「ちっ…くそったれ…」 チーンという音と共に1階に着く。マンションを出た所に見慣れた黒い車があった。眼鏡の男が…無言で『乗れ』と合図する。 …ったく。いつ来たんだか。 「泊まるのかと思いましたよ」 「んなワケあるか。ボケ」 「戻りますか?」 「おう」 それだけの会話で車は走り始める。 バックミラーに映る建物が見えなくなった頃、男はポツリと言った。 「あんたらソックリだよ。好き好んで死にやすい道を選んで行くんだからな」 「………」 そうだな。とは口が裂けても言いたくねえ。 苦笑してると、バックミラーの角度を変えて俺を見て追加の一言。 「ホント、あんた達はお似合いだ。生き延びられたらハネムーンでも行くんだな」 「ほざけ」 2人、どちらからともなく笑いがおこった。 きっとこれはこの男が俺の心を軽くする為に振った話題だとは分かってる。 だが、助かった。笑った事で気が軽くなって、これでアイツの事を引き摺る事無く組に帰れそうだ。 「いい女房になれるぜ、仁木」 「あんたのカミさんなんて死んだって御免こうむるね」 もう1度笑った後、シートに身を預け、これからの事を考える。 まずは生きる事だ。 生きる為に考え、最善の行動をとる事が不可欠。 そして、その為に必要な情報を手に入れられるかはボウヤ次第。 「お前等…死なせねえからな」 「はい?何か言いましたか?」 「いや。何も」 今夜は頭を使う事が多すぎだ。…酷い夜だぜ。全く。 もうすぐ、車は事務所の近くに差し掛かる。 小さく溜め息をつくと、俺は表情をいつもの自分に戻した。 |
沙門にも多少はまともな神経があったって事でしょうか。つーか、この時点で分かったなら止めれっつーの。 | ||||
ごちゃごちゃ言うんじゃねーよ。ボウヤは李の許へ行った。俺がやらせた。それだけだ。済んだ事だ。 | ||||
………よ、良くそう言う事が言えるな、このニブ恐竜。
まあ、でも……それについちゃ分かる所も有るけどさ。少しは穂邑に優しくしてやってよね。 | ||||
………けっ。やかましい。 | ||||
評価点(10点満点) | A/T酷点:6 | 沙門怒点:6 |