どごっっっ!!!!
すごい激突音が空を駆け抜ける。
それを追いかけるようにまわりで拍手が起こり、その同時に人々が逃げ出した。
「やったぜーーーー♪」
亮の声だ。
後にはうめく沙門と彼を心配する穂邑だけが取り残されていた。
何がおこったのか。
事の起こりは何気ない戯れだった。
「僕、結婚したいな。」
穂邑のマンションで穂邑と沙門がコトを終えた後、ベッドで青年が何気なくつぶやいた。隣でタバコをくゆらせていた沙門がむせこんだ。
何言ってんだ。コイツ。
沙門は、だが何となく口に出してみた。
「そんならするか。」
穂邑は思わず自分の耳を疑ぐるように沙門を見つめてきた。
「え!!!!ホント??沙門さん頭おかしいんじゃないの?」
うっせえと沙門は穂邑を殴った。
「わー御免なさい!御免なさい!するするするする!」
気が変わっては大変と穂邑が慌てて沙門にじゃれついた。
沙門はそのまま穂邑を抱きこんで四股をいじりだす。
「あ……っ」
その時は沙門は本当にちょっとした冗談のつもりだった。
だが、なぜかその話はそこにだけにとどまらず、亮や仁木にまで広まり、気がつけば今日は結婚式という日になっていた。
すごいゴーインなスペサルな展開。
さて天気は素晴らしい晴れ。
超豪華なホテルの一室で結婚式は催された。
ヤクザが続々とやってくる。
たまたまそこに居合わせた普通の一般人はびびりつつも、なんだなんだとうわさしている。
何でもヤクザの結婚式だとか。えーっ。そんなんあるわけないでしょ。ホント、ホントだってば。キャーーーッ。
なぜこうなるんだ。ばかばかしい。男同士で結婚など…!なぜこうも話が進み、しかも俺はなぜここにいる。
沙門は額に青筋をたてていた。
そりゃそーだ。
その沙門を恐れて誰も近寄らない。
近寄れるのは仁木と穂邑くらいだ。
その穂邑がすごく嬉しそうに沙門のまわりではしゃぐので、沙門も仕方ないなあと思い始め、おとなしく進行に従いだした。
一通りの儀式を終え、晴れて沙門と穂邑は夫婦となった。
こんなに簡単に夫婦になれるもんなのか?しかも男同士だぞ。
沙門は頭を抱えた。
だが、穂邑はさして疑問も持たず、嬉しそうに沙門の隣にいる。
仁木もフシギそうな反応は示さず、当たり前だというかのように沙門の側にしたがっている。
「うおっす!沙門さんがこんなことやると思わなかったぜ。」
日本酒を片手に亮が沙門に近寄ってくる。
だまれ。と沙門が亮をじろりとにらむ。
「ちっとは嬉しそうにしてりゃーいいのにさー。蔵馬なんかショックのあまりヤケ酒あおっているし。」
亮は肩をすくめてその隣にいる穂邑に日本酒を注いだ。
「ありがとう。僕もこんなことになるなんて全然想像も出来なかったよ。」
穂邑は嬉しそうに微笑んだ。
「かーっ当てられるねえ。」
二人から離れた亮はニヤリと小悪魔的な微笑みを浮かべて、「ちょっとちょっと。」と蔵馬や仁木を呼び寄せた。
「あんたらの協力を頼みたいんだけどよ。……したいんだけどさ、ガタイのいいやつ出来るだけ集められる?」
その話を聞いた蔵馬はすぐにノる!と頑張りだし、人を駆り集めに出かけた。
仁木は「……。ノッた。たまにはこーいうのもよかろう。ガタイのいいやつなら余ってるぜ。」
嬉しそうにめがねを光らせ、舎弟に声をかけた。
楽しげなさざめきの輪が広がってゆく。
亮のわきで声があがる。
「楽しそうじゃんー?混ぜてちょうだいよん。」
尖だ。
「もう誰でもいいよ。やれるやつならさ。」と亮が楽しそうに騒ぎに拍車をかける。
部屋の隅っこにはひっそりと朝民と伯芳がいた。
「いいんですか?のらなくて。」
「何故、私がそんなことをしなければいけない。」
朝民はぐいっとアルコールをあおる。
「そうですよね。」
穂邑が周囲を見回し
「なんだか盛り上がってますね。」
沙門は少し気持良さそうに酒を飲み干す。
「こんな夜もたまにはいいですね。でもそろそろ解散させないといつまでも続いてしまう…。」
そうだな。ボーヤの体が恋しくなってきたところだ。
その時、亮が穂邑と沙門の前に駆け込んでくる。
「ウォッス!楽しいこの時間をいつまでも…と言いたいとこなんだけど、そろそろお二人だけの時間をあげたいんでー」
「その前にささやかだけど、沙門さんを胴上げさせていただきたく…」
亮が言い終わる間もなく、人々がわあああっと沙門を取り巻く。その中には蔵馬も仁木も尖もいる。
なんだ。なんだ。なんだ。
沙門はあっという間に人々の手の上に持ち上げられていた。
ホテルマンが心配そうにおろおろするのが見える。
なんだ。仁木!貴様まで。
しかし仁木は「悪いな。」とつぶやくだけだ。
人々の上では沙門はどうすることも出来ない。
「せーの!」
亮の号令とともに人々の手が下へと動き、その反動で上へと押し出される。
沙門は素晴らしい音とともに天井に激突した。
かくて冒頭の書き出しに至るわけである。
天井には素晴らしい人型が出来ていた。
これだけのあとが残っているにも関わらず沙門は少し青あざができただけだ。
天井の方が気の毒だったかもしれない。
さすが沙門。
さっきまで楽しげに騒いでいた人々はもうどこにもいない。
「沙門さん大丈夫?」
穂邑が一生懸命冷たいタオルを沙門の顔に当てていた。
ひんやりしたタオルと青年の手が心地よかった。
これくらいどうってことねぇ。沙門はうめく。
あの野郎どもが…!覚えてろよ!
歯軋りしたところで沙門は目がさめた。
「あ?……。」
まわりを見回す。
そこにはボーヤが寝息を安らかにたてていた。
見慣れたボーヤのマンションの部屋だった。
「ああ…夢か。」
なんつー夢だ。しかも結婚だあ?やけにリアルだったな。
ボーヤが聞いたらどんな顔をするだろうか?
沙門は頭をぼりぼりかいた。
俺も焼きがまわったと見える。くだらねえ。
穂邑に手をやり、横になる。
青年はムニャ…とつぶやき、沙門にすりより再び寝息をたてだした。