「やっと着いたぁ。大丈夫ですか?沙門さん。」
「あぁ…」
鹿野組の新年会からやっと解放された二人は転がり込むように穂邑のマンションへ。
「皆すごいテンションでしたね。すごい量飲むし、皆。」
「あんなもんだろ、普通。」
平和な時間が流れていく。穏やかに。二人の会話だけが心地よく部屋に響いていた。
「お風呂入ります?さっぱりしてから寝た方がいいでしょう?」
「そうだな。」
穂邑は先に脱衣所に入って服を脱ぐ。後ろに沙門の気配を感じて振り向く。
愛しい何にも代え難い大切な人。
「先に入ってますから、早く脱いでくださいね。」
自然と笑みがこぼれてしまう。自分の表情がコントロール出来ない。あぁ幸せだな。
なんて事を考えてる間に沙門は服を脱ぎ終えて、穂邑をズイズイ押して風呂場に入る…
「ちょっ、沙門さん!待ってくだ…あっ!!!」
つるんっ
「おっ?!」
ドーーーーーーン!!!!!!
見事に的確に石鹸を踏んだ穂邑は沙門もろともタイルに激突。
「いったぁぁ〜〜〜」
「っつ…」
ん?
なんかおかしい。
「ねぇ、沙門さ…」
沙門さんと呼んでいながら、この野太い声は…。
しかも、僕が下になって倒れたはずなのに。…なんで上にいるんだろう??
「おい!!ぼうや!!!」
恐る恐る目を開ければそこには…案の定自分の顔。
自分が必死に慌ててる。
「なんで俺がそこにいるんだぁ?」
「こっちが聞きたいですよぉ。沙門さん、それ僕の体です。」
お互いがお互いを驚きの表情で見つめ、それを自分の体に持っていく。
仁木が見たらさぞ怪しがる…不気味がることだろう。
とりあえず、風邪をひいたりでもしたらよくないので二人ショックを隠せないまま湯船に使った。
風呂を出てからリビングで一時間程お互いを無言で見つめあっていた。
「おい」
沈黙を破ったのは沙門。
「どういうことだ」
沙門さんだってわかってるんだろうけど…さすがに認めたくないよね、こんな事実。
穂邑は一つ溜め息をつくと
「さっきの風呂場での転倒でしょうね、どう考えても。どうやったら元に戻るかは全然わかりませんね。どうしましょうか。仁木さんに連絡とりますか?」
沙門(傍目から見れば穂邑)は暫らく考えていたが顔を上げて
「明日でいいだろ。これ以上騒がれんのも疲れる。」
「そうですね。」
二人一緒に溜め息をついて、一段落。また、お互いに目を合わせる。
「なんだか、自分が目の前に居るって変な感じですね。僕が沙門さんだなんて。」
改めて自分の体を見つめる。
「やめろ。俺が自分の体なんか見つめるかよ、気持ちわりぃ。」
「だって…じゃ、沙門さんも僕の体見てていいですよ。」
「はっ?」
穂邑は沙門の隣に座りなおして沙門を見下ろす。
「どうですか?自分に見下ろされてるのって?」
「最悪だ。今日はもう寝る。」
くるっと背を向けて寝室に消える沙門を見て、穂邑は考えてしまった。
もっと、最悪な事を。
「おい!ぼうやっ。やめろ!!」
さすが沙門の肉体。穂邑の体を縛ることなど朝飯前だった。
縛るといっても手首を頭の上にもっていき、それをベッドの足にくくりつけるだけのものであるが。
「ごめんね、沙門さん。こんなチャンスもう絶対にないって思ったら。」
「あんたは自分縛り上げて楽しいのか!?」
もう、沙門は必死。いくら穂邑の体とはいえ、これから訪れるであろう様々な行為は紛れもなく自分の精神が受けるのだから。
「やっぱりちょっと抵抗ありますけど、沙門さん抱けるなんて今しかないじゃないですか、ね?」
沙門の顔でにっこり微笑まれても…。
「大丈夫ですよ。沙門さん、自分の顔に抱かれるなんてちょっと嫌でしょうから、目隠ししますね。」
手馴れた感じで布を巻きつける。沙門にはもう光は見えなかった。
ヒンヤリとした肌を熱い舌が這っていく。
さすがは穂邑の体。と言っていいのか悪いのか。
感じやすいらしく、声が時たま漏れる。
自分の声だがそれは仕方が無い。沙門が感じて声を発しているのは事実。その事実が穂邑を更に煽っていく。
「沙門さん、気持ちいいですか?」
「はっ…やめ、ろ。」
「僕の体感じやすいでしょ?」
「黙れ…ぁ…」
目隠しをされて体で情報を集めようといつもより過敏になる感覚が沙門を追い詰める。
「沙門さん、声我慢しなくていいですよ。貴方の好きな僕の声ですよ。聞きたいでしょう?」
「つっ…ばかや、ろが…」
「強がってても無駄ですよ。僕は自分の体知り尽くしてるんですから。」
「うぁっ!」
ピチャピチャと卑猥な音が響く。聞こえるのはそれと自分の激しい呼吸だけ。
「やめ、ろ。あぁ…」
「沙門さん、可愛い。…次ちょっと痛いかもしれないけど、我慢してくださいね。」
そういい終わると、穂邑は再び口を動かす。
「もう、うっ…やめっ」
ヌッと後ろの方に異物感を感じた。
「やめろ!ぼうやっ。やめろ!!」
いくら足掻いても自分の鍛え上げた肉体から逃れられる術はない。
「沙門さん、今日は貴方が僕に従ってください。」
そして夜は更けていった…。
「ん…」
沙門は太陽の日差しを感じて目を開けた。
隣に目をやると静かな寝息をたてる穂邑の姿がある。
「はぁ、もう戻っちまったのか。」
一体昨日の夜どんな体験をしたんだ沙門よ…。