「Strong Coffee」

                           byぷに




 また、組事務所に澪が来ているようだ。
女の来訪の目的はいつの頃からか摩り替わっている。 別にそれ自体に何の感傷も無いし、興味すら湧かない。
 外回りから事務所に戻ってきた沙門は労いの言葉を掛ける数人の若手達の前を通り過ぎ、 奥の部屋のドアを無遠慮に開けた。
 もっともそこは組事務所の自分の部屋。
 あいつの机も有る俺の部屋。
「あら、沙門」
 キーボードの横に湯気の立つコーヒーカップを置き、真っ直ぐで艶やかな黒髪を揺らせて澪が沙門を振り返る。 しかし気の強そうな視線はすぐに仁木の方へ戻った。
 仁木はと見ると、シャツの袖を肘まで捲り、ネクタイの端を肩に掛けた姿でキーボードを叩き続けている。
「じゃあ、これで失礼するわ」
「ああ」
 素っ気無い返事。 それでも澪は満足気な様子で肩越しに仁木の背中を見遣った。
「澪」
「何?」
「傘、忘れてるぞ」
 嫌ね、これはパラソルよ、と澪が仁木の指差す方を見て微笑む。 仁木は変わらず澪の方を見ようとはしない。
 一度は離れた澪が仁木のパソコンデスクの傍へ歩み寄る。 パラソルを手にしようと僅かに身を屈めた澪の華奢な肩から黒髪が滑り落ちる。 流れる髪を長い爪の指で首筋から払い、暫し澪はその場に佇んで仕事の手を休めない仁木の横顔を見つめた。
「・・・また来るわ」
 今度は返事が無かった。
 澪はくるりと身を翻し、部屋の出口に向かった。
そこには沙門がいる。 澪は目礼をして、沙門の前を通り過ぎて行った。 綺麗に紅を引いた唇をきゅっと引き締め、歩調に合わせ揺れる黒髪からは僅かに清潔そうなシャンプーの香りがした。
 沙門はドアが閉まるまで女を見送り、視線を仁木へ戻した。
 仁木はネクタイを弛め、背伸びをしていた。 自分のデスクに向かう沙門と入れ違いに仁木は立ち上がり、つい今し方澪の入れてくれたコーヒーを手に窓際へ寄った。
 窓に背を向けて立ち、常時閉めているレースのカーテンの合わせ目を僅かに捲る。 横から伺う仁木の目に表情は無い。
 カーテンを捲ったまま二口三口コーヒーを口にしていたが、その所作が不意に止まり、仁木の視線が泳いだ。
 白いパラソルがビルとビルの狭間を渡って行く。
 カーテンから指先を離し、窓枠に凭せ掛けていた腰を浮かす。
「・・・?!」
 不意に仁木の上に彼の背丈を覆うほどの影が降りかかった。
 沙門の手が仁木の顎を捉え、もう片方の手がコーヒーカップを持っていない方の仁木の右手を捻じり上げる。
「何すっ!!」
 間を置かず唇が唇に奪われた。 状況を把握するまでの一瞬の空白をつかれた。
 驚愕が去り、代わって怒りと羞恥が噴き出る。
 バシャッ!
 仁木は左手のコーヒーを沙門の横顔に浴びせていた。 自分にも降りかかったが意に介さず、沙門の腕から逃れようと全力でもがく。
 コーヒーを浴びせられた沙門はさすがに仁木の顎を押さえている手を離し、顔を拭った。 が、すぐにコーヒーカップを持つ手も同様に捻じり上げた。
 痛みに仁木が顔を歪め、陶器のカップが床に落ち、砕けた。
 破片を沙門が踏み付ける。
 捻じり上げられた両手をカーテン越しに窓ガラスへ痛いほど押し付けられる。 体を窓と沙門とに挟まれ、もがこうにももがけない。
 また沙門の顔が襲ってくる気配を察知し、思い切り顔を背ける。 晒された首筋に人の息が触れ、その部分に唇が押し当てられる。
 仁木の全身が総毛立つ。 信じがたい、強く吸われる感触。
「やめやがれ! この野郎!!」
 拒絶を露にした怒号が口をついて出る。 それが通じたとは思えないが、唇が吸うのを止め、離れた。
 鍵の掛かっていないドアが外から叩かれ、次の部屋にいた若手がどうしたんですかとドア越しに聞いている。 仁木のらしからぬ声を聞きつけ、様子を伺いに来たのだ。
 咄嗟に助けを求めかけた仁木に沙門が囁いた。
「いいのかよ、このキスマークを奴らに晒しても?」
 仁木の顔に朱が走る。
「誰がつけたと思ってる・・・!」
 声のボリュームは落としてあるが、怒気を充分に含んでいる。
「俺は構わないぜぇ?」
 唇の片方を吊り上げ、仁木の顔の間近でニタリと笑う。
「だがあいつらはそうは思わんだろうなあ、きっと相手は澪だと思って想像を逞しくするに違いねぇぞ」
 すると眼鏡越しにギッと睨み付けてくる。
「放しやがれ・・・!」
 抵抗する仁木の様子を見て沙門がさも愉快そうにニヤつく。 窓ガラスに仁木の両手首を押し付けている手に更に力を込める。
「仁木とケンカ中だ。邪魔するんじゃねえ」
 沙門がドアの外へ言い放つ。 それを額面通りに受け取ったその若手は、わ、分かりましたと狼狽えて返事をした。
 ドアの向こうから人影の去る気配がする。
「大声出したきゃ出してもいいんだぜぇ? 助けを呼びたきゃ呼びな」
 上半身を押し付けて仁木を抑え込みながら耳元へ息を吹き込む。 小さく含み笑いをし、耳朶を甘噛みする。
「呼べねえよなぁ、こんなことをさせられてちゃなあ・・・ん? ドクター?」
 囁き続けながら、仁木の左手を解放した手で彼の顔を捉える。 すかさず仁木の左手は沙門を押し退けようと躍起になる。
「卑怯者・・・!!」
「ヤクザ(オレ)に向かってか? おもしれぇ冗談だ」
 圧し掛かる巨体を退かせることができないばかりか、再び口付けに襲われる。 骨太の手に頬を両側から押さえられ、口を閉じることができない。 唇が合わさり、易々と侵入して来た舌が土足で口中を這い回る。 首を打ち振ろうにも、頬を捉えている手はビクともしない。
 ろくに息もできず全身を引き攣らせている仁木に、沙門は口付けを強いる。
 捻じり上げられたままだった右手をも解放し、今度は下方に手を忍ばせる。 這い下りて来た手が仁木の中心を撫でると、仁木が一層体を固くし、きつく瞼を閉じる。 沙門がそれを見て下卑た笑いを口から漏らした。
「やろうぜぇ、仁木よ」
 耳朶をしゃぶりながら耳の中へ囁く。 仁木の首筋に鳥肌が立つ。
「・・・冗談っ!!」
「そうか、俺より澪の方がいいか」
「何・・・比べてる・・・っ!」
 ようやく沙門の手が顎を離す。 が、その手が頭頂部から後頭部へと撫で、項の髪を掴み、仁木の顔を上げさせる。
「一度くらい抱いてやったか? 初心なドクターさんよ?」
「からむのはっ・・・やめろっ・・・」
「惚れたか、あの女に」
「俺の女にしてやれと言ったのはあんただろ!」
「ああ、言った。だが、あの女のものになれとは言ってないぜ」
 沙門の当て身が仁木の鳩尾に決まる。
「てめえは俺のもんだ」
 加減されていても、沙門の拳には充分な威力があった。 仁木は呻いて腹を押さえ、上体を屈めた。
「か・・・勝手なこと・・・ぬかすな・・・!」
 背後の窓に寄り掛かり、膝が折れそうになるのをなんとか食い止める。
その仁木の胸元を沙門が掴み上げ、傍のソファへ放り投げる。 乱暴に扱われた仁木の体が一度弾み、ソファへ沈む。
 綺麗に整えられていた髪が乱れる。
 沙門がネクタイを外しながら近付いて来た。 青ざめた表情の仁木が乱れた胸元を掻き合わせる。
 沙門がソファに膝を付くのと同時に弾かれたように逃げ出す。
 素早くその片足を捕らえ、靴を脱がせた。 その靴を、からかうようにゆらゆらと振って見せる。
「そのザマ、いいぜぇ、そそるじゃねぇか」
 仁木の手が一閃し、沙門の頬が高い音を立てる。
「ふざけるな!!」
 言い終わらないうちに仁木も頬を張られた。 眼鏡が飛び、床で跳ねた。口の中に血の味が広がる。
「声を立てたら外に聞こえるぜ。見られてもいいのかよ?」
 顔を張られて一時的に意識が白くなっているうちにベルトを外され、靴を脱がされた片足だけ着衣を剥ぎ取られた。
「やめっ・・・!」
 肩をソファへ押し付けられ、再び顎を固定されて唇を奪われる。 沙門の舌が味わうように唇を舐める。 仁木の両手が沙門の肩を押し退けようとして足掻く。
「は・・・あっ・・・っ・・・!」
 口付けの合間にも拒絶を示そうとして、失敗する。 歯列を割り、舌が奥深くまで入り込む。舌を絡め取られ、吸われた。
 ワイシャツの下から沙門の手が入り込み、肌を卑猥になぞって股間へ辿り着く。 ドン、と仁木が拳で自分に覆い被さっている男の肩を叩く。 その抵抗も、仁木の男根を掴んだ手をゆるゆると動かすと凍り付いた。
 仁木の舌を貪りながら、沙門が唇の端を吊り上げる。 沙門の肩口に置かれた両手がシャツだけを握り締め、虚しく引っ張っている。
 仁木の口腔を思う存分蹂躙し、唇を離す。
 腕の中の仁木が胸を大きく上下させ、息をつく。 滲んだ涙を見られまいと顔を背ける仁木の様子を沙門が上から王者然に見下ろす。 息を整える半開きの唇の端から漏れた唾液が光っている。
「その表情(かお)、色っぽいぜぇ・・・」
 意地悪くからかわれ、仁木が唇を噛み締める。
「てめえっ・・・撃ち殺すぞ・・・!」
 口を拭いながら凄む仁木の顔を眺めつつ、沙門は体を仁木の足元へずらす。 仁木の片足を掲げ、自分の肩に担いだ。
「誰にもやらん。てめえは俺のもんだ」
「ほざけ! 本気で撃ち殺すぅあ!」
 叫びが口を突いて出そうになり、咄嗟に両手で口を押さえた。 体の中心が生暖かい空洞に覆われる。 舌が絡み付き根元から先端まで丁寧に舐められ、指先で先端を弄られる。
 自分の下肢から湧き上ってくる唐突で官能的な甘い感覚に仁木は驚愕する。 その現実に衝撃を受け、思考が混乱をきたす。
 頭が痛い、吐き気がする。
 ただ、ドアの向こうに悟られないよう、必死で悲鳴を両手で押し留めた。
「・・・俺を撃ち殺すって? やれもしねぇこと言ってんじゃねえよ」
「うっ・・・ぅ・・・」
 口を両手で押さえたまま、頭を横に振る。
 ソファから投げ出された格好の仁木のもう片方の足の内股を撫で擦る。 時折唇で愛撫をくれながらグイと足を開かせ、羞恥を煽る。
「いけよ」
 手で扱きながら先端を強く吸い上げると、沙門の口の中に仁木が果てた。


 ソファに顔を埋め、拳を握り締めて仁木が全身を嫌悪に振るわせる。
 沙門はうつ伏せにさせた仁木の腰だけを引き上げて不自然な体位を強要した。 まだ着たままのワイシャツが背中の中程でわだかまっている。
 その姿勢で後ろから伸びて来た手に再び中心を扱かれて溢れた先走りの露を掠め取られ、 沙門の面前に晒されている双丘の狭間に擦り付けられる。 なぞりながら徐々に指が内部へ埋め込まれて行く。
 仁木が、自分の手の甲を噛んで声を押し殺す。時折喘いで吐息が漏れる。
 このソファの背の影に隠れているから、万が一急にドアを開けられてもいきなり若手達の目に全部が映ることは無いだろう。 部屋の間取りを思い浮かべ、仁木はそんなことを考えていた。
 付け根まで埋め込まれた指がゆっくり引き抜かれる。 指が抜けるぎりぎりのところで再び引き抜く時よりも素早く差し込まれる。 段階を持って指の本数を増やされ、らしからぬ柔らかな仕草でそれを丁寧に根気よく続けられると、意に反して腰がぶれる。
 仁木が肩で息をし始めた。手の甲を何度も噛み直し、拳を握り直す。
「感じてるのかよ・・・ん?」
 髪の乱れた頭が強く打ち振られる。
「なんだぁ? じゃあ、このまま止めてもいいのかよ?」
 指の動きを止め、仁木の耳元へ囁く。 仁木は下を向いたまま黙っている。
 沙門が仁木の内部から指を引き抜いた。 思わず仁木がくぐもった悲鳴を上げる。
「・・・どうして欲しい? 止めるか・・・続けるか・・・」
 わざと指を抜き、その周囲にだけ与え続けられる感覚のもどかしさに焦燥感と嫌悪感とが綯い交ぜになって仁木を翻弄し、 押し流して行く。
「答えろ」
 促され、血の滲んだ手の甲から口を離し、肘をソファに付いて上体を少し浮かす。 長い時間同じ体位を取らされていたため、体が軋む。
「やめて欲しくねぇんだろう?」
 肯定的に弄るように囁く。
 仁木は、首を縦に振っていた。
「それじゃ分からねぇよ。口で言いな」
 ほら、と周囲を緩慢にいたぶっていた中心に一度だけ指を奥まで突っ込んだ。
 シャツの背中が跳ねる。そしてがっくりと項垂れた。
「・・・つ、・・・つづけ・・・」
 言ってしまってから、仁木は唇を噛み締めた。新しい涙が込み上げる。
 四つん這いの窮屈な姿勢の仁木を見下ろし、沙門が額を押さえ、肩を揺らせて含み笑いをした。


 仁木の尻を押し広げ、沙門がスラックスの前だけくつろげて取り出した、すでに怒張しているものをそこに合わせる。 尻を掴んだまま、グイと捻じ込んだ。 反射的に仁木の腰が逃げを打つ。 それを鷲掴んで引き寄せ、体重を利用して無理矢理仁木の中に全部納める。
「ぐっ・・・うっ・・・!」
 仁木が呻く。
 後ろの沙門に腰を差し出し、ソファの背に半身を預けるようにして体を支えている。 あらぬ部分に与えられる強烈な圧迫感と引き裂かれる痛みに呻き声と生理的な涙が零れる。
 仁木の腕がソファの背を伝って伸び、肘を付いて上半身をソファから起こす。 それまでの姿勢が辛くなっての動作に、よれよれになったワイシャツが二人の繋がった場所を覆い隠す。
 それが、仁木の気持ちを現しているようで。
 後ろから手を伸ばして仁木の顎を掬い上げ、顔を上向きに晒させる。 乱れた前髪が汗で額に張り付いている。
「頭、はっきりさせとけよ。これからが本番だぜぇ?」
「ううっ・・・」
 沙門が仁木の腰を掴み、抜き差しを始める。
「ウチに来る前・・・古田組にいた頃だ・・・てめえ・・・あそこのオヤジさんに・・・突っ込まれてたんじゃねぇのか? ・・・ずいぶん・・・腰付きが怪しいぜぇ?」
 仁木の体を揺さ振りながら、ふと思いついたままを口にしてみる。
 すると予想外に激しい反応があった。
 体ごと揺すられる肩越しに、仁木の射るような鋭い視線が沙門を睨む。 ギラギラと殺気を漲らせた眼光に、目尻から伝い落ちる涙にも妙な迫力があった。
「おお、おっかねぇ。悪かったよ、今のはちょっとてめえをからかっただけだ」
 素直に謝ると、仁木は視線を外し、瞼を閉じて、次に来る沙門の責め苦に耐えるべく身構える。 その姿を見て、また底意地の悪い考えが頭に浮かぶ。
 先程まで沙門の視界の隅に見え隠れしていたもの。 今はまた白いワイシャツの影に隠されている。
 仁木の襟にひっかかっているだけのネクタイを抜き取り、 背後から手を回してワイシャツの布を鷲掴んで強引に引き裂いた。 ボタンを留める糸が耐え切れず、千切れ飛ぶ。 襟を掴み、無理矢理肩をはだけさせる。
「見るなっ・・・!」
 仁木の過剰な反応にニタリと口元を吊り上げ、首筋を舐め上げた。 仁木の息を呑む音がし、その身が震えた。 肩口に一度噛み付き、そこに見える線に沿って舌を這わせる。
「やめっ・・・やめてくれっ、沙門さんっ・・・!」
 仁木が身を捩って逃れようとする。
「見ないでくれ・・・!!」
 耳元で叫ばれる仁木の悲鳴を楽しみながら、 彫り師が仁木の体に残したその通りに、肩から首の後ろへと尖らせた舌先で丹念になぞっていく。
「いやだ・・・さわるな・・・!」
 仁木の口から嗚咽が漏れて震える。 沙門は咽の奥で嘲笑した。
「いいぜぇ、お前、その反応・・・堪らねえや・・・」
 ワイシャツをはだけるところまではだけさせる。
「もっと泣いてみせろや」
 仁木の刺青を甘噛みしながら、沙門は再び腰を動かし始めた。
「はっ・・・ん・・・んっ・・・!」
 沙門が仁木の中で鼓動を刻む度、それに合わせて嗚咽に混じって吐息と喘ぎが迸る。 その状態でもドアの外を意識し、下唇を噛んで声を押し殺しているのが分かる。 しかし背後から突き上げられるたびに声は洩れてしまう。
「お前・・・かわいいぜぇ」
 沙門の手が前に伸び、仁木のそそり立って露を含んでいるものを握る。
「自分の上げてる声、ちゃんと聞こえてるかぁ?・・・そんじょそこらの女より色っぽいぜ・・・?」
 沙門の揶揄が首筋に耳朶にねっとりと纏わり付く。 同時に前後を愛撫され、仁木の喉が反り上がる。
「すげぇ甘い声出してるぜぇ?・・・普段じゃ絶対拝めない声だよなぁ・・・もっと聞かせろよ」
「はっ!・・・は・・っ!・・・くっ・・・っ!・・・はっ・・・!」
 極力声を堪えようとしているのが逆に扇情的で、沙門の加虐心に火をつける。
「なあ、その声、もったいねぇや・・・誰かに聞かせるか・・・外の若いのに聞かせてみるか?」
 以前仁木の撃ち抜いた手が後ろからのリズムに合わせて前後に動き、しとどに濡れる分身を刺激し続ける。 堪らずにそれを止めさせるために手を回そうとしたが、支えを失った体が崩れ落ちそうになり、叶わない。
 沙門に隠すものを剥ぎ取られた刺青が、べっとりと舐め付けられた唾液に光る。 青い線を辿って後ろから首筋を這いあがってきた舌に口付けを強要される。 強引に首を後ろへ捻じ曲げられて唇を舐められ、歯列を割られて舌を吸い上げられる。 仁木の顔を掴んでいる沙門の手が仁木の涙で濡れた。
「俺以外の誰にも聞かせるんじゃねえぞ」
 自分の言葉を引き金に、沙門が動きを変える。
ソファに仁木の上体を押し付けるとその脇に自分も手を付き、激しく腰を打ちつけ始めた。 肉と肉がぶつかる音と溢れる水音が仁木の意識を鷲掴みにし、引き裂き、翻弄する。 仁木の手が自分の体重と沙門の動きを受けてソファに食い込む。
「ああ・・・いいぜぇ・・・てめえの中・・・キツくて・・・よく・・・締まる」
 それまでとは段違いの激しさで沙門を受け止めさせられ、仁木は息もできない。
沙門の凶器が仁木を己の前にひざまづかせようとしている。 容赦無く突き入り、内部を掻き乱し蹂躙する熱い存在の生み出す狂気が仁木に襲いかかる。
 それを悦んでいるのを認めたくなくて、二度も沙門の手管に屈したくなくて仁木は激しく首を横に振る。 だが、沙門に良い様に嬲られ、 それを屈辱とする心の向こうで悦楽に感じている自分を目の前に突き付けられ、無念で嗚咽が漏れる。 それをも噛み殺し、気を抜けば崩れ落ちそうになる体を必死で支える。
「てめえもいけよ」
 沙門の手が口を塞ぐ。
「・・・っ!! ・・・っ!!」
 同時に終幕を迎えるべく、沙門が更にピッチを上げる。
「お前は・・・俺のもんだ・・・!!」


 息が静まった後、沙門は立ち上がり、ジッパーを引き上げた。 今更、沙門が服を着たまま自分を犯したことに気付く。
「畜生・・・ぶっ殺してやる・・・!!」
「てめえにならいいぜぇ」
 先程とは違いさらりと肯定されて、仁木は固まる。
剥ぎ取られて床にわだかまっているスラックスと、沙門の張り手に飛ばされた銀縁の眼鏡を取り上げて、 ソファの上の仁木に放りやる。
「鍵、かけといてやらぁ」
 沙門がいつもの大股で部屋を出て行く。 ケンカは済んだぞ、コーヒーをかけ合ったんですか、という会話が微かに聞こえる。
 ふと窓際の床に視線を落とすと、割れたコーヒーカップの破片が沙門に踏み付けられたままになっていた。


 
 

…………!(ふるふるふる)
わっはっはっはっはっはっは。来ると思ってたもん。仁木陵辱物語。まずは第一号。やられていますね〜、物の見事に。如何ですか仁木さん。(嬉)
……聞くな!
まぁ、まだ次もあるのでここでは引っ張らないでおきますよ。乱れ髪や眼鏡な貴方が腐女子の心には効くらしき。楽しみだなん。
……ま、まだあるのかよ…。
  評価点(10点満点)A/T酷点:8仁木怒点:10