「MISCHIEF」

                           byぷに




「今日のあんたの予定は・・・」
俺のデスクの真横に立って仁木がシステム手帳を捲りながら言う。 スケジュールを一つ一つペンで確認しながら、時折銀縁の眼鏡の蔓を指先で押し上げる仕草をする。
沙門はついこの間のことを思い出していた。 仁木が澪と仲良くしてるのが面白くなくて、ちょっと虐めてみた。
そしたら・・・。
沙門がじっと自分の顔を見ているのに仁木が気付いた。 にま・・・と笑って見せると、途端顔を赤らめた。 察しが良過ぎる。こいつもアレが頭から離れんようだ。
また悪戯心が騒いで、仁木のネクタイを掴んでグイと引き寄せる。 口付けようとすると飛び退こうとしたので、ネクタイをグッと握り締めて引き留めた。
「沙門さん、やめてくれ」
明らかに狼狽して仁木が目を逸らし、耳まで赤くする。
その初心な様子がそそるというのに分からねえのか。 沙門の脳裏にソファの上で見せた仁木の狂態がちらつく。
「放せよ。今日はこれからすぐに二人で出掛けなくちゃならねえ・・・」
時間を盾に本当に困ったように仁木が呟く。
そんな仁木を目の当たりにし、もっと困らせてやろうと沙門の悪戯心が湧き立つ。
「また聞かせろや、あの声・・・」
銀縁の蔓を抓んで仁木の顔から引き抜く。
「冗談じゃねえ、俺はもう二度と嫌だ」
「まあ、そう言うな、満更でもなかったくせに」
「誰がだ! 眼鏡返せ」
仁木が手を伸ばしてくるので、嫌だねとばかりにデスクの端へ放りやる。
「あんまり可愛くねえこと言ってると、澪にバラすぞ」
予想通り黒い姿が固まる。面白い。
「あの勝気な女のことだ。俺に傷物にされた上、恋人のお前まで寝取られたとあっちゃあ、黙っちゃいねえよなあ。 俺を刺しにでも来るかもしれねえぞ?」
そうなったらいくら前組長の娘でもただでは済むまい。
「そうだなあ・・・てめえからキスするならこの場は勘弁してやってもいいぜぇ」
「あんた・・・どこまでも卑怯だな」
眼鏡を外された瞳が嫌悪も露に睨み付けて来る。 その眼が俺を煽ってると言ったらこいつはどう反応するだろうなあ。
「そいつは誉め言葉の部類に入るってんだよ」
さあ、どうするよ、と言い募る。
一つ溜め息を付き、仕方なさそうに躊躇いながら唇が触れてきた。
触れるか触れないかの内に、もういいだろうとばかりにさっさと離れようとする。 その項を捕まえて強く唇と唇を押さえ付けた。 阿呆が、何を歯ぁ食い縛ってやがる。
「仁木」
唇を舌でなぞりながら短く名前を呟くと、仁木の口がゆるゆると開いた。 椅子に座った沙門の上に前屈みになり、両肘掛に手を付いている。 いい感じだ。
項を掴んだまま仁木の唇を放さないで片手で黒いスーツのボタンを外し、手を中へ滑らせた。 胸を少し嬲り、脇腹を通って腰へ手を回す。
仁木の口腔を貪っていた舌を唇へ戻した拍子に仁木がふっと顔をずらす。
「沙門さん、もういいだろう」
シルバーのスーツの肩に黒いスーツの手が触れる。
「もう車の準備も出来る」
仁木の項を押さえていた手が払い除けられる。 払われながらすかさずその手を胸へ回す。
「お前って胸も感じるんだな」
さっき胸に触れた時に仁木が僅かに体を強張らせるのを感じたのでからかってみる。
「いい加減、俺を女扱いするのはやめねえか」
仁木の声に苛立たしさが滲み始める。 それを内心で喜びながら、無視して悪戯を続行させる。
「胸は嫌か。じゃあここはどうだ?」
股間に触れた途端に引ける腰を、回した腕で押さえ込む。
「そう、じゃねえ、だろうっ!」
酷く慌てた様子で沙門の手を止めさせようと押さえてくる。 それに構わず仁木の分身を包んだ手に力を込めると顔を顰めた。
「乱暴にされたくなかったら大人しくしてな」
「沙門さんっ! あんた、何考えてるんだっ」
「そう嫌がらんでもいいじゃねえか」
服の上から尻を擦り、もう片方の手で陰部を揉んでやりながら黒の上着の中へ顔を突っ込み、 ワイシャツごと乳首を口で弄ぶ。
「やめっ、放せっ、もう出掛けねえと・・・っ!」
普段澄ましてる姿が狼狽える様を見るのは快感だ。 シャツが唾液で充分湿るまで胸の突起を嬲ってから顔を見上げると、沙門に見られないように顔を上に向けている。 それでも赤面しているのを恥じるように下唇を噛み締めているのが分かる。 女なら長い髪で顔を隠すことも出来ようが、仁木の場合はそうはいかない。 後ろでも向かない限り、沙門の前にすべて晒すことになる。
布に余裕のないスラックスの中で、沙門が布越しに弄ぶものが窮屈そうに波打ち始める。 仁木に意識させるように、スラックスを押し上げているものの形を指先で丁寧になぞる。 尻を撫でている指をある個所へ布諸共強く潜り込ませた。
仁木の息が上がり、体を支えている腕と膝が震え始める。 仁木が顔の隠し場所を求めて、沙門の肩口に顔を埋めてきた。 仁木の吐く息が沙門の胸元を滑り落ちる。
程なくして、堪え切れずに沙門に寄り掛かるようにずるずると床の上に崩れ落ちた。 奇しくも椅子に腰掛ける沙門の膝に縋り付くような格好になる。
その時、部屋のドアがノックされ、仁木が車の用意を言い付けておいた若手が名乗った。 沙門が入室を許可するとドアが開けられ、仁木さんはおいでですかと問われた。
「・・・・・ここにゃいねえぞ」
仁木にだけ効力を持つ時間をたっぷりかけて答えた。
失礼しましたという声と共にドアが閉まる。 デスクの影で息を詰めていた仁木が安堵して肩の力を抜く。 ホントにこいつは面白いオモチャだ。
「随分感じてるようじゃねえかよ」
顎に指を掛けて持ち上げると、欲情して潤んだ瞳が精一杯に睨み返してくる。
「そんな眼ぇしても怖かねえぞ。それに、てめえのチャカはあっち」
いつの間に抜き取ったのか、眼鏡と一緒にデスクの端に追いやられている。 やっぱりさっさとブチ殺すべきだったと仁木の眼光が毒突く。 でもお前、俺の膝の上の拳が震えてるぜぇ。
「そのまんまじゃ苦しいだろう?」
ニヤニヤ笑って、足元に座り込んでいる仁木の顔を覗き込む。
「誰がしたと、思ってやがる・・・!」
こんな仁木の虚勢が妙に可愛らしい。 で、つい悪戯心に拍車が掛かる。
「疼いてんだろ、体。俺の前でてめえで始末するか? それとも最後まで俺にしてもらうか?」
返事を待たずに仁木の目の前でスラックスの前をくつろげて見せる。
「てめえばっかり楽しむってえのは割りに合わねえな。俺もその気にさせろや」
屈辱と羞恥に震える紅潮した顔を目を細めて満足気に見下ろす。
我ながら底意地が悪いとは思う。 こいつを追い詰めるのはすこぶる楽しい。癖になりそうだ。
「いかせてもらいたきゃ、まずてめえからやってみろって言ってんだよ」
仁木は言葉もなく固まっている。 余程の衝撃だったらしい。
「時間がねえんだろ? さっさとしねえか」
髪が綺麗に整えられている頭を掴み、股間へ突き付けた。 間近に見せ付けられたものに仁木が思わず眼を瞑る。
「てめえも持ってるもんだろうが。何を恥ずかしがることがあるよ」
逃げる仁木の髪を掴む。
「じゃあ、俺の前でマスかくか?」
顔から火が出るとはこういう顔を言うんじゃねえのかなあ。
「やかましい! やりゃあいいんだろう、やりゃあ!」
人間、追い詰められてパニクると逆に攻撃に出るもんだ。 墓穴を掘ることになるのにも気付かず。 いつもの冷静な仁木なら絶対にしない選択だ。 沙門は自分の顔が嫌らし気に破顔するのを感じていた。
仁木の髪から手を離し、椅子に踏ん反り返った。
「なら、やってもらおうか。やり方はこの前勉強したよなあ」
「・・・黙ってろ!」
仁木が片手を沙門の太腿に置き、もう片方を沙門の一物に添えて、顔を近付けた。
一度口を付けたが、すぐに吐き出した。
見守っていると、意を決してもう一度先端を口に含み、舌をそろそろと動かし始める。
期待はしてなかったが、やはり技巧も何もない稚拙な動きで緩慢に愛撫されてもちっとも良くはない。 が、いつもすかしてる仁木にそれをさせているということに興奮を覚える。 冷めた黒い姿が熱を帯びて、表情に嫌悪を浮かべながら沙門の分身に舌を這わせる様子を眺めていることの方が、 その下手な愛撫よりはずっと股間を刺激する。
仁木がまた口を離す。
「おいおい、さっきの威勢はどうしたよ?」
沙門が野次る。 その沙門の嘲りに、再び仁木が口を動かす。
しかし、いつまでもこうしていられちゃ敵わない。 仁木に深く口の中へ迎え入れられたところで、沙門は片手で仁木の髪を掴んだ。
「!!・・・っ!・・・ぐっ!!」
髪を掴んだ仁木の頭を激しく前後に揺さ振り始めた。 急激で有無を言わさぬ行動に、仁木は混乱して抵抗もままならない。
「・・・っ、いいぜぇ、その顔、なかなか・・・」
眉根を寄せて、大きく抉じ開けられた口には沙門の男根が忙しなく出入りしている。 先日のようにきつく閉じられた目尻に涙が滲む。
突然、再びドアに駆け寄る高い足音がして、ノックする音がした。
沙門から逃れようともがき始めた頭を両手でガッチリと捕まえて股間に押し付ける。 沙門の男根が仁木の咽奥を深く突き差し、そのまま白濁した液を注ぎ込んだ。 仁木が死に物狂いの体で暴れ出す。
しかし、沙門の許しを得て先程の若手がまた顔を出すと、仁木の抵抗が止まった。
「すいません、組長。仁木さん、あれからこちらに来られましたか?」
「仁木に何か用か?」
沙門の股間を銜えたまま動きの止まった仁木の髪をデスクの影で撫でながら言う。 仁木の咽が小さく痙攣しているようだ。
「組長がお出かけになるのに車を用意しておけとのことでしたので」
「おう、そうだな。今日も仁木と出掛ける」
「どちらに行かれたんでしょうかね?」
「仁木がいねえと出掛けても意味ねえな。もう少し探せ」
「はい、分かりました」
一つお辞儀を残し、ドアが閉められた。
「飲み下さねえと服に付いちまうじゃねえか」
前髪を掴んで顔を上向きにさせる。 仁木の咽が動いて口の中のものを飲み下し、唇から巨大なものが唾液の糸を引いて引き抜かれた。
仁木が口元を押さえ、激しく咳き込む。 ゼエゼエとむせながら涙を拭っている仁木の襟首を掴み上げ、上半身をデスクの上に突っ伏させる。
一度は萎えたものの、その珍しい緊迫したシチュエーションと沙門を銜えたまま苦し気に眉を顰めて耐える表情を見ていたら、 また劣情を掻き立てられた。
「てめえがあんまり色っぽい顔をするから俺の息子がおさまらねえ」
仁木のベルトを引き抜き、スラックスを下着ごと摺り下ろす。 仁木の背中に覆い被さり、腰を掴んで自分の前に据える。
「ちょ、待っ・・・!」
「なんだ、前から犯ってもらいてえのか?」
軽くからかうと、猛然と睨み返してくる。 いちいち反応する仁木が可愛い。
振り向いた背中をデスクの上に片手で押さえ付ける。
「・・・ド畜生!! さっさと済ましやがれ!」
この口の悪さも耳に心地良い。
挿入する前に指を使ってこの間のように乱れる様子を楽しみたかったが、 仁木の言う通り時間が差し迫っているのは事実だった。 また仁木を探している若手に来られると、今度は沙門もちょっとまずい。
「ぐっ!! ううぅっ・・・!!」
デスクの上のスーツ姿が痛みに悶える。 仁木が舐めて付けた唾液を潤滑剤代わりにしただけで何も前戯を施さないまま、強引に突き入った。
最初から一度に全部おさめきれないことは分かっていた。 かと言ってこのまま貫き通し、これから接客をするというのに血で服を汚すわけにはいかない。 ドアを気にしながら、仁木の入り口でゆっくり抜き差しを繰り返す。
それでも強引な突きにやはり少し切れてしまったようだ。 血と先走りの液体が混ざったお陰で動きが随分楽になってくる。
うつ伏せに押え付けられた仁木が何か掴むものを探して手を彷徨わせる。 黒い襟と袖から覗くワイシャツの白までが艶かしく感じる。 日頃の仁木からは想像できない、ぎこちない、媚態にもならない仕草に誘われて自制が効かなくなる。
「はぁ・・・は・・・っ・・・っう・・・うぅっ・・・」
眼下で黒い姿が息を弾ませ声をくぐもらせて喘いでいる。
仁木のスラックスのポケットから取り出したハンカチで彼のものを包み込んだ。
「精液付けたまま商談に行くわけにいかねえしなあ」
すると切れ切れの声で、らしくないことしていないでさっさとやれということを訴えてくる。
そうだな。てめえも切羽詰まってる感じがするぜ。
「声、自分で押さえてろよっ・・・!」
仁木の股間と腰を鷲掴み、激しく腰を打ち付け始めた。
「うぁ、あぁっ・・・!!」
衝撃に仁木の顎が上がる。 デスクの端を掴んで沙門の激情を受け止めている。
二人の荒い息遣いの唱和する合間に仁木の噛み殺された嬌声と沙門が仁木を容赦なく責める音が混じる。
沙門は自分が上り詰めるのに合わせて、ハンカチで包んだ仁木のものを力を込めて握り締めた。
呻くように低く咆哮する沙門に一瞬遅れて仁木も果てる。
「・・・っふ、・・・ふう・・・っ」
デスクの上の姿を見下ろすと、仁木は両腕を投げ出してぐったりとしている。 顔を横に向けて息が乱れるままに任せ、いつもきっちり整えてある髪が解けて額には汗が浮かんでいる。
沙門は一つ大きく息を付いて、気怠い疲労を吐き出した。 濡れたハンカチで仁木の股間を拭い、内部から自身を引き抜いた後、 中のものが伝い落ちないようにそこにハンカチを噛ませた。
「気味の悪いことはやめろ」
呼吸が落ち着いてきた仁木が肘を付いて上体を起こす。
「ああ? てめえが望むなら女扱うみてえにもっと優しくだってできるぜぇ?」
沙門が衣服を整えながらうそぶく。
「・・・冗談じゃねえぜ・・・」
仁木も身繕いを始める。
スラックスを引き上げ、ネクタイを結び直して上着を羽織り直し、眼鏡を掛けて最後に髪を整える。 沙門は再び椅子に深く腰掛け、煙草に火を付けながら一部始終を眺めていた。
そろそろドアの外の騒がしさを放っておくわけに行かなくなってきた。 仁木さんは見つかったかという声がする。
仁木は肩の埃を払う仕草をしながらドアに近寄った。 ガチャリと開けて言い放つ。
「俺ならここにいる。車の用意ができたんならそのまま待っていろ。すぐ行く」
言い終わりざま、ドアを閉める。
可哀相に、車の用意を言い付けられた若手はきっと狐につままれた気がしていることだろう。 きっと事務所の中はもちろん、事務所外の仁木が行きそうなところまでくまなく探し回ったに違いない。
そんなことより。
ドアを閉めた仁木が沙門のデスクの前に何処かぎこちない動きでつかつかと歩み寄った。 沙門に懐から抜き取られてデスク上に投げ出されたままのベレッタを手に取る。 安全装置を外し、腕を伸ばして沙門の眉間に照準を合わせた。 まだ仄かに紅い目許が情事の余韻を残している。
椅子を回し、仁木の背丈を覆う巨体がゆっくりと立ちあがる。
銜え煙草のまま落ち着いた足取りでデスクの周囲を回って仁木へ近付いて来るのに、 仁木も腕を回して沙門の眉間から照準を外さずに追う。
沙門は仁木の正面に立った。
「怒ったか」
仁木は普段の取り澄ました顔以上に表情を消している。その瞳にいつも浮かべている冷めた色すら伺えない。
・・・マジで怒ってやがる。
沙門が銃口を指の背で退かすと、そう軽くあしらわれただけで仁木は照準を外した。
煙草を口から離し、仁木の顔の上に顔を伏せた。
唇に唇を押し当て、軽く吸い上げて、離す。
「行くぞ!」
仁木の肩を一叩きし、煙草を銜え直して、手にしたコートを纏いながらドアへ向かう。
翻るコートの裾の向こうで、仁木がベレッタを懐へしまうのが見えた。



 
 

後日談かよ、冗談じゃないぞ! 何で俺が野郎の汚い物、咥えなきゃならねぇ!!!
も、もし、あの馬鹿野郎が俺に手出し何ぞしやがったら、こんなにお優しく出来るか、くそ!
お。(わくわく)
………どうします? 多分、ブラウザの向こうで皆さん耳済ましていると思いますが。沙門、殺しますか?
(ぐっと詰まって)………それは…したら意味がないだろう。
じゃ、どうなさるんですか? 大阪に帰るのは、貴方のプライドが許さないだろうし、側に居ると、まあ、このように。何しろ相手はあの性欲魔人で王様の沙門だから。
…………(本気で考え込む)。そうだな、確かに。俺の言う事を聞くようなタマでもねぇ。鹿野組にはどうしても必要な存在だ。大体、奴に死なれたら俺がここにいる意味もない。……となれば、答えは一つか。
俺が生きていなければ良いんじゃないか?
………! そ、そこまで嫌かい!!
  評価点(10点満点) A/T酷点:9仁木怒点:10