脳内LOVE SICK
     by るりこ


 道玄坂にあるマンションの一室は、異様な空気に包まれていた。

 シンプルではあるが決して広いとはいえない台所の床に、数十人の男たちが並んで正座している。それぞれ年齢も見た目も違う男たちだったが、一様に荒い息をはき、目からは滂沱の涙を流しているところは共通 していた。
 
 彼らは台所の奥の部屋、今はドアが閉じられた部屋で行われている狂態をそれぞれ胸に思い描き、涙しているのだ。 部屋の奥にいるのは、彼らが崇拝してやまない男――沙門 天武が、今まさに「男」を試されている。彼らにできるのはただ、こうして試練のときが終わるのを待つことだけだった。
 

 そもそものきっかけは数ヶ月前、東京に中国マフィア「双龍頭」が乗り込んできたことに端を発する。よりによって香主李朝民が見初め求めたのは、鹿野組長の元でドライバーを勤めている沙門 天武その人だった。いわく「あの筋肉が羞恥に赤く染まる様が見たい」のだという。
 
 組長として慕っていた鹿野に李の元へ行くように言われ、豪胆で知られる沙門も悩んだ。
 さすがに悩んだ。
 
 しかしながら、かわいい愛人穂邑に、泣く泣く「従わないと殺されてしまう」と訴えられ、さらには信頼する副心仁木に「ここは敵地に赴き、情報収集をする絶好のチャンスだ。ここで怖気づいて引き下がっていたら、近い将来鹿野組は間違いなくつぶされる。ここで一発、やつを骨抜きにするぐらいのつもりで乗り込まなくては男じゃないぞ」などと言われてしまったら、もともと男気あふれる沙門のことである、「いやだ」などとは言い出せなくなってしまったのだ。
 
 しかも愛人と腹心はいつの間にやら手を組んで、双頭龍を壊滅させる算段を『沙門が李の元で情報収集をしてくる』という条件付で、立てていた。
 さらにキラキラと光る黒曜石のような目で見上げられて「大丈夫です、沙門さん。頭を使うところは全部僕たちがやりますから! 沙門さんは心置きなく李のテクニックにもだえてきてください!」と言われてしまえば、そんなもんかな…とさえ思えてくる。
 
 なんにせよ、沙門天武、一度口にしたことは覆せない、芯の通った男なのである。
 
 

 沙門が李の元に赴くことを決心したとき、誰よりも泣いたのは穂邑だった。
 「行かないと殺される」などと言っておきながら、実際行くとなるとさみしいのだろう。あんまり泣き続けるのでさすがに沙門もうんざりし、何でも言うことをきいてやるといったらば「やらせて」と来た。勢いに押されて(多少感傷的になっていたのもあって)思わず「おお」とうなずいたら、狂喜した穂邑が方々で「沙門さんの花は僕が散らす」などと言いまくったおかげで、それを何かの門出の儀式と勘違いした舎弟たちが「同席させてください」などと息巻くのをなだめるのが、一仕事だった。
 結局ナニをするかと明確に言えないまま、ついてきた舎弟たちをとりあえず部屋から締め出しては見たが、腹心の仁木だけは何をするかわかっているくせに、部屋にとどまっている始末。冷静に観察するような目がとても突き刺さる。
 
 「大丈夫、緊張しないで。やさしくするから。痛いことしないからね」
 
 かわいい愛人に甘い吐息とともにささやかれたところで、全身のこわばりは解けない。ドア越しに聞こえる舎弟たちの嗚咽に、仁木の冷静な目、穂邑の上気した顔。
 「この方が、僕燃えるから」という理由でネクタイと靴下だけの姿にされ、さらに「弾みで殴られたりしたら死んじゃうから」といわれてベッドに縛り付けられた自分。何もかもに違和感も感じつつも、次第に熱心になっていく穂邑の愛撫に身をゆだねることにする。
 
「初めてだもんね。うれしいよ、僕。心配しないで、慣れてるから。初めてのレディーを扱うみたいにしてあげる」
「…レディ−ってなんだよ、レディーって…。気色わりーやつだな…やられる時はいつもアンアン言ってるだけのくせに」
「照れてるの? かわいいね。ふふ、すてきな身体だなあ。まるで高級メロンみたいに全身に傷が走ってる。食べたらおいしそう…。きっと内はやわらかいんだろうな」
 
 口をこじ開けられ舌を差し込まれ、歯茎をこすられる。言葉での辱めに体温が上がる。うれしいわけじゃない、もちろん羞恥に、だ。 こいつ、こんな恥ずかしいこと口走るやつだったのか…と、何度も慈しんだ顔を改めて見返す。すると穂邑は愛らしい笑顔で言い放った。
「そんなうさぎみたいな目で見ないでよ。おびえてるの? 仁木さんもいるし、大丈夫でしょ。沙門さんのいいトコロ全部見てもらおうね」
 
 にっこり。まるで押し売りのように強引な笑顔と言葉に、ようやく沙門は自分が取り返しのつかないところに来てしまったことに気づいた。
「ちょ…っと、待て…」
「待たない」
 上ずる声で制止しようにも身体が動かない。手が動かないのは縛られているからだけど、身体が動かないのは…。
「て、てめえ! 何か盛りやがったな!?」
「…感度は変わらないのに、手足の自由だけがきかなくなるという、なんとも便利なお薬だよ。副作用は一切なし。信用できるところのモノだからな。安心しな」
 ようやく口を開いた仁木に言われたところで、はいそうですかと納得できるわけがない。
「ちくしょう、はかられた! おい、はなしやがれ!」
 普段なら一喝で相手を黙らせる胴間声も、この様では一切効果がない。穂邑は相変わらず熱心に沙門の身体を探っているし、ベッドサイドに腰掛けた仁木は観察の目で二人を見ている。
 耐えられる状況じゃない。
 
「もう…やめろ、ちくしょう…!」
 濡れた穂邑の指が沙門の股間にからみつき、断続的に刺激を与えてくる。そうしている間にも舌は全身を這い、舐めて吸って齧って咥えてと、身体全体を使って愛撫を施してくる。 クチュクチュという濡れた音と沙門の荒くなっていく吐息だけが、部屋に満ちていた。 たっぷりと唾液を乗せた舌が、根元に当てられる。そのまま尖らせた舌先で何度も筋をなぞられ、鈴口から透明な液がほとばしり茎をたどった。ペチャペチャと卑猥な音でそれを舐めとり、さらに舌を絡ませていく。
「ダメ…僕舐めてるだけでイッちゃいそう…」
 左手で自身を擦りながら沙門のものにしゃぶりつく穂邑の媚態に、いやでも熱が集まる。
「バカヤロ…ウ、もう離しやがれ」
 自身でコントロールできないセックスは、容易に沙門を不安にさせる。初めての懇願にも似た沙門の言葉は、あっさりと黙殺された。 伸ばされた沙門のひざ裏に、穂邑の手がかかる。片手では持ち上がらず、両手でなんとか抱え上げると、奥まった秘所にある、きっと誰も触れたことのないだろうくぼみが明らかになった。
 
「沙門さんのココ、キレイ…」
「ぎゃーー、もうヤメロ!」
「そうだよね、バージンだもんね、沙門さん…」
 うっとりと人様の股間を見つめながら頬を赤らめる穂邑の後頭部に、持ち上げられたこのかかとをたたきつけられたらどれだけすがすがしいだろうと夢想してみるが、陰嚢を軽く甘噛みし、さらに奥へと舐められる感触に、甘美な夢想は飛び散る。
「もうこっちのほうまで濡れちゃってる…僕の口、そんなに気持ちよかった?」
「わかった、お前の口がすごいのはわかった! だからもう…」
 
 見栄も何もかもをかなぐり捨てて許しを請おうとした沙門のネクタイが、おもむろに引き上げられる。
 
「ドア、開けるぞ」
 
 すごむでもなく嘲笑するでもなく、「朝だぞ」というのと同じぐらいの冷静さで仁木に言われ、腹の底から冷えた。
 ドアを開けられたら。
 この部屋でナニが行われているかも知らずリノリウムの床に正座し、沙門の覚悟を思って号泣している舎弟たちに、ネクタイと靴下姿でナニを勃たせている様子を見られてしまう。
 
 それは困る。
 
 沙門の全身から、一瞬力が抜けたのを見計い、穂邑の指が一本差し込まれた。驚きはしたが、鈍い痛みがあるだけでたいしたことはない。
「やっぱりもっと濡れないとつらいよね」
 指が挿入されたところに、穂邑の舌を感じる。そのまま接合部をピチャピチャと舐める音が、必要以上に耳に響く気がする。
 なんともいえないむずがゆさに無言で堪えていると、差し込まれた指が、唾液の力を借りてスムーズに動き出した。
「あれ、ちょっと萎えちゃったかな…」
 リズミカルに指を出し入れさせながら、萎えかかったものを熱心に擦られる。
 初めて触れられた後部に、いかんともしがたい熱がたまってくる。それは沙門のものが力を取り戻すのに比例していて、前が感じれば感じるほど、後ろも敏感になっていくようだった。 丹念に濡らした指を増やす。低い声で沙門がうめき、差し込んだ指が食いちぎられるように痛んだが、しばらく小刻みに揺するうちに襞は広がり、優しく穂邑を受け入れた。クチュクチュと濡れた音が、差し込まれた指と広げられた箇所から漏れる。抜き差しされるたびにめくれ挙がる粘膜が扇情的で、穂邑は息を呑んだ。
 
「すごい、もうこんなに真っ赤になってる。もっと欲しがって、すぐに気持ちよくなるから」
「ば…っかやろ、う…、早く抜きやが…れって…!」
「身体は筋肉だらけですごく硬いのに、ここはこんなに柔らかいなんてね。ふふ…かわいい、沙門さん…」
「はっ…ちくしょー…てめえ、覚えてろよ…」
「何言ってるの、沙門さん。バージンのまま李のところにいったら、きっとひどい目にあう…僕はあなたがそんな目にあうのなんて、耐えられないよ!」
「ふふふふふふふふざけたこと抜かしてんじゃ…はあっ…ねえっ…はあ、はあ、ぬ 、抜け…」
「んんっ…僕も、沙門さんに触ってるだけで気持ちよくなっちゃった…。ねえ、そろそろ入れてもいい?」
「がー! てめえ、聞いちゃいねえなあ!? はあっ…はあっ…」
「すっごいあえいじゃって、かわいい、沙門さん。ああもう僕ガマンできないよ、いい? 入れちゃうよっ」
「………!!!!」
 
 よく馴らされたとはいえ、初めて開かれるソコが穂邑のモノを受けてひどく軋む。不自然な形に足を持ち上げられ、腹腔を圧迫される苦しさにあえぐ沙門を気遣い、少しずつ少しずつ穂邑は自身を埋めていった。
 
「はあっ…はあっ…んんっ、キツイッ、沙門さんの中…はあっ…」
「バッカヤロ…はあっ、はっ、早…早く、終わ…れっ」
 
 何度か大きく身体をゆすって、全長を埋め込む。滑らかな穂邑の腹に当たった沙門のものを、両手でいとおしげに擦りあげる。違和感に萎えかかったものが少しずつ力を取り戻すのにあわせて、腰をゆすりあげる。ぐちゃぐちゃとかき回すような粘着質の音がひっきりなしにこぼれ、ベッドのゆれる音と絶え間なくもれる吐息に混じる。
 
「イイよ、沙門さんの中…柔らかくって熱くって、溶けちゃいそう…はあっ…」
「はっ…はっ…ううっ…」
「ああっ、ダメッ、ダメエっ…そんなに締めちゃっ…、んんああっ…イッちゃう、ああっ、ガマンできなっ…」
 
 諤々と大きく身体を揺らし、穂邑は達した。瞬間熱い飛沫が沙門の中にたたきつけられ、その衝撃と、反射的に強くものを擦られたのとで、震えながら沙門も達した。 繋がったまま穂邑が倒れこんでくる。
「すっごい、沙門さんサイコー…。中もこんなに気持ちいいなんて、反則だよ…」
 激しく乱れる呼吸のまま、穂邑がつぶやいた。後戯のつもりだろうか、汗ばんだ手のひらが名残惜しそうに、いつまでも胸をなで続けている。
「沙門さんは…? ねえ、良かった?」
「…………全然、よくねえ。……ボウヤの短小じゃ、入った気…しねえよ」
 それまで機嫌のよさそうだった穂邑が、一瞬にして凍り付く。沙門の負け惜しみは、大層穂邑の気に触った。
「仁木さん…やっぱり、沙門さんぐらい体が大きいと、腕とか入れないとイケなかったりするんですかねえ…」
「うーん。そうだな、それはわかんないけど、李のモノがKIDの腕並みって可能性はあるよな…」
「つまり、李にヤられても大丈夫な身体になるには、僕の腕ぐらい簡単に飲み込めるくらいじゃないと…」
 冷静に、かつ果てしなく残酷に繰り広げられる腹心と愛人の言葉に、今度こそ沙門は逃げ出す決意を固めた。それはもちろんかなわなかったのだが。
 
 

 明け方、仁木に担がれるようにして部屋を出てきた沙門に、よほどひどい儀式を行ってきたのだと解釈した舎弟たちは、涙ながらにねぎらいの言葉をかけた。

「お勤めご苦労さまです! 安心してお役目果たしてきてください!」

 すっかり手になじんだゴム手袋をはずしながら、改めて穂邑も沙門天武という男に惚れ直していた。
「あれだけの痛みにも根を上げなかった沙門さんだもの、李なんて目じゃないです。情報、待ってますね! 僕はあなたの家来ですから…」
 うっとりと見上げてくる愛人のまなざしも、しっかりと自分を支えてくれる腹心の存在も、今の沙門にはうとましかった。
 そもそもなんでこんなことになったんだ…? ずきずきと痛む身体を抱え思い悩んだところで、答えはでない。
 朝はやってくるし、李もやってくる。
 これから沙門は身体ひとつで、敵地で過ごさなくてはならないのだ。余計なことを考えてないで、とっとと生き残る道を見つけよう。 そう思えるだけ、沙門は賢明だった。
 


THE END

 

おつとめお疲れ様にごぜぇます、兄貴!! (大嬉)
こ………これ書きやがった女連れて来い…! 俺が同じメに合わせてやる。
(人によっては途中迄は喜ぶんじゃ? でも、沙門のフィストって………い、命、マジでヤバイッス)
まあ、相手はあの、「変態免許皆伝」穂邑だし。諦めんのね。
それよりも、これは実は隠れ李苛めのような気がするんですよね私。沙門を見初めたって。あの筋肉が羞恥に赤く染まるのを見たいって! ああああ、あいつも変態や〜〜〜!!(爆笑)
(ブツブツ) 俺がボウヤにコマされた挙げ句にフィストだあ? ……あのクソガキ。どうしてやろうか。
そもそも俺が李の許へ行くなら、さっさと寝首をかきゃ良いだけだろうが。
あ、寝技でですねっ♪ うふ。
(鉄拳制裁)
  評価点(10点満点) A/T酷点:10沙門怒点:10