・・逢いたいときにあなたはいない・・

           by RYO


 

「・・・こっちだよ、沙門さん!!」
「お・・・おい!」
 夜明けが近い午前4時。2つの陰が重なりながら暗闇を駆け抜けていた。
 青年は息を切らしながら大男の手を強く握りしめる。
 厚ぼったい大きな手、この男にふさわしい手を、走りながら見つめた。
 〜もうこの手を離したくない。絶対・・・・死ぬまで。〜
 東京湾の周辺を走っていること数分。壊れかけの倉庫の扉を開け中に入った。
 薄暗い中は壊れて潰れた車や木材など残骸だらけだったが追っ手から少しは解放されるだろう。
 2人身を潜めるように座り込むと、穂邑は沙門の負傷した左腕をそっと引き寄せた。
「・・・っ!」
「痛む?沙門さん! 傷口酷いんじゃない?!」
 穂邑はズボンのポケットからハンカチを取り出し、男の腕にきつく巻き付けた。
「よせ。そんなもんしなくても時期に止まる。」
「ごめん。僕のせいであなたに・・・沙門さんを傷つけるなんて・・・」
 傷口を庇うようにさすりながら沙門の顔を覗くと、その行為を黙って見ていた男と目があった。 沙門は涙目の穂邑の頬を引き寄せ唇を交わす。まるで生きている確認かのように、甘く・・。
数時間前の事が鮮やかに青年の脳裏をよぎった。
 
  

 沙門の敵、李のアジトに乗り込んでからどれぐらいたったのだろうか。
 あなたに逢いたい・・・いつか逢える日を思っていた日々だったが−−−−。
 決戦は突然訪れた。
 いつもは冷静な李の慌てる行動を見、胸騒ぎがした穂邑は、拒否する李を押し切り同行した。 東京湾D埋立地、深夜1時。
 人龍だけでも千はくだらない数の多さに胸が締め付けられた。
「キッド 奥へ潜んでろ。ここは危険だ。」
 李はキッドに口付けをすると、無理やり奥の倉庫に押し込み、出られないようにドアを固定した。
「何が始まるんですか?!・・・あなたが心配です、チャオ!そばに、そばにいさせて!!」
 沙門さん、来ちゃ駄目だ!まだ早すぎる!僕はまだ終わってない・・・なのに!!何故!? 外が騒がしくなり決闘が始まったことを、嫌でも青年に知らせた。
 
 どれくらい時がたったのだろう。
 外が静かになり、不安になった穂邑は、扉に耳を寄せたその時!
 ドアが突然開き、息を切らし血だらけの李と沙門が、穂邑の前に立ちはだかった。
 沙門さん!  思わず男に抱きつきたい衝動にかられ動揺する穂邑を、李は抱き寄せた。
「や・・っ! やだっ!チャオ!!」
 李は穂邑を盾にし、その肩脇から沙門に銃口をむけた。
「キッドを愛していないのならヤリたまえ。フッ・・・それとも君はキッドを------」
 沙門の瞳に一瞬動揺が見られたが、
「知るか。そいつは俺にとってどうでもいい奴だ。そんなの捨てて正々堂々とやりやがれ、李」
「沙門さ・・・」
「ならキッドを見殺しにしても平気なのだね。・・君の事をずっと慕っていたキッドを・・・」
 そう言うと沙門に向けていた銃口を穂邑のこめかみに当てた。
「!」 サーッと一瞬にして血が引くのを感じ、穂邑は喉を鳴して沙門を見た。
 先ほどよりも明らかに動揺している表情をみて、こんな状態なのに嬉しい自分がいた。
 ・・・心配してくれてありがとう。僕、それだけでもう充分満足だよ、沙門さん・・・。
「・・・撃っていいよ、チャオ。あなたに殺されるなら・・・僕は本望だ。」
「キッド!?」
「その代わり生きて、僕の分まで・・・絶対死を考えないで・・・」
 約束だよ、沙門さん。あなただけは命を代えてでも守って見せる・・。
「裏切りは許さない・・。暫しの間、尖のそばにいてやってくれ。」
 覚悟を決めて目を閉じた瞬間、銃撃の轟音とともに体が宙に浮くような感じでふっ飛ばされた。爆風の所為かと思ったが、体に重なってきた重みと独特の匂いで、穂邑の体に電撃がはしった。
「さ、沙門さん!?」    
「・・・っぐ!」
 穂邑を包み込みこんでいる沙門の顔は苦痛に歪んでおり、腕からは鮮血が流れ始めてきた。
「さ、沙門さんっ!!」
 どうして・・僕を?!  泣き叫びそうな顔で穂邑は沙門を抱きしめた。
「う・・ぐぅ・・き、キッド。私・・のそばから離れるのか・・・キッ・・」
 撃つ瞬間 沙門に腹をやられた李は、その場に埋まっている。
 沙門の出血よりも、一刻も早く李から逃げ出したくて穂邑は、息が荒い沙門の手をとり倉庫を後にした。
 
 

 天井の高い窓から淡い光が差し込んできて、夜が明けたことを知らせた。
 2人寄り添うように体を密着したまま、静かな時を過ごしていた。
 熱い、甘い空気に身をよだね、うつらうつらしている穂邑の耳に、大きく息を吐く声が聞こえた。
「・・・まだ痛む?」
「ん?かすった程度だ。弾は入ってねぇからもう止まってやがる・・おめぇの措置のおかげだ。」
 礼を言うのが慣れていないのか、照れくさいのか、ほんのり朱を掃いたようにうっすらと赤い沙門を見て、思わず穂邑は傷だらけの太い首にしがみつくように抱きついた。
「逢いたかった。あなたの声が聞けるだけでも良かった。触れるだけでも・・・好きです沙門さん。」
「ーったく・・・ガキが」
 苦笑しながら沙門は、右手で穂邑の体をきつく抱き寄せると。
 それを待ちわびていたかのように穂邑は沙門の唇を塞いだ。長く、深く-------。
「・・・んぅ・・」
「もう・・・いい、ボウヤ。---それにいつまでもここにいちゃあキリがねぇ。-----ケリつけてくる!」
「行かないで・・・って言っても無理ですよね。僕も行きます。一緒に・・・・。」
「お前はここから家に戻れ!あいつはおめぇに裏切られたと思っていやがる。2度とあいつには会うんじゃねぇ。・・・・もう十分家来の役目は果せてもらったぜ、ボウヤ。」
 そう言うと沙門は穂邑の頭をくしゃくしゃとなでた。
 初めて彼の優しさを見た感じがして目頭が熱くなる。離れろって言う方が無理に決まってる。穂邑はゆっくりと立ち去る大きな背中にしがみついた。
「お、おい! ボウヤ?!」
「一緒に行きます。地獄の果てまでもあなたについていく・・・だから・・・お願いだよぉ。一緒に・・」
「ちっ! どうなっても知らんぞ。勝手にしやがれ、くそガキ!!」
 今日何度目かの口付けを交わそうとしたその時、
 ガチャャーーン! 突然窓の割れる音がし、細長のボールのような物が足元に転がってきた。
「!? 手榴弾っ!!」
「ええっ!?!」 
「ボサッとすんじゃねぇ! ボウヤっ!!」
 突然でパニくる穂邑の体を持ち上げ、その場から逃げようとした瞬間、それは勢いよく回り出すとボンと小さな音をたて煙を噴き上げてきた。
 一瞬にして周りを黄色い煙が立ちこめた。
「ウォホッ!ゴホッゴホッゴホッ! さ、沙門さ・・・くっ・・くる・・しっ!!」
「く・・・そぉ! 手榴弾に模した催眠ガスだ。息を吸うな・・ボウヤ!」
「ケホケホッ・・も・・・もぅ駄目・・さ・・ぉんさ・・・」
 穂邑は沙門にもたれかかるようにくずれ落ちた。
 沙門も意識が段々遠のいてくるのを感じ、扉に手をかけたが、すでに充満している煙に勝てず、穂邑を抱え込むように倒れ込んだ。
 薄れゆく意識の中・・・瞳を閉じている穂邑の吐息を感じながら-----。  
「ん・・・・んあ?」
 沙門が目を覚ますと、やけに小綺麗な天井が目の前に飛び込んできた。
 ここがどこだか分からず、起きあがろうと身をよじろうとした・・・が、ジャラ・・・ 両手両足首が鎖に繋がれて身動きができない。
「っぐ・・ぐ!」
 力任せに外そうとするが、思ったより頑丈にできているのか沙門の力でもビクともしない。
「くそぉ。どぉなっていやがる・・くそっ!」
「・・・象を固定するのに使ってる物だ。例え君の力でも・・・諦めたまえ、沙門天武。ククク・・・」
「!? 李ぃぃぃ〜〜っ!!」
 沙門が唸り声をあげて睨んでいるのを上から見下ろし李は鼻で笑った。
「・・・先ほどの礼、たっぷりと返してもらう。生き地獄というのを味わうがいい・・・。」
「・・・何の真似だ。李ぃ」
「ククク・・・すぐ怒るとこ日本人の悪い癖だ。横をみたまえ」
 李の言われるがまま横目でみるとそこにはベッドに横たわっている穂邑の姿があった。
「!! ボウヤッ?!」 
 ただ沙門と違って穂邑は衣服を一切身につけてなく、先ほどのガスを大量に吸い込んでしまったのか沙門の叫び声にも反応していない。
 李は眠っている穂邑のそばに寄り、頬をさわった。
「キッド・・・君だけは誰にも渡さない・・私の物だ」
 口付けをしながら李は、唖然としている沙門を横目で見ながら覆い被さり、激しく貪った。
「ん・・・んぅ」
「よ、止せ! そいつを放せ、李ぃ!!」
「なんだ。頼み事か? 土下座して降伏出来るのなら聞いてやっても良いだろう。但し・・・」
 パチン! 李が指を鳴したと同時に、奥の深紅のカーテンから数十名の男女が入ってきた。
 大きなテーブル板に固定されている沙門の回りを、囲むように見下ろしている無表情の中国人をみて、沙門の背中に冷たい汗が流れた。
「ショーの始まりだよ、沙門。たっぷりと楽しんでくれたまえ!! ワハハッ!!」
 
  
 夢なのか現実なのか・・・穂邑は沙門と、甘い夜を過ごしていた。
 荒い息と汗の臭いが狭い室内を充満し、ただでさえ遠のく意識から逃れる事ができなかった。
 めちゃくちゃに壊れる! もうどうなってもいい! こんなセリフが出るのもこの体のせいだ、と穂邑は傷だらけの背中に爪をたて、押し殺した。でないと気が狂いそうなぐらい感じていたのだ。
 もう・・だ、駄目・・・・ 薄れていく意識のなか、愛する名を何度も呼び続けていた。
 

「ぅあ・・沙門さ・・・あぁん・・っ!!」
バチン! ふいに頬を叩かれ、穂邑は目を見開いた。
 目の前には沙門!!・・・・・ではなく冷血な表情をした李がいた。
「チャ・・チャオッ?!」
「こんなに愛しているのに何故別の名を呼ぶ、キッド!私以外の名を再び言ってみろ!!」
「チャ・・はっ・・あぅ」
 甘い甘い夢から一気に引き戻された穂邑には、今まさに自分に起こっている現実を気づけずにいた。
 ただ突き刺さるような熱い下半身と、李の下で揺れ動いている自分、そしてその度切ない声が無意識のうちに口から出てくるのは・・・?
 「!!!」  抱かれてる?! チャオに!  
 気づいた時既に遅し、眠っていた時に開発されていた熱いものと、終わりが近いのかスパートをかける李に逆らうことができず、
「あ・・・ああっ!!」 穂邑はわけもわからず達してしまった。            
 
 沙門の唇の感触が残っているのに・・・何故また李のそばにいるのか、頭は爆発寸前だった。
 ボーゼンとしたまま体を横に移動すると、信じられない光景が穂邑の瞳に飛び込んできた。
 それは両手足を鎖で固定され、裸にされたまま横たわっている自分の愛する人の姿だった。
 その上を男が女が・・餌を投げ込まれた猛獣のように群がっていた。
「さ、沙門さんっ!?!?」
 何故あなたがこんな目に?! 穂邑は泣き喚くような声で叫んだ。
 だが愛する人は呼んでもこちらを振り返ろうともせず、懸命に両手足を動かしている。
 その度繋がれている部分から血が噴き出しているのが見えて、穂邑は涙を抑える事ができずにいた。
「すばらしい光景だろ?キッド。」
「・・・どうして?」
「まだショーは始まったばかりだよキッド。よく見たまえ。彼の必死の顔なんてそう拝めやしないのだから・・しかも無類の絶倫だ。もう既に5人を虜にしている。キッド以外を、---ね!」
 背中の後ろから背筋も凍るような声で囁かれ、穂邑は李の肩を思い切りつかんだ。
「お願い!やめて!! あなたの言う事なら何でもする。だから、だからあの人を解放してよ!」
 涙目で訴える青年。
 情事の艶も重なって人の心を大きく揺るがすことのできる青年の瞳に、大概の人ならこの表情だけで虜になって許してしまうだろう・・いやなってしまう。
 実際李も揺れ動いたが、前のように青年を全て許せる気にはなれなかった。
 何故なら今穂邑の願いの答えはただ一つ-----。
 自分を愛してはいない!と痛感する言葉だったのだから・・・。
 穏やかに穂邑を見ていた李が豹変し、キッドを俯せにすると自分のモノを受けさせた。
「うぁ・・・あうぅ! お、お願いだ・・・よ。チャッ〜〜チャオォ〜!!!」
 何故こんなに尽くしているのに・・・何故あの男なのだ!
 穂邑の悲鳴に近い声を遠くで聞きながら、李は容赦なく突き続けていた。  
 
「・・っそ!やめろ!! 触んじゃねぇーー! 売女っ!!」
 身動きがとれないままの沙門はドスの効いた声で叫んだ。
 李の【ショーの始まり】といって高々と声を上げたと同時に沙門を見下ろしていた中国人は、無言のまま沙門の下半身に手をやった。
 唇を男に奪われて沙門は歯で抵抗した。
 女が体をなぞるように爪で触れていく。そして----
 髪の長い女が、沙門の上にまたがり沈み込ませると、大きく体を揺るがした。 結合している所に数人の手と唇が重なり合う。息を切らしながら乱れる女。体にまう無数の手。
 感じるとかそんな次元じゃない。苦痛・侮辱もいいところだった。息が苦しくても容赦しない。
 日本の女だったら少しは楽しめるのかもしれないが他国の言葉に耳が、頭が痛くなった。 それに---慣れているのか、そう仕込まれているのか息は荒いのに無表情の人人人・・・。
 冗談じゃねぇ--!! 
 李の下でまるであやつり人形の様に動かされている穂邑を横目で見つめたまま、再度固定されている両手足に力を込めた。  
 
 涙が止まらない。穂邑は李に揺すられながらも顔はずっと沙門の方を向いていた。
 さすがに男は受け入れていないが、さっきから入れ替わり立ち替わり女性が変わっている。
「・・・きっ、キッド、私を愛しているか。あの男よりも・・」
「は・・・んんっ 愛・・・してます。はぁぅ・・」
「あの男よりもか?・・答えろ、キッド。さっきの願い・・聞いてやってもいい・・」
「!・・・あ、愛してるよぉ・・・チャ・・オ。僕は・・・あなたの・・愛・・人だ。うあぁっ!!」
「私から逃れるとでも思ったのか、キッド。あの時の裏切りは許せる行為でない・・」
 この体を手に入れてるのに、心までは今でも手に入らないもどかしさに苛立ちがつのる。
 沙門の本性を知れば----あの男さえ消えてしまえば・・・。
 
 穂邑の服に取り付けた発信器ですぐ居場所を突き止め、そこに強力な催眠弾を投げ込んだ。
 1分たらずに狭い倉庫に充満したガスのせいで2人は重なったまま倒れていた。
 下になっていた穂邑を抱きかかえると李は、銃口を再び沙門に向けたが、先ほど不意打ちに蹴られた腹が急に痛みだし-----生き地獄を味させる事を決めたのだ。
 辛うじて残った人龍に手伝わせて、アジトに戻った。そして手下に伝えたのだ。
 沙門を犯せ・・・と。そしてもう一言伝えた。・・・男ではなく女でと。
これ以上自分の世界に踏み込んで欲しくないのもあったが、裏の世界でしか生きられない穂邑にストレートの行為は---軽蔑・嫉妬・喪失するに決まっている、と李は確信していた。
 
 
「はぁ・・ぁはぁ・・・チャオ?」
「逢わせてやろう。キッドの君主に」
 そう言うと李は、ベッドの下に置いてあったリモコンのボタンを押した。
 ウィィーーン と音がし、何もないと思っていた2人の間のガラスが、ゆっくりと上がっていく。
 強化ガラスのようだ。
 昇っていくと同時に沙門の唸り声と、周りを囲んでいた男女の荒い息、喘ぎ声がはっきりと穂邑の耳に聞こえてきた。
 その音に気づいたのか・・横目で見つめてきた沙門と目があった。
 苦痛に歪んでいる沙門。息が荒くなっている沙門。力任せにしたせいで手足首が血だらけの沙門。
 ・・・そして目の前で自分と違う人を抱いている沙門。
 ごめん・・・僕のせいで・・。 後悔に胸が締め付けられる。
 だけどこの慕情だけは消え去ることはできない。例え、
「あっぁあああっ!!」 絶叫をあげ女が沙門の胸に崩れ落ちた。
 例え、他の人を抱いても・・・自分が抱かれてもあなたの想いは一生変わらないと誓えるよ。
 
 沙門さんを解放してあげて! 李に目で訴えていた穂邑に、突然李が貪り付いた。
「んんっ!」
「ぼ・・・ボウヤッ」
 ふいに自分を呼ぶ声の方を見つめた。 こんなに近くにいるのに・・そばにいるのに・・・。
「んあぁ・・はぁ・・さ、さおぅ・・んんっ!」
沙門の名を呼んではいけない!  涙を浮かべたまま穂邑は、李の首に手を回した。
『こっちをむいて・・今のあなたの相手は私・・・なの』
 祖国語で沙門にそう言うと女は口付けを交わした。
「んぐぅ・・て、てめぇら・・李のスケか?」
 今上にまたがっている女は日本語が理解できないのかそのまま行為をしているが、周りの数人の奴はビクッと体を強張らした。
 ちっ、図星か・・。鼻で苦笑したら突然一人の男が叫びを上げ、上にいた女を退かせると沙門自身にかぶりついた。
「何しや・・がる・・・どけって・・いっとるだろうが・・!!ーっの変態やろぉ!!」  
 今までにない大声で叫ぶ沙門に2人は振り返った。
 穂邑は沙門の方を見ると、沙門自身を口で銜えている伯芳の姿が目に前に飛び込んできた。
 女性なら許せるけど男性は嫌だ! 独占欲みたいな気持ちになり穂邑は叫んだ。
「いやぁぁっ!! 伯芳さん!! やめて・・・ヤメロォォ----ッ!!」
「キッド?!」 
 泣き叫ぶ穂邑を見て李は驚いた。
 先ほどから沙門は複数の女と体をあわせていたが、その時にはこんなに乱れることはなかった。それを李は『軽蔑』したのだと思っていたのが・・・穂邑はそんな事は苦痛でなかったのだ。
 自分と同じ・・・同性に抱かれる事事態が、もっとも2人を地獄に落とすやり方だったのだ。
 パチン 
 指を鳴すとそばにいた参謀が李に近寄る。耳打ちすると男はカーテンの奥に消えた。
『やめるんだ! 伯芳!』
『んんっぅ。・・朝民?』
『止せ。お前のおかげでいいコマが出来た。先ほどのを戻って準備しろ!』
 沙門の体から静かに離れた伯芳は、シャツに袖を通しながらその場から立ち去った。
「チャオ・・・?」
「ふっ・・・もう芝居は止せ、キッド。あの男の事が好きか・・? 酷い目に遭わせたくないか・・?」
 嫉妬に怒り狂っていた李が急にうって変わったように冷静な微笑ましい表情で穂邑を見下ろした。
 ・・・な、何?僕を試しているの? それとも・・・?  それが逆に穂邑に恐怖を与える。
「同性を与える。それを教えてくれたのは・・・キッド、君だ。」  
 
 ドクン! 急に胸が締め付けられ、いつになく冷静で余裕な表情の李を見た。

 
 

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