・・逢いたいときにあなたはいない・・
           by RYO

 

 ふいに奥のカーテンが開き、伯芳を含む男達が1人の男の回りを囲むようにやってくると沙門の前に立ちはだかった。
 さすがの沙門もこの仕打ちにぐったりとしていたが、1人の血だらけの男を見て、薄れて朦朧としていた脳裏が一気にフル回転をし始めた。
「に、仁木ぃ!!!」
 両腕、右脚、脇腹、肩、口の端、こめかみから血が流れてくるのを見、この男の悲劇を知った。
 とどめはさせたはずなのにそれをせず、逆に痛みに苦しまさせといてのち惨殺する。 この残虐かつ卑劣なやり方に反吐がでる。沙門の口から一滴の血が頬を伝った。
「・・李ぃぃぃーー」
 今までにない怒りの炎に充ちた目で沙門は李を睨み返した。李は不適な笑みを浮かべている。
 あなたの為に・・あなたの役に立ちたいから頑張ったのに・・・結局僕は疫病神でしかなかった。
 穂邑は溢れてくる涙を、止まらせることが出来なかった。
 こんな事なら催眠ガスを投げ込まれた時点で制裁してくれていた方がましだった。
 沙門に抱かれたまま死ねたのに・・・。
 しかし、李の地獄はこれだけでは済まされない。先ほどから蝋人形のように血の気のない無表情の仁木は、何も発する事なくその場に立ちすくんでいた。
「おい仁木? 仁木ぃ!? 何突っ立てんだ!声でも出しやがれ! くそっ!!」
 動揺している沙門と穂邑を見て、李が伯芳に合図を送る。
 伯芳は仁木にそっと耳打ちすると無表情だった仁木の目がかっと見開き沙門に近づいてきた。
 絞殺?! 仁木は確実に黒魔術によって動かされている。沙門を殺せと・・・
「仁木さん! 目を覚まして、仁木さん! あなただって慕っているじゃないか!!仁木さん!」
 ふいに李に肩をつかまれ、穂邑は怒りの表情で見つめ返した。
「何でだよ、チャオ!僕を殺してよ・・・何であの人なんだ!・・・僕が欲しいんだろ?僕じゃなきゃ駄目なんだろ?!こんな体いくらだってくれてやる!ボロクズのように扱っても良い・・だから!!」
「君は間違ってる。殺せ・・・じゃない、犯せ、だ・・・私のように」
「!!!!」
 沙門の絶叫に穂邑は振り返る事ができず蹲るように耳を押さえた。  
 たった数分が凄く長く感じた時、突然沙門と仁木の叫び声がして、回りがざわつき始めた。 慌てるかのように李の元に伯芳が息を切らしながらやってきた。
『何事だ。伯芳、フッ・・事は終わったか?』
 伯芳は先ほど起こったことを告げた。
 強力な催眠術にかけられている為、血が吹き出そうが構いもせず、仁木は沙門に覆い被さってきた。その間中、沙門は仁木の名を呼び続けていた。
 仁木は自分の衣服を全て脱ぎ去るとおもむろに沙門自身に手を当て、そして・・その手を下に滑り込ませていった・・・。
 沙門の足首に手を当て突き進もうとしていた、
 ・・・ふと自分の手にも流れてきた鎖の端からの大量の血を見た途端、いきなり大声を上げ始め、転がりこみながら発狂しだした。
 その異変に気づいて伯芳がそばによった瞬間! 
 自分の持っていた刃物を奪いとり、朦朧とした目で沙門と伯芳を見ると自らの手で胸を突き刺した。口から血が溢れ死に絶える寸前に仁木はこう呟いた。「あんたを守る・・・」と。  
 
 伯芳の言葉に李は無言のまま、穂邑は溜まらず声をあげて泣き出した。
 沙門の右腕、物静かでインテリな雰囲気はヤクザには見えなかった。
 頭脳明晰で判断力も良く、そして沙門との事を一番に案じ、気を使うと同時に守ってくれた人。
 沙門とは全く正反対な性格だったが、穂邑は親しみ・尊敬・愛情・そして少しの・・嫉妬を感じていた。
 いつも一緒にいて悔しいと思う子供のような感情と・あなたがいてくれるから安心できるという信頼の感情。
 ・・・そんなあなたが・・・何故こんなことに・・・。僕のせいだ・・僕の。
 先程から泣き続けている穂邑の腕をつかみとると、一本の注射針を差し込んだ。
「痛っ! ちゃ・・チャオ?」
 何が起こったのだろうか? 急に体中が熱くなっていくのを穂邑は感じていた。
「あ?・・・あぅ・・・あぁっ!」
「じきに自分を制する事ができず欲のままになるだろう・・・。次は君がコマの番だよ・・キッド。我愛称」
 遠のく意識の中、李の狂ったような笑みと・・人龍、伯芳の悲しい表情が遠のいていく。  
 
 
 冗談じゃねぇぞ。おい!
 横たわったままもう動かない仁木を横目で見ながら沙門はボヤいた。
 足首の鎖は、激しい動いたせいでだいぶ緩くなってきたが手首はビクともしない。
 足もそうだが無理やりやると引きちぎってしまうようだ。
 でもその覚悟もできていた。
 出血は止まる事さえなく溢れて出しており、丈夫な沙門でも意識を保つには既に限界の域に達している。
 【・・・生き地獄を・・・】 李に弄ばれている自分に気づき苦笑した。
 ざまぁねぇや。天下で名を通してた俺が・・こんな事でくたばるとはな。  
 
 
 カタン
 物音がして顔を右に向けるとそこには・・真っ白い布に身を包んでいる穂邑の姿があった。
「ボウヤ?!」
「・・・沙門さん!! ごめん。痛かったでしょ??」
 抱きつき穂邑は、大量のキスを降り注いできた。
 もう二度とボウヤを抱く事はないと思ってたのにな・・。 
 ストレートな自分があんなにタダで女性を抱けていたその行為は、ずっと侮辱と屈辱の連続だった。
・・なのに同性の穂邑のキスだけで、自身が大きく反応している自分。
 青年が自分以外の奴と交わっている姿を見て妙に苛立ち、気が狂いそうになってしまったのも事実だった。
 体が心が、確実に女よりも穂邑を・・求めている。
 なぜ・・穂邑なのか・・? その複雑な感情の答えを沙門は気づけずにいた。
 涙を流しながら穂邑は沙門の耳元で叫んでいる。
「沙門さん・・・好きだよ。愛してる。愛してる・・もうずっとずっとずっと一緒だよ」
「んん?・・・お。おぅ・・」
「止まらないよ僕。こんなに大好きな気持ち。もう絶対あなたを離さない。一生僕のもんだよ!!」
「・・・??」
 李に聞かれたら穂邑の命が危ない。何か様子がおかしい穂邑に沙門は戸惑っていた。
 二人きりだと甘えることも多いが、こんなにズバズバ自分の感情を表にしない。
 ましてや李のアジトで要領のいい穂邑が自分をしくじる真似だけはしない・・・はずなのに・・・。
「好きだ・・。ああ!! もう駄目だ。助けてよぉ。沙門さん・・・こんな体にしたのはあなたのせいだよ。はぁぅ! 止まらない・・・止まらないぃぃ!!!! 沙門さんを頂戴よぉぉっ!!」
 そう発狂すると穂邑は、布を剥ぎ取り沙門に覆い被さると、自分自身にも手をやり始めた。
「ぼう・・・や? ま! 待ちやが・・・れっ! 阿呆が!!」
 沙門のを口に含みながらの自慰行為する穂邑に、戸惑う気持ちは拭いきれなかった。
「な・・何の真似だ。ボウヤッ!!」
「んぐぅ・・ん・・・んぅ」
 沙門が果てる・・の前に穂邑が果てたが、それでも口の動きを止める事はなかった。
「も・・いい。止せ、くそガキ!・・李は・・あいつとはどう・・なったんだ、お・・い?」
「僕一回果てたから次は持久するよ。あなたは僕のモノだ・・・。誰にも渡さない。例え仁木さんにも・・・組長にも・・・あの忌々しい女の人達からも・・・あなたをヤレるのは僕だけだ。」
「!! くそガキ! ・・おめぇー何された?!」
 いつもと全然違う穂邑に気づいたその時、脇から李が現れ沙門を見下ろした。
「てめぇーら・・・ガキに何しやがった!!」
「見ての通りだ・・驚いたよ。キッドは私を振り払い、すぐ君の元に駆けつけた。素晴らしい家来だ。・・・・どうやって洗脳したのだ? 沙門!!」
「・・・ごちゃごちゃ抜かすな・・ガキをおめぇらにくれてやる・・・連れていきやがれ!!」
「!!!! いやだあぁぁよぉ!! 沙門さんは僕だけの物だ! もうどこにもいかない!!」
 狂乱の穂邑に今何を言っても無駄だ。仁木よりも攪乱している青年を止めるのは1つだけ・・・。
「---キッドの欲を満たすことだな、沙門。それ以外に自分を制する事は不可能だ。」
 李はそう言うと、傷心の伯芳の肩を叩くとその場から立ち去ろうした。
「お、おい! まだ決着つけてねぇぞ!李ぃ! 待ちやがれ!!!」
「・・・決着?とうに付いている。キッドにヤラレるなんて本望だろう。・・・ただし制裁はする。10分後にこの部屋は爆破する。」
「・・・なっ! 10分だとぉ?! おめぇぇらぁぁーーーー!!!」
「それまでにこの欲求の塊だらけのキッドを満足させる事が出来るか、----見物だな。」
 李が去った後伯芳は、2人の見える位置にそっと銀の鍵を置き、扉をしめた。
 完全に穂邑と沙門、そして2度と動くことのない仁木の3人だけになった。
「ボウヤ・・!鍵だ。鍵をこっちに持ってこい!!」
「やっと2人きりになれたね。沙門さん。もう2度と離さないよ。大好きだよ・・。」
「そんな場合じゃねぇだろ、ボウヤ! 後からやってやるから、さっさと鍵持って来やがれ!」
「はぁ・・ぁ・・もう弾かれ・・・そうだから・・・入れるね・・・あ、愛・・して・・・る」
「止せ! 目を覚ませ!!くそガキ!! 遣ってみろ!容赦しねぇぞ!! があぁぁ!!時間がんねぇんだよ、ボウヤ! そんなのをずっとため込むんじゃねぇ!!ち、ちくしょ----!!!」
「・・・さん・・・さん、沙門さん・・・沙門さん? 沙門さん!!」
「突っ込むんじゃねぇぇ!!! ボウヤァァ------ッ!!!」
 
 
 

「うわ---っ」
 起きあがり、ふと辺りを見回すと、そこは見慣れた事務所だった。
 そばには書類を持ったまま、驚きの表情で沙門を見ている仁木がいた。
「おめぇ・・・生きてたんか?」
「?? 何言ってる? 仕事中に寝るんじゃねぇよ。定時連絡だ。」
 ドサっとテーブルに書類をおいた。昼下がりの連絡、穂邑からのものだ。
 夢か・・・。ーったく やけにリアルなもんだったぜ。
 汗でびっしょりになった顔を手で拭いさりながら、煙草に火をつける。
 徐に組んでいた足首をさすった。
 夢なくせに・・・ 今でもズギズギしている感じがして思わず苦笑した。
 その姿をみて仁木は唖然とした。
「・・・夢から目覚めてないみたいだな。あんたが取り乱すなんて・・・一体どんな夢を見たんだ?」
 李につかまり、弄ばれ、仁木を狂死させられ・・そして最後は穂邑に------。
「ん?ああ----。」
 とてもじゃないけど口が裂けても言えない夢だ。
 白をきるかのように沙門は書類に目を通した。
「・・・【突っ込むんじゃねぇ ボウヤ!】か、」
 ガタン 仁木がそうつぶやくと沙門は、明らかに動揺した目で睨み返した。
「ふっ・・・早くケリつけないとな・・・俺じゃあ欲求は満たせないだろ??」
「くそが! いいからさっさと情報収集やりやがれぇ!!!」
 ヘイヘイ と不適な笑みを浮かべながら仁木はパソコンのそばに向かった。
 ーったく。面倒くせぇ奴に聞かれちまったもんだぜ・・・
 ソファーに横になり、煙草を吹かしながら天井を見上げた。屈辱・侮辱以外なんでもない夢だったが、穂邑に対する感情は・・心は一体・・?
 ♪♪♪〜
 メール連絡の音楽がなって暫くしたら、急に仁木がケラケラと笑いだした。
「? 気違いでもなりやがったか。・・・阿呆が。」
「バーテン君からのメールさ。あんたへのメッセージ付きだ。くくくっ・・・」
 薄気味悪ぃ奴・・・そう心で想いながら、沙門は穂邑から届いたメールを見た。  

 親愛なる沙門さんへ
 ばかな奴と思っていい。今日僕はとても怖い夢を見ました。
 起きたら涙が止まらなくて・・・今でもまだドキドキしています。
 お願い、無茶だけはしないで。・・僕も慎重にやりますから・・
 でも早く・・・あなたに会いたい・・・です。早く、会いたい。
 こんな事いったら・・・怒りますよね。
 P S.
 でも起きる直前の夢は・・・沙門さん僕を許してくれるでしょうか?
 欲求不満もここまでくると限界かも・・すいません。意味がわかりませんよね。
 内容は・・秘密と言うことで。では、体に気をつけて・・
 
 
 
「ククククク・・・」
「笑うんじぇねぇ! ーったく、何奴も此奴も馬鹿野郎だぜ。」
「一心同体なんだな。」
「あん?」
 訳がわからず振り向くと、フッと優しく微笑んでいる仁木の表情があった。
「バーテン君と・・あんただよ、沙門さん」
 決して馬鹿にしてない顔と言葉に・・・背中がむず痒くなる。
「阿呆が・・。」
 罵声ではあるが照れくさいのが伝わってきて、思わず仁木は穂邑にメッセージを付け足した。  

 お前こそ無茶するな。
 ――― 俺も欲求不満だ。会いたくてたまらん。
 
 最後の1行は死ぬ寸前・・・イヤ、死んでも言わない台詞か・・・。
 また懲りずにソファーで眠り込んでいる沙門を横目で見ながら、仁木は静かに1行を消しさった。
 そして送信をクリックした。  
 
 恋の架け橋なんぞはもう金輪際しねぇからな。・・・お2人さんよ・・・。  
 
 ふと窓を見上げると街並みがオレンジ色に染まり始めていた。
 
 

The End

まず最初にご免なさい。例外的に少〜〜し、文章の意味のtxt弄りました。
ラストが綺麗だっただけに、前後が惜しくて惜しくてほん〜〜〜〜〜〜の少しだけ削りました。許して。ご希望なら、元に戻しますので。
そう言う問題じゃねぇだろう、何だこれは。俺は女に乗っかられて拒んだ覚えはねぇし、誰の女だろうが良い女なら、抱いてやる。ビビりゃしねェよ。
………お前こそ、そう言う問題じゃねェだろうよ。ああ、そうか。また穂邑に突っ込まれネタなんで、ムッとしてるんだ、兄貴。図星ですね、組長。
……(無言)……
  評価点(10点満点) A/T酷点:7沙門怒点:10