「変態ナース おねいさんが教えてあ・げ・る♪」

           by さの


 

 大きな手が、体を弄る。その感覚にびくんとして、穂邑は目覚めた。
 白壁のだだっ広い、四角い部屋に居る。穂邑が最初に捕らえたのは、その視覚だった。
 通常の病室とは何処か違うような気がしたのは、周りに訳の分からない機械がぞろりと並んでいたからだった。何処かというよりはっきり違う。手術室だ、と思い、ぼんやり見ていた風景に、今度は嗅覚が入り込む。
 消毒薬。うっすらとではあるが鼻孔をつく。好きになれない臭いではあった。
 そして触覚。
 自分の体が大きな手に揉み上げられているのに気付く。
 全裸だった。
 大きなシルエットが、その胴にまたがって両手で胴や腕をマッサージしていた。いや、これは愛撫というものではないか?
 驚いて手を払うと、気付いた人物が顔を上げる。隅々まで光の満ちた手術室の中で、顔は見て取れる。穂邑は息を呑んだ。
「やあ。オハヨウ」
「あ…貴女は? ここは…ぼ、僕は何故こんな処に?」
 矢継ぎ早の質問に女は笑う。
 確か李とか言っていた。婦長。そう、婦長、李 朝民、そう言っていた。
 身の丈は男である穂邑よりも遥かに高い。白のナース服の胸元に『婦長』のプレートを付け、薄い唇に、冷ややかな笑みをたたえて穂邑を見下ろしている。胸板は厚く、ナース服の上からでも全ての筋肉が実務用に鍛え抜かれて居る事が見て取れ、広い肩幅のせいで、オールバックにした顔が不似合いな程に小さく見えた。
 彼女は手を休める事はしなかった。何も塗っていなくとも滑らかな手で、穂邑の体を丁寧に愛撫している。
「止…めて下さい。何で僕にそんな…」
 かあっ、と顔が赤くなるのが分かった。穂邑の男の器官が正直に反応している。顔を染めて、目線を反らす穂邑を見て、李はクスクスと笑った。
「恥ずかしがるのは、まだ早いよ。君はこれから私に抱かれるんだ。君が起きるのを待ってた」
 驚いて周りを見渡す。確かにそこは病室では無かった。隣のベッドの鹿野も居なければ、比企も居なかった。病室での記憶が途中から切れていた。訳が分からない。
 腕が胴にかかる。背筋に腕を押し入れて、仰向けになっている穂邑の背中を揉む。背筋に粟が立った。
「止めて下さい…! 鹿野さんは? 僕は貴女の担当の鹿野さんの隣なんです!」
 李が優しく、笑った。
「そう、そして、商談の道具だ」
 商談の道具? それはどう言う意味だったろう。思考が止まっていた。
 不意に鹿野の台詞が蘇る。儂の酒が飲めんのか。頭の中に、白光が閃いた。
 病室で酒盛りを始めて、向こう隣の比企の止めるのも聞かず、無理矢理穂邑にコップを持たせ…
 あの酒の中に何が?
「分かったようだね。私は君を借り受けたんだ。今は、君は私の物だよ」
「そ…んな。僕はモノじゃない。貴女の物なんかじゃない。そんなのは…あ、うああっ」
 大きな手が穂邑の股間をなぞる。片手で彼自身を愛撫し、もう片手は太腿を這い上がる。
「今までずっと、君を探していたんだ。覚えて居ないとは憎らしいな」
「何故…? 僕は貴女を知らない…」
「知っているさ」
「…覚えていません」
「哀しいね。私は忘れた事など無かった」
「会った看護婦さんの顔は忘れない。でも僕の記憶には、貴女の、あ、あっ」
 もう一つの部分を軽く転がされ、声が出た。
「君はあの時、18だと言っていた」
 18歳。盲腸の手術をした頃だ。
 不意に李が身を起こした。その手にある物を見て、穂邑は息を呑んだ。手術用の剃刀だった。
 体のすくんだ穂邑の股間に剃刀が当てられる。ぞり、と音がして、毛が剃られる。
 穂邑が眉根を寄せる。一つの記憶が蘇る。
「その音は…」
 李は口の片方の端を引きつったように持ち上げる。これがこの女の満足の笑みだと言う事が、不思議ながら穂邑にも伝わった。
「やっと思い出してくれたようだね。そう、私が君に初めて逢った時に君の毛を剃毛したときの音だ」
「あの時の看護婦さんが、貴女?」
 18にもなって女の人に下の毛を剃ってもらうなんて、恥ずかしくて相手の顔も見られなかったのだ。
「そうだ。あの時私は、初めて剃毛した人に見とれた。そしていつか、胸の中に残り続ける君を探していた。一日たりとも、君の面影を忘れる事は無かったよ。探して、探して、5年だ。やっと、見つけた」
 長かった日々を反芻するかのように、李が瞳を閉じる。
「君ともう一度、剃毛プレイをするために」
「ヘンタイーーーー!!!!」
 穂邑は絶叫した。

 中略(笑)

 どのくらい眠ったのだろう。
 ぼんやりと目を覚ます。
 主治医の仁木が覗き込んでいた。
「あ、先生…」
「昨夜は大変だったな。安心したまえ。李君には辞めてもらった。鹿野さんと裏取引したらしいな」
 隣のベッドから、鹿野の姿も消えていた。
「それで君の担当だが、万一を考えて、総婦長をお願いしたから」
 仁木の背後から、影が落ちる。長身の女が後ろに一人、立っていた。
 平均より、やや長めの顎。彫りの深すぎる顔には優しい印象は微塵も無く、ナースキャップの下の髪は引っ詰めのアップである。三白眼は、相手の弱点を見透かすように鋭かった。
「総婦長の沙門君だ」
「いやあああーー!」
 穂邑の悲鳴が病室にこだました。

 
 

終わり

さ、さのさんの所でもっと!

つーかこれ、李イジメかあ? 原作の文章ちょっと替えれば、ほうら変態の出来上がり って言う……。(と言うか、原作で李は生変態だったって事か)原作イジメ?
婦長? 私は女か? しかも剃毛プレイ………それだけで楽しいとは思えんが……
李さん。そうじゃないでしょ。プレイそのものよりも、貴方自身が弄られてる事に反応なさいよ。
私は私だ。別に何も変わらない。それより中途半端は私は嫌いなのでな。プレイするなら徹底的にして貰わん事には納得は出来んな。剃毛の後は何かね。
………違うだろっ…つーか、あんたやっぱ生変態……。
  評価点(10点満点) A/T酷点:7李怒点:5