The Mission Impossible 6

           by ゆうか


 

 今日は穂邑が店長を務めるバー『KID』の定休日。
 彼はいつものように、渋谷のマンションの一室で一人で膝を抱えて過ごしていた。
 
 午前2時過ぎに、マンションの一階の共同玄関のインターホンが鳴った。
「オイ!俺だ。」
「沙門さんだね。開けるよ。」
 穂邑は、冷蔵庫に向かい手早くチューブを一本取り出すと、それをベットルームのサイドテーブルの引き出しに入れた。
 そこにはもう一本同じラベルの貼ってあるもうすぐ使い切りそうなチューブが入っていた。 間もなく玄関に厚手のコートを着た顎に傷のある三白眼の男が現れた。
「沙門さん。いらっしゃい。」
 穂邑は玄関に駆け出してこう言うと同時に男の首に抱きついた。
「大好きだよ。沙門さん。」
 無愛想で暴れん坊で我侭で人の言う事を聞かない極悪人。
 でも男なら皆憧れる男気とちょっとした時に見せる優しさ。あなたのためだったら何だってやれるさ。
 そのまま背伸びした状態で、青年は男のごつごつした顔に頬擦りした。
「おっ!止めろ!」
「今日は来てくれると思ってたんだ。仁木さんが沙門さんの事開放してくれるって言ってたし。」
 「あの眼鏡が余計な事を。」
 
 男は、ふんっと言うとコートと背広を無造作に脱ぎながらリビングに入りソファーにどさりと座った。
 穂邑は沙門のコートと背広を受け取りハンガーに掛けながら言った。
「だってもう3週間も会ってないんだよ。僕の事忘れちゃったのかと思ったよ。僕の事思い出させてあげるから。」
 青年は濡れた赤い唇を少し尖らせて言い募った。
 男は青年の匂いたつ色香と黒目がちで強烈な艶をたたえた瞳に吸い込まれそうな気がした。
 青年は男が座る正面に立ち、白い手で男の顔を挟みそっと口唇を塞いだ。
 まず上唇を舐め次に下唇を舐めて唇の隙間から舌を侵入させた。
 いつものようにきつい煙草と男の香りに噎せ返るようであった。
 歯列を丁寧になぞり口腔をゆっくりと犯していった。
 男も青年の舌を迎え入れ舌を絡めて貪るように味わいあった。
 穂邑は沙門のスラックスの前に手をかけた。
 力を持ち始めているそれを布越しに口に含み息を吹きかけた。
「むうぅぅ……ん。」
「沙、門、さん……。今日は、僕があなたを抱きたい……。」
「お前が俺をヤるってか?」
 沙門は、呆れたように笑っている。
「ヤれるもんならヤッてみろ。ボウヤ。」
「ええ?いいの?」
 穂邑は嬉しげに言うと、沙門の手を取りベッドルームに引っ張っていった。
 
 沙門をベットに座らせ、自ら部屋着代わりに着ていたTシャツとズボンと下着を脱いだ。
 沙門もシャツのボタンをはずし、スラックスを下ろした。
 青年は、男の一物を取り出すと白く細い指を絡ませてそれに舌を這わせた。
 青年の口ではその全てを咥える事はできない。
 丁寧に丁寧に裏側から舐め上げて行く。
 そして横から咥える形で刺激する。
「うっ……。」
 沙門は、穂邑の漆黒の髪に指を入れ頭を掴み引き剥がした。
 ベットに横たわると青年の細い腰を抱き寄せた。
 青年はサイドボードの引き出しから2本入っていたラブゼリーと書かれたチューブの小さい方を出した。
 沙門は穂邑の向きを変え後ろから彼の肉をわけ硬く閉じた蕾にゼリーを擦り付けた。
「んあああっ!」
  ほんのちょっとの刺激でも感じやすい身体には辛い。
 男は青年の唇を奪う。青年は舌で男を迎え入れ、舌を絡めとっていく。
 蕾がふっと緩んだところに、男はその太い指をねじ込んだ。
「うああっ…あっ、ああっ!やああっっ…!」
 穂邑は男の指の侵入で絶叫する。。
 特に沙門の身体は指にしろ刃物にしろ尋常でないサイズなので、慣れろと言う方が無理である。
「ひぃ……。沙…門…さん。もっと優しくして。」
 男はいつもの事だが、野獣のごとく青年の懇願など聞きはしない。
 指を2本まで増やし、青年の前立腺を攻めてくる。
 と同時に青年の前にも刺激を始める。
 穂邑は、身体を捻って、沙門の足を掴み下を口に咥える。
 両手を添えて、舌を使い丁寧に裏側から舐めあげる。
 男がスポットを刺激するたびに、青年はくぐもった声で喘ぎ声をあげる。
「う…ぐっっ。うっ…ああぁ!」
「いやっ……ああぁ! イッちゃうイッちゃう!沙門さん、早く……沙門さぁ、あん!」
 沙門は、穂邑の頭を鷲づかみにすると自らのの身体から剥ぎ取り、身体の向きを変えさせ両足を肩にかけてその後ろへ刀を下した。
「うあああああ!痛いっ……っっ!うああっ……っ!」
「ねぇ。もうちょ、っと、優しく、して…」
 沙門は動きを止め、穂邑の胸の突起に舌を這わせた。青年の背中は跳ね上がり快感で睫を濡らす。
「あ、ああん!やああっっ…」
 沙門は性器の締め付けが少し和らいだので、再び青年を揺すり始めた。
「いやっ…、あん!ああっ…あ、あん!」
「いいっ!沙門さんっ…。好きだよぉ。大好きだ!ううっ…、沙、門さん!」
「くうっ……ボウヤ! う、ううっ…」
「んあああん! あ、あ、ああんんっ、沙門さぁ、ん。沙門さんっ!」
「ボウヤ!ボウヤっ…!」
 青年の中で沙門のものが容積を増して、絶頂を迎えた。
 青年も、ほぼ同時に男の腹に果てた。
 
 
 ハアハアと息を荒げながら青年は言った。
「約束だったよね。沙門さんのバージンいただきますよ。」
 青年は言うと、サイドボードの引き出しを開けた。
 引き出しの中にはもう一つ、満杯に入っているラブゼリーと書かれたチューブが入っていた。
 それを取り出すと沙門の逞しい片足を持ち上げ、蕾にチューブの先を当てると勢いよく中身を全部注入した。
 「馬鹿野郎!なにするんだ!」
 沙門は後ろの冷たい感覚に反射的に穂邑を突き飛ばした。穂邑はベッドから転げ落ちて肘を床に打ちつけた。
「痛っっ……。冷たかった?ごめんね沙門さん。こんなの沙門さん慣れてないもんね。でも、このくらい入れないとあなたの身体には効きそうにないから。」
 沙門はベットから起き上がり立ち上がろうとした。
 すると突然眩暈に襲われた。
「な、なんだ!キサマ、なにしやがったんだ!」
 沙門は穂邑に掴みかかろうとするが力が入らない。手を伸ばしたままどさっとベットに崩れ落ちた。だんだん青年の顔が遠くに見えてくる。
「大丈夫だよ沙門さん。僕を信用して。ちょとだけ眠っていて頂戴。」
「麻酔薬を使ったんだよ。新宿のあの先生に貰っておいたチアミラールナトリウムを空のチューブの中に入れておいたんだ。」
 チアミラールナトリウム。いわゆる静脈麻酔剤の一つであるがこの製剤はは経直腸投与も行われている。
 
 
 僕、穂邑霧人の裏の顔は、エージェント。
 任務を遂行するためには、どんな困難にでも立ち向かうんだ。

 今回のターゲットは、沙門さん、あなただよ。
 あなたの背中の傷に埋め込んであるカプセルを頂きます。
 カプセルの中には、新宿大学病院の先生が研究していた新種の病原体の遺伝情報が入っている。
 これがあれば、有効な治療法が発見されて沢山の人の命が助かるよね。
 でも、世の中にはこの情報で金儲けしようって悪い奴がいるんだ。
 先生はちょうどその時スパイに命を狙われてたから、情報をカプセルに入れて、たまたま救急室に運ばれてきた殺しても死ななさそうな沙門さんに託す事に決めたんだ。
 そして、そのカプセルをあなたが負った傷に埋め込んだのさ。
 スパイの攻撃はあなたに移ったけれど、いつも抗争の中にいるあなたにとってはどうってことなかったみたいだね。
 先生は生き延びた。
 あなたも、もちろんこうして生きている。
 でも、もうそろそろその情報を使わなくてはいけない時期がきたみたいなんだ。
 先生の思惑どうりにあなたは喧嘩や抗争で頻繁に救急外来を訪れるけど、目的の古傷にメスを入れられるような機会はなかなかないんだね。
 あなたは決して麻酔をかけさせなから新しい傷のついでに古い傷に手をつける事はできない。
 こんな事ではカプセルに辿り着くまでに何年かかるかわからない。
 その間に大勢の人が亡くなってるんだよ。
 あなたは、こんな事説明してわかってもらえるような人じゃないし。それで僕に依頼がきたんだ。
 あなたの命を守るためだから、僕はやるよ。
 

 穂邑は沙門が眠りにつき、ちゃんと呼吸しているのを確認して、目的の作業に取り掛かった。 沙門をうつ伏せにし、その傷だらけの広く逞しい背中を上にした。
 その背中は実戦によって鍛えられた厚い筋肉をまとっていた。自分のそれとはあまりにも違う。
 数限りない殺戮の果て、死と背中合わせの状況下でこの野獣はぎりぎりの所で生を勝ち取ってきた。
 そしてその代償として多くの傷跡をその全身に残している。これはこの男の勲章である。
 穂邑は沙門の背中を抱きしめ、そっと指を沿わせてみる。
 温かい。この男の心のようだと穂邑は思った。

「僕、沙門さんの背中の地図を作ったんだよ。」
 以前沙門が寝てる間に悪戯に撮った背中の写真とX-線の写真を合わせて作られた傷跡によってできた実寸大の地図。
 その地図には沙門の背中と同じ傷が描かれ、その右側にある大きい傷の一つに直径1センチほどの印が付けられている。
「ここの印の皮膚から2.5センチの深さの所に、大事なカプセルが埋められているんだ。」
 先程チューブを取り出した引き出しから黒いマジックと消毒液とアイスピック2本とメス1本を取り出した。1本のアイスピックは1センチほど先を曲げてある。
 地図と同じ傷を探してマジックで地図にある印の所にマーキングした。
 この印を中心に丁寧に消毒した。
 そして、商売柄手に慣れた直線のアイスピックの柄を持つと印の場所に慎重に皮膚に垂直にピックを突き刺した。
「ぐっ……」
 青年は男の声に驚いた。手を止めて男の様子を確認するが起きる気配はない。
 そのまま慎重にアイスピックを進める。2.5センチの所まで進めるが何の感触もない。
「ふうっ。」
 額から汗が流れてくる。深く刺すとその下にある肺を刺してしまう。
 麻酔が切れると暴れ出すに違いない。急がなければ。
 手で皮膚の上からカプセルを確認しようとするが筋肉が厚く全くわからない。
 一度アイスピックを抜いて少し違う方向に刺してみる。
 カチッ…。アイスピックの先に何か硬い物が触れた。
 どうやら目的のカプセルにヒットしたらしい。ホッとした。
 メスで皮膚に2センチほどの傷を付けて、そこから先を曲げたアイスピックを入れてみる。もう一つのピックと合わせて器用に獲物を吊り上げた。
 それは半透明のカプセルだった。中にフイルムらしきものが入っているようだ。丁寧にこれを引き出しの中にしまう。
 同時に新宿の先生から貰っておいたフィブリン糊を取り出した。医療用の接着剤。皮下の組織を縫わずに合わせる事ができる。人間もプラモデルみたいだな。。
 消毒して糊をつけて1分ほど押さえると傷はほとんど目立たなくなった。
 とりあえずバンソウコウで皮膚を止めたら手術は終了。
 

「終わったよ、沙門さん。起きて!」
 タオルで背中を丁寧に拭き、仰向けにさせた。
「うっ!」
 新しい傷が下になったので痛みで目が覚めたらしい。男は顔を顰めて少し目を開けた。眩しそうだ。
「傷に当たっちゃったんだね。ごめんね。沙門さん。大丈夫?」
「ぬおおおお〜〜〜〜〜!!」
 沙門は突然起き上がると、彼の顔を覗き込んでいる穂邑に鉄拳を下した。
 穂邑はベッドに倒れこんだ。
「俺のケツに何しやがった!!」
「だって、沙門さん、ヤッていいって言ったもん!でもゼリーを入れたらいきなり引っくり返ちゃったんだよ。アレルギーかなぁ?」
「だから、僕、もうちょっとの所ででヤりそこなったよ!もう、一回ヤる?」
 穂邑は笑いながら悪びれる風もなく、沙門の身体に腕を回して言った。
「そしてねぇ。沙門さん、引っくり返った拍子にそこにあったナイフで背中を少し刺しちゃったから、バンソウコウを貼っておいたよ。」
「ん??あ、そうか?そういや〜背中がちょっと痛いかな?ふああ〜〜〜〜〜!」
「疲れてるんだね。じゃぁ、今日の所は許してあげる。お休みなさい、沙門さん。」
 そう言うと、穂邑は沙門の唇に触れるだけのキスをした。
「お休、み……」
 沙門はまだ身体に麻酔薬が残ってるから、まだいくらでも眠れるようだ。すぐに寝息をたて始めた。
 

 今日の事、明日になれば忘れてくれるかな?
 思い出してすっごく怒っちゃうかもね。
 でも、怒られてもいいや。
 沙門さんに怒られるの、僕、大好きだから、怒ってよ。
 こっぴどく怒られてみたいよ。
 すっきりするだろうなぁ。

 もうすぐ依頼人がカプセルを取りに来るから、そしたら今回の任務は終わりだね。
 お疲れ様でした。

 お休み、沙門さん。

 

 

The End

何ででしょうか。穂邑がやるとこれがどうしても「スパイ」ではなく、「お医者さんごっこ」に見えるんですが。私が悪いんでしょうか。
どう見てもお医者さんごっこだろうが、クソガキが。人が寝ている間に俺の背中で宝探しかよ。
……素直になんなさいよ。突っ込まれて無くて良かった、って思ったでしょう本当は。「俺のケツに何しやがった」だもんね。男性にとってはやっぱ、最後の砦らしいからなぁ。
女みてぇにしょっちゅう野郎の汚ねェもん、咥え込んでるのとは訳が違うんだよ。
 …!! てめぇ、どう言う言い種だ、断固抗議だこのクソヤクザ!! そう言う感覚だからお前、女に酷い奴なんだ。畳の上で死ねると思うなよ! お前が酷い点入れてやる!
  評価点(10点満点) A/T酷点:10沙門怒点:7